11:00 〜 11:15
[SCG49-02] 第一原理分子動力学と機械学習による超臨界CO2流体と水の界面モデリング
キーワード:第一原理分子動力学、機械学習、カーボンニュートラル、液-液界面
大気中への二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする“カーボンニュートラル”は,地球温暖化を抑制する重要な活動である.特にCO2を回収し地下に貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)は,その一端を担うアプローチとして注目されている.CCSでは分離膜等によるCO2回収からキャップロックでの毛管トラップまで,プロセス全体にわたってCO2に係る界面現象の制御が重要であり,そのためCO2の界面吸着反応の分子レベルでの理解が不可欠である.しかしながら,分子科学的アプローチによりCCSプロセスを検証する試みは少なく,そのためCCSにおけるCO2界面現象を分子シミュレーションにより明らかにすることは,CCSの促進及び効率化,即ちカーボンニュートラルに大きく貢献することが期待される.そこで本研究ではCCSの“Storage(地下貯留)”プロセスに注目し,第一原理及び古典分子動力学(MD)シミュレーションにより高温高圧下でのCO2流体-水共存系の界面挙動を明らかにする.地下では水が多く存在し,CO2流体と水の挙動は地下貯留制御に大きく影響する。本研究では第一原理MDと古典MDの挙動を比較し,CO2-水共存系で広く使われている力場の有効性も議論する.
第一原理MDと古典MDの結果について,(1) 密度プロファイル,(2) 界面での分子配向,(3) 水分子の構造揺らぎ,の3つの観点から比較を試みた.密度プロファイルに関しては,第一原理MD及び古典MDのどちらでも流体CO2と水の共存状態を実現でき,明確な界面が形成されることを確認した.しかしながら約20 MPa下では,第一原理MDでの界面近傍における高いCO2密度が,古典MDでは再現できないことがわかった。これは,CO2分子と水分子の相互作用の評価に起因すると考えられ,特に古典力場では引力相互作用が過小評価されていることが直接の要因と思われる.
界面での分子配向に関しては,界面領域の水分子とCO2分子の配向分布を構築し,どのような配向が最も出現しやすいかを調べた.水分子は界面に並行に配向する傾向が見られ,さらに圧力の影響は少ないことがわかった.一方CO2分子は,水相サイドとCO2相サイドで異なる傾向が見られた.このような振舞いは第一原理MDでも古典MDでも同様に確認された.
水分子の構造揺らぎに関しては,多次元尺度法(MDS)に基づく解析を行った.水分子の双極子モーメントの3次元ベクトルを各時刻で評価し,全水分子の双極子ベクトルでその時刻の系の瞬間構造(状態)を表現することにした.このデータをMDSで解析することで,各時刻の構造の“近さ“を低次元空間(ここでは2次元)での距離で近似的に評価し,構造揺らぎを視覚化した.その結果,第一原理MDでは複数のクラスタがMDS空間で形成され,時間とともに大きな構造揺らぎが生じていることがわかった.一方,古典MDではこのような揺らぎは確認できなかった.更に,時間依存PCA [1] により構造揺らぎにおける2状態間の遷移過程を解析したところ,水分子の再配向における協同的なモードが遷移過程で大きく変化していることが明らかになった.このような構造揺らぎには界面領域の水分子が大きく寄与していることがわかり,area compressibility などの界面に関する高次な熱力学量の予測には,第一原理計算の精度が求められる可能性が示唆された.
[1] T. Morishita, J. Chem. Phys. 155, 134114 (2021).
第一原理MDと古典MDの結果について,(1) 密度プロファイル,(2) 界面での分子配向,(3) 水分子の構造揺らぎ,の3つの観点から比較を試みた.密度プロファイルに関しては,第一原理MD及び古典MDのどちらでも流体CO2と水の共存状態を実現でき,明確な界面が形成されることを確認した.しかしながら約20 MPa下では,第一原理MDでの界面近傍における高いCO2密度が,古典MDでは再現できないことがわかった。これは,CO2分子と水分子の相互作用の評価に起因すると考えられ,特に古典力場では引力相互作用が過小評価されていることが直接の要因と思われる.
界面での分子配向に関しては,界面領域の水分子とCO2分子の配向分布を構築し,どのような配向が最も出現しやすいかを調べた.水分子は界面に並行に配向する傾向が見られ,さらに圧力の影響は少ないことがわかった.一方CO2分子は,水相サイドとCO2相サイドで異なる傾向が見られた.このような振舞いは第一原理MDでも古典MDでも同様に確認された.
水分子の構造揺らぎに関しては,多次元尺度法(MDS)に基づく解析を行った.水分子の双極子モーメントの3次元ベクトルを各時刻で評価し,全水分子の双極子ベクトルでその時刻の系の瞬間構造(状態)を表現することにした.このデータをMDSで解析することで,各時刻の構造の“近さ“を低次元空間(ここでは2次元)での距離で近似的に評価し,構造揺らぎを視覚化した.その結果,第一原理MDでは複数のクラスタがMDS空間で形成され,時間とともに大きな構造揺らぎが生じていることがわかった.一方,古典MDではこのような揺らぎは確認できなかった.更に,時間依存PCA [1] により構造揺らぎにおける2状態間の遷移過程を解析したところ,水分子の再配向における協同的なモードが遷移過程で大きく変化していることが明らかになった.このような構造揺らぎには界面領域の水分子が大きく寄与していることがわかり,area compressibility などの界面に関する高次な熱力学量の予測には,第一原理計算の精度が求められる可能性が示唆された.
[1] T. Morishita, J. Chem. Phys. 155, 134114 (2021).