日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:大塚 宏徳(神戸大学海洋底探査センター)、浜橋 真理(山口大学 国際総合科学部)

14:15 〜 14:30

[SCG48-13] 潮岬海底谷の潜航調査に基づく南海付加体発達史の更新と大地震セグメント境界の地質学的実態解明:「よこすか」YK23-10S航海報告

*山口 飛鳥1福地 里菜2濱田 洋平2高下 裕章4川村 喜一郎5井尻 暁6奥田 花也3浜橋 真理5照井 孝之介1細川 貴弘7辰巳 寛二6芦 寿一郎1笠谷 貴史3木下 正高1亀尾 浩司8久保田 好美9辻 健1白石 和也3木村 学3 (1.東京大学、2.鳴門教育大学、3.海洋研究開発機構、4.産業技術総合研究所、5.山口大学、6.神戸大学、7.高知大学、8.千葉大学、9.国立科学博物館)

キーワード:しんかい6500、南海トラフ、付加体

世界の沈み込み帯の中で、南海トラフは付加体の発達する代表的な沈み込み帯であり、南海トラフ前弧域の大構造とその発達史の理解は、海溝型地震の発生場、および沈み込み帯のダイナミクスを理解する上で重要である。南海トラフにおける近年の深海掘削・反射法探査の成果をふまえて、東南海・南海地震のセグメント境界付近に位置し、付加体断面が露出する潮岬海底谷沿いの海底地質調査・サンプリングを「しんかい6500」で行うことを目的として、2023年6月15日~23日に「よこすか」YK23-10S航海が行われた。本発表ではその予察的結果を報告する。

YK23-10S航海では紀伊半島沖の潮岬海底谷において「しんかい6500」による潜航調査を実施し、南海トラフ付加体および前弧海盆堆積物の採取、プッシュコアラーによる表層堆積物および冷湧水の採取、地形調査・地磁気観測・熱流量観測などの地球物理調査を行った。海底谷の崖沿いに行った4潜航(Dive 6K#1699, 1700, 1702, 1703)では、付加体を構成すると考えらえる泥岩、斜面堆積盆または前弧海盆最下部をなすと考えられる礫岩、前弧海盆堆積物と考えられる砂岩泥岩互層を視認・撮影し、合計104個・195 kgの岩石試料を採取した。また、礫岩と砂岩泥岩互層の境界露頭を4潜航全てで確認した。下船後の微化石分析結果からは、礫岩からCN9帯(8.29–5.53 Ma)の年代、前弧海盆堆積物基底部から前期-中期更新世(0.91-0.43 Ma)の年代を示す石灰質ナノ化石がそれぞれ得られた.今後、浮遊性有孔虫化石による年代測定も併せて検討することで、南海付加体および前弧海盆の発達史を更新できると期待される。

海底谷を縦断した1潜航(Dive 6K#1701)では、「しんかい6500」に搭載したサブボトムプロファイラーによる海底下構造探査とプッシュコア、「よこすか」による海底地形調査を総合し、海底谷の発達過程と堆積物移動に関する知見が得られた。Tsuji et al. (2013, Tectonophysics) は、潮岬海底谷直下に高密度なドーム状岩体が存在することを反射法地震探査から指摘しており、このドーム状岩体は中期中新世の火成複合岩体で、東南海・南海地震の破壊領域にも影響を与える可能性が指摘されている(Kimura et al., 2022, G-cubed)。本航海では、「しんかい6500」に搭載した熱流量測定装置(SAHF)による地殻熱流量測定を9地点で行った。今後、熱流量測定結果、および「よこすか」搭載の三成分磁力計・プロトン磁力計による広域地磁気観測に基づき、火成岩体の存在について多角的に検討を行う予定である。

本航海は海況に恵まれ、予定していた5潜航を完遂することができた。今後、乗船後研究の進展により、南海付加体と熊野海盆の形成初期の発達史、およびセグメント境界の実態を物質科学的に解明することが可能になると期待される。「しんかい6500」による広域の海底調査と大量の試料採取は、反射法地震探査などの地球物理観測と鉛直1次元の深海掘削を、スケールを越えてつなぐ上で非常に強力なツールである。