14:15 〜 14:30
[SCG52-03] 日本海溝アウターライズにおける間隙水中の3He/4He比の時間変動と流体の起源
キーワード:日本海溝アウターライズ、断層、流体循環、ヘリウム同位体
海溝軸の海側では海洋プレートの屈曲に伴い地形的高まりであるアウターライズが生じ、断層やプチスポット火山の形成など様々な現象が発生する。このような現象に伴う流体循環は、プレート沈み込みの過程を通じた地球深部と表層のリザーバの化学進化に影響すると考えられ、その規模や時間変動を解明することは地球史を紐解く上で重要である。流体の起源や循環を推定する上で、化学的に不活性でマントル起源物質の混入に敏感な3Heは有用なトレーサとなる。Park et al. (2021)は日本海溝アウターライズで間隙水の3He/4He比を観測し、その空間分布などを基に、同地域でモホ面を横切るような流体循環像が存在する可能性を示した。しかしながら流体循環像の空間的広がりや時間変動についてはデータが限られているため、ほとんど議論されていない。
本研究では、日本海溝アウターライズにおける流体の起源・循環およびその時間変動を調査するため、白鳳丸KH-20-8次航海、KH-22-6次航海、新青丸KS-23-6次航海を通じて、三陸沖海域の断層近傍においてピストンコアラー・マルチプルコアラー・採水器を用いて堆積物・海水試料を採取した。揚収した試料は大気成分の混入を防ぐため速やかに銅管サンプラーに移し、両端を鋼鉄製クランプで封印した。その後の試料処理と測定は東京大学大気海洋研究所で実施した。遠心分離法により堆積物から間隙水を抽出し、間隙水・海水の溶存ガスを真空容器内の気相に抽出した。このようにして得られたガス試料を真空ラインに導入し、精製後に四重極型質量分析計で4He/20Ne比を、希ガス用質量分析計Helix SFTで3He/4He比を測定した。得られた試料のデータは、大気および大気と平衡した水(air-saturated water)の測定値に対して規格化を行った。2019-2023年において、Park et al. (2021)の観測点PC7における間隙水中の3He/4He比は継続的に空気よりも高く、最も高い層で5 Ra(1 Ra: 空気の3He/4He比)程度の値を示した。これは採取深度よりも深い層に、より高い3He/4He比を持つリザーバが存在し、日本海溝アウターライズの断層における流体循環が、マントル起源物質を継続的に表層へと供給している可能性を示唆する。同地域における流体循環の時空間スケールを精密に制約するため、今後もさらなる観測を実施する計画である。
(参考文献)Park et al. (2021) Scientific Reports 11, 12026.
本研究では、日本海溝アウターライズにおける流体の起源・循環およびその時間変動を調査するため、白鳳丸KH-20-8次航海、KH-22-6次航海、新青丸KS-23-6次航海を通じて、三陸沖海域の断層近傍においてピストンコアラー・マルチプルコアラー・採水器を用いて堆積物・海水試料を採取した。揚収した試料は大気成分の混入を防ぐため速やかに銅管サンプラーに移し、両端を鋼鉄製クランプで封印した。その後の試料処理と測定は東京大学大気海洋研究所で実施した。遠心分離法により堆積物から間隙水を抽出し、間隙水・海水の溶存ガスを真空容器内の気相に抽出した。このようにして得られたガス試料を真空ラインに導入し、精製後に四重極型質量分析計で4He/20Ne比を、希ガス用質量分析計Helix SFTで3He/4He比を測定した。得られた試料のデータは、大気および大気と平衡した水(air-saturated water)の測定値に対して規格化を行った。2019-2023年において、Park et al. (2021)の観測点PC7における間隙水中の3He/4He比は継続的に空気よりも高く、最も高い層で5 Ra(1 Ra: 空気の3He/4He比)程度の値を示した。これは採取深度よりも深い層に、より高い3He/4He比を持つリザーバが存在し、日本海溝アウターライズの断層における流体循環が、マントル起源物質を継続的に表層へと供給している可能性を示唆する。同地域における流体循環の時空間スケールを精密に制約するため、今後もさらなる観測を実施する計画である。
(参考文献)Park et al. (2021) Scientific Reports 11, 12026.