日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 機械学習による固体地球科学の牽引

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(北海道大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

17:15 〜 18:45

[SCG50-P04] 経験的知識を活用した深層学習による地震動予測式の検討

*岡崎 智久1岩城 麻子2森川 信之2藤原 広行2、上田 修功1 (1.理化学研究所革新知能統合研究センター、2.防災科学技術研究所)

Physics-informed neural network (PINN)はneural network (NN)により微分方程式を解析する手法として提案された。損失関数に微分方程式や初期・境界条件からの残差を組み込むことで、教師データなしで微分方程式の近似解が得られる。さらに観測データが得られる場合には、従来のNNと同様にデータ残差を損失関数に追加することで、逆解析やデータ同化を容易に実現できる。こうした汎用性のため、物理・工学における多数の分野で応用研究が進められている。

PINNは物理法則を損失関数として表現することで、ソフトな制約条件としてNNに学習バイアスを与える点が特徴である。自然現象に関する知識は微分方程式に限らず、対称性やスケーリング則、さらには経験的知識など多岐のレベルで得られている。よって、これらの領域知識を損失関数としてNNに導入することで、物理的知見に基づく正則化を与えることができる。経験的知識は必ずしも厳密な関係式ではなく、曖昧な傾向・依存性である場合があるため、ソフトな制約条件が有効であると期待される。

本研究では、上記のアプローチを地震動予測式において検討する。地震動予測式は、地震規模・震源距離などの少数変数から、最大加速度・応答スペクトルなどの強震動指標を、過去の地震記録の回帰分析に基づき評価する経験的地震動予測手法である。NNによるデータ駆動型モデルは観測データが豊富なパラメタ領域では高い性能を発揮するが、観測データの少ない大地震・近距離においては非現実的な予測値を示す場合がある。例えば、単調NNによる地震動予測式では、近距離において長周期加速度応答スペクトルに過大評価が見られた。そこで、地震動に関する経験的知識を損失関数に追加することで、こうした外挿領域における安定化を試みた。

数値実験を実施し、観測データが豊富なパラメタ領域では正則化の影響が小さくデータを良く説明するが、外挿領域では正則化により前述の過大評価が抑制されることを確認した。また、外挿領域における予測値が損失関数に追加する知識の数式表現や正則化パラメタの値に大きく左右されるため、領域知識の適切な表現方法が推定の安定化に重要である。