17:15 〜 18:45
[SCG48-P06] 海底圧力計データを用いた房総沖スロースリップのすべり分布の推定
キーワード:海洋モデル、海底圧力計、マルチチャンネル特異スペクトル解析、スロースリップ
1.はじめに
スロースリップ(SSE)は、地震波を出さずに断層がゆっくりすべる現象で、GNSS観測が始まって以来プレート境界等で多く発見されている。SSEの発生メカニズムを解明することは、プレート境界での応力蓄積解放過程を理解する上で重要である。SSEの多くは海底下で発生しているので、海底圧力計(OBP)による海底上下変動の連続観測が有効となる。しかし、OBPの観測データには、地殻変動以外に、海洋潮汐、海洋変動、機器の永年変化(ドリフト)などが記録されていて、これらを適切に取り除く必要がある。清水、他(JpGU、2021)、佐藤、他(地震学会、2022)、佐藤、他(海と地球のシンポジウム、2023)は、観測データと海洋モデルをマルチチャンネル特異スペクトル解析(MSSA)を用いて成分に分解し、相関のよい成分のみを用いて観測データから海洋変動を取り除くという方法を開発した。これは、海洋モデルの不完全さを取り除き、より観測データから地殻変動を取り出しやすくする方法である。本研究では、上記方法により抽出したSSEによる変動を用いて、房総沖SSEのすべり分布の推定を行った。
2.方法
解析に使用した更新された海洋モデルは、気象庁気象研究所が開発した日本沿岸海況監視予測システム再解析データセット 「MOVE/MRI.COM-JPN Dataset」(広瀬、他、気象研技術報告、2020)である。OBPデータは房総沖SSE領域で観測したデータ(2013-2015、2016-2018)を使用した。このデータには、2014年と2018年のSSEが含まれている。
OBPデータからは、潮汐モデル「Baytap08」(Tamura et al. GJI, 1991)を用いて潮汐成分を取り除き、直線フィットでトレンドを取り除いた。潮汐とトレンドを除いたデータと海洋モデルを用いてMSSAを行い、成分ごとにデータとモデルの相関を出し、相関の良い成分のみを用いて海洋モデルを再合成し、これを潮汐とトレンドを除いたデータから差し引いた。その後、SSEによる変動や季節変動、2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動等を見積もるため、パラメトリックモデルを当てはめ、SSEによる変動の抽出を行った。
房総沖SSEのすべり分布の推定のため、上記OBPの上下変動データと国土地理院による日々の座標値(F5解)による陸上のGNSSデータを用いた。GNSSデータからは、トレンドと季節変動を取り除き、SSEによる変動を抽出した。この変動データを用いて、すべり分布がなめらかである、すべり方向がプレート運動方向に近い等の拘束条件を与えてSSEのすべり分布の推定を行った。拘束条件の強さはABICを用いることで客観的に求めた。
3.結果
潮汐とトレンドを除いたOBPデータから再合成した海洋モデルを差し引いたデータは、単純に海洋モデルをそのまま差し引いた場合より変動の標準偏差が小さくなっていて、本研究の方法によって海洋変動がよりよく除けている可能性がある。
房総沖SSEのすべり分布については、OBPデータを入れた結果と陸上GNSSデータだけの結果を比較した。推定誤差は、OBPデータを入れた結果のほうが海側で小さくなり、より精度よく求められていることがわかる。すべり分布は、2018年のSSEに対しては、OBPデータを入れた結果は、GNSSデータだけの結果と比べて全体のすべり量が下がり、すべりが海側に張り出すようになった。
謝辞
本研究の遂行にあたり、海洋研究開発機構「白鳳丸(KH13-5)」、「なつしま(NT15-12)」、海洋エンジニアリング(株)「第三開洋丸」、「第五開洋丸」を使用させて頂きました。各船長以下、乗組員の方々に感謝します。OBPデータと海洋モデルのMSSAに関しては、鈴木雅博氏の千葉大学理学部地球科学科卒業論文の結果を参考にしました。すべり分布の推定では、国土地理院による日々の座標値(F5解)を使用しました。本研究は文部科学省の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援および科研費(25287109, 23K03541) の補助を受けました。
スロースリップ(SSE)は、地震波を出さずに断層がゆっくりすべる現象で、GNSS観測が始まって以来プレート境界等で多く発見されている。SSEの発生メカニズムを解明することは、プレート境界での応力蓄積解放過程を理解する上で重要である。SSEの多くは海底下で発生しているので、海底圧力計(OBP)による海底上下変動の連続観測が有効となる。しかし、OBPの観測データには、地殻変動以外に、海洋潮汐、海洋変動、機器の永年変化(ドリフト)などが記録されていて、これらを適切に取り除く必要がある。清水、他(JpGU、2021)、佐藤、他(地震学会、2022)、佐藤、他(海と地球のシンポジウム、2023)は、観測データと海洋モデルをマルチチャンネル特異スペクトル解析(MSSA)を用いて成分に分解し、相関のよい成分のみを用いて観測データから海洋変動を取り除くという方法を開発した。これは、海洋モデルの不完全さを取り除き、より観測データから地殻変動を取り出しやすくする方法である。本研究では、上記方法により抽出したSSEによる変動を用いて、房総沖SSEのすべり分布の推定を行った。
2.方法
解析に使用した更新された海洋モデルは、気象庁気象研究所が開発した日本沿岸海況監視予測システム再解析データセット 「MOVE/MRI.COM-JPN Dataset」(広瀬、他、気象研技術報告、2020)である。OBPデータは房総沖SSE領域で観測したデータ(2013-2015、2016-2018)を使用した。このデータには、2014年と2018年のSSEが含まれている。
OBPデータからは、潮汐モデル「Baytap08」(Tamura et al. GJI, 1991)を用いて潮汐成分を取り除き、直線フィットでトレンドを取り除いた。潮汐とトレンドを除いたデータと海洋モデルを用いてMSSAを行い、成分ごとにデータとモデルの相関を出し、相関の良い成分のみを用いて海洋モデルを再合成し、これを潮汐とトレンドを除いたデータから差し引いた。その後、SSEによる変動や季節変動、2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動等を見積もるため、パラメトリックモデルを当てはめ、SSEによる変動の抽出を行った。
房総沖SSEのすべり分布の推定のため、上記OBPの上下変動データと国土地理院による日々の座標値(F5解)による陸上のGNSSデータを用いた。GNSSデータからは、トレンドと季節変動を取り除き、SSEによる変動を抽出した。この変動データを用いて、すべり分布がなめらかである、すべり方向がプレート運動方向に近い等の拘束条件を与えてSSEのすべり分布の推定を行った。拘束条件の強さはABICを用いることで客観的に求めた。
3.結果
潮汐とトレンドを除いたOBPデータから再合成した海洋モデルを差し引いたデータは、単純に海洋モデルをそのまま差し引いた場合より変動の標準偏差が小さくなっていて、本研究の方法によって海洋変動がよりよく除けている可能性がある。
房総沖SSEのすべり分布については、OBPデータを入れた結果と陸上GNSSデータだけの結果を比較した。推定誤差は、OBPデータを入れた結果のほうが海側で小さくなり、より精度よく求められていることがわかる。すべり分布は、2018年のSSEに対しては、OBPデータを入れた結果は、GNSSデータだけの結果と比べて全体のすべり量が下がり、すべりが海側に張り出すようになった。
謝辞
本研究の遂行にあたり、海洋研究開発機構「白鳳丸(KH13-5)」、「なつしま(NT15-12)」、海洋エンジニアリング(株)「第三開洋丸」、「第五開洋丸」を使用させて頂きました。各船長以下、乗組員の方々に感謝します。OBPデータと海洋モデルのMSSAに関しては、鈴木雅博氏の千葉大学理学部地球科学科卒業論文の結果を参考にしました。すべり分布の推定では、国土地理院による日々の座標値(F5解)を使用しました。本研究は文部科学省の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援および科研費(25287109, 23K03541) の補助を受けました。