[S-CG48] 海洋底地球科学

[SCG48-P30] 南部沖縄トラフ背弧海盆における表層堆積物中の間隙水の化学的及び同位体的特徴

*土岐 知弘^1,2、宮城 裕¹、平良 優佳¹、宮里 香江¹、鹿児島 渉悟³、井尻 暁⁴、宮嶋 佑典⁵、新城 竜一^1,2、大坪 誠⁵、木下 正高⁶、KH-23-11 乗船研究者一同 (1.琉球大学理学部、2.地球研、3.富山大学、4.神戸大学、5.産総研、6.東大地震研)

キーワード：化学組成、同位体組成、間隙水、南部沖縄トラフ、背弧海盆

沖縄トラフはフィリピンプレートの沈み込みに関連したリフティング帯であり，中軸部には複数の地溝帯が雁行状に形成され，軸部には海底熱水活動が発見されている。しかし，周辺の地温は極めて低く，熱水循環に海水が涵養されているのか，プレート自体が冷たいのか，いまだに明らかになっておらず，地熱構造が極めて複雑な海域である。本研究では，表層堆積物中の間隙水の化学組成を調べ，地熱構造に影響を与える最も重要な因子と考えられる海底熱水活動の影響を評価することを目的としている。
KH-23-11では，沖縄トラフ南部に位置する与那国地溝の軸部と西端部，八重山地溝の軸部の2地点の計4地点から，長さ4 mのピストンコアを用いて堆積物コアを採取し，温度測定のために複数の温度計を取り付けた。船上で油圧プレスを用いて堆積物から間隙水を抽出し，船上でpHとアンモニア濃度を測定した。溶存無機炭素（DIC），陰イオン（Cl^-，Br^-及びSO₄^2-）及び主要元素（Na，Mg，Ca及びK）の濃度は陸上で分析を行った。
すべての地点の間隙水サンプルの化学組成は，通常の海水と同様であった。アンモニア濃度は深度とともに増加する傾向があったが，DICは深度や場所によって変化しなかった。一方，与那国地溝の西端では海底下の地温が非常に高かった。
本研究で調査した地点では，深さ方向への硫酸イオンの減少が見られないことから，有機物による硫酸還元すら起きていないことが示唆された。このことは，調査地点がトラフの底部に位置し，堆積物中の有機物の含有量が極めて少ないことを示唆している。これらのことは，海底下からのメタン供給もなされていないことを示唆しており，熱水の影響はまったくないと考えられる。一方，一部の地域で地温が高いのは，熱の供給は始まっているものの，岩石と熱水の反応による熱水の形成までにタイムラグがあることを示しているのかもしれない。
今後，与那国地溝の西端部をさらに調査し，高い地温の原因を明らかにしてゆきたい。