日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] ハイブリッド年代学 -多次元年代データ時代の到来-

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:仁木 創太(名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部)、伊藤 健吾(東京大学)、坂田 周平(東京大学地震研究所)、岩野 英樹(東京大学附属地殻化学実験施設)、座長:仁木 創太(東京大学理学系研究科地殻化学実験施設)、坂田 周平(東京大学地震研究所)

09:45 〜 10:00

[SCG51-04] チタン石のU-Pb年代測定に基づく熱水変質プロセスの年代学的制約:北上山地,遠野複合深成岩体のケース

*小北 康弘1、仁木 創太2、長田 充弘1、平田 岳史2、湯口 貴史3 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、2.東京大学、3.熊本大学)

キーワード:チタン石、U-Pb年代、熱水変質、遠野複合深成岩体

はじめに
花崗岩類の地下深部での変質現象は、岩石 – 流体間の反応に伴う物質移動(西本ほか, 2008)や地下水の移行経路となる微小割れ目の形成(Yuguchi et al., 2021)と密接に関連する重要な地質現象である。斜長石の変質現象により生じたイライトのK-Ar年代測定(Yuguchi et al., 2019)を用いた手法が報告されているが、変質現象のタイムスケールを制約可能な手法は限定的である。一方、花崗岩類の熱水変質により、黒雲母の緑泥石化に伴ってチタン石(スフェーン)が生成されることが知られている(Eggleton and Banfield, 1985)。このようなチタン石の晶出年代を決定できれば、その熱水変質現象に時間的制約を与えることが可能となる。そこで本研究では、深成岩中に生じた変質現象の時期に制約を与えることを目的として、深成岩中に二次的に生じたチタン石に対してU-Pb年代測定を行い、先行研究の放射年代値と比較して年代値の解釈を行う。

チタン石の産状・U-Pb年代測定
試料は、東北日本、北上山地の遠野複合深成岩体(以下、遠野岩体)の中心相(御子柴・蟹澤, 2008)に相当する岩相の岩石を用いた。遠野岩体の中心相からは117±2 MaのジルコンU-Pb年代(土谷ほか, 2015)、122.6 ± 2.7 Maの黒雲母K-Ar年代(Yuguchi et al., 2020)の年代値がそれぞれ報告されている;。
チタン石は、薄片中で初生的な黒雲母(あるいはアルカリ長石)と磁鉄鉱との粒界に沿って産出する(Fig.1a)。これは、初生鉱物の周囲にサブソリダス期において後生的に晶出したと考えられる産状である。また、黒雲母の劈開に沿ってパッチ状にチタン石が分布する領域も認められた(Fig.1a)。このようなチタン石は、緑泥石化した黒雲母の劈開に沿ってパッチ状にチタン石が分布する領域(e.g. Yuguchi et al., 2015)と同様の産状である。薄片中のチタン石は幅5~30 mmの産状を示し(Fig.1a)、充分な分析領域を確保することが困難であったため、分離したチタン石に対して、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(以下、LA-ICP-MS)によりU-Pb同位体分析を実施し、118.7±1.5 Ma(n=10)の年代値を得た(Fig.1b)。

年代値の解釈
遠野岩体のチタン石の中には、初生的な黒雲母と他の鉱物との粒界に分布するものや、緑泥石化した黒雲母の劈開に沿って分布するものが認められた(Fig.1a)。これは、黒雲母の緑泥石化をもたらした熱水変質によって二次的に形成されたと推定される。黒雲母の緑泥石化は一般的に200~300℃程度で生じるため(米田・前田, 2008)、チタン石の生成もこのようなサブソリダス温度条件で生じた可能性がある。黒雲母の変質によりチタン石が生じたとすると、チタン石の年代値は200~300℃程度の熱水の活動時期を反映していると考えられる。
遠野岩体からは117±2 MaのジルコンU-Pb年代(土谷ほか, 2015)が、122.6 ± 2.7 Maの黒雲母K-Ar年代(Yuguchi et al., 2020)がそれぞれ得られている。これらの年代は、遠野岩体がジルコンU-Pb系の閉鎖温度から黒雲母K-Ar系の閉鎖温度(400~350℃;Grove and Harrison, 1996)まで数百万年以内に冷却されたことを示唆する。本研究で得られたチタン石の年代は、これらの年代と不確かさの範囲で重なる。このことは、チタン石を生じた熱水変質(黒雲母の緑泥石化)が、岩体の固結および400~350℃までの冷却と同時期(約120 Ma)に、地質学的に短期間で生じた可能性を示す。閉鎖温度の異なるジルコンU-Pb年代測定、黒雲母K-Ar年代測定、(二次的な)チタン石のU-Pb年代測定を組合わせることで、花崗岩類の変質・変成現象の時間的なギャップを求められる可能性がある。チタン石U-Pb年代はこれまでジルコンU-Pb年代だけでは明らかにできなかった地質現象に対して新たな知見を加えることが可能と考えられる。

文献
Eggleton and Banfield, 1985, American Mineral., 70, 902-910.
Grove and Harrison, 1996, American Mineral., 81, 940-951.
御子柴・蟹澤, 2008, 地球科学, 62, 183-201.
西本ほか, 2008, 応用地質, 49, 94-104.
土谷ほか, 2015, 岩石鉱物科学, 44, 69-90.
米田・前田, 2008, J. MMIJ, 124, 694-699.
Yuguchi et al., 2015, American Mineral., 100, 1134-1152.
Yuguchi et al., 2019, J. Asian Earth Sci., 169, 47-66.
Yuguchi et al., 2020, Lithos, 372-373, 105682.
Yuguchi et al., 2021, American Mineral., 106, 1128-1142.