日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG53] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2024年5月27日(月) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、座長:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)

11:30 〜 11:45

[SCG53-04] N-net観測システムの開発と沖合システムの構築

*青井 真1武田 哲也1功刀 卓1篠原 雅尚1,2三好 崇之1植平 賢司1望月 将志1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.東京大学地震研究所)

キーワード:N-net、南海トラフ地震、ケーブル式海底地震津波観測網、地震観測、津波観測、即時予測

巨大地震の発生場である海域において、その発生を早期に捉えることは地震防災において重要である。防災科研では、現在、高知県沖から日向灘にかけての海域に、新たなケーブル式海底地震津波観測網N-netを開発・整備している(例えば青井・他, JpGU2023)。日本海溝および千島海溝沿いにおいては防災科研によるS-net、相模トラフ沿いにおいては防災科研の相模湾地震観測施設、駿河トラフおよび南海トラフ沿いにおいては気象庁による東海・東南海沖ケーブル式常時海底地震観測システムおよび防災科研によるDONETが運用されており、太平洋沖合ではその他にもJAMSTECや東大地震研をはじめとする様々な機関によりケーブル式観測網が設置されている。これらの観測網により海溝型巨大地震の発生が懸念される海域がカバーされているが南海トラフ地震の想定震源域の西側には現在も観測の空白域が存在しており、N-netの完成によりその空白域は解消されることになる。
海底ケーブルを介したデータ伝送および観測装置への給電を行うため、宮崎県に串間陸上局舎を新設するとともに、DONETで用いている高知県の室戸ジオパーク陸上局舎をN-netと共用するため電力や空調・通信等を大幅に増強した。N-netは沖合システムと沿岸システムの2つの観測システムからなり、計36台の観測装置と4台の分岐装置および終端装置が全長約1,650kmの光海底ケーブルにより両陸上局と結ばれる計画である。
海底に設置する各観測装置に加速度型強震計・速度型地震計・水圧計を各2式備えるなど共通点の多いS-netから基本的な設計を踏襲している一方、いくつかの点で大きな改良が加えられている。従来多くの津波観測に用いられてきたParoscientific社製の水圧計は、感度を高めるためにブルドン管が用いられているが、ブルドン管は可動部を有するため地震時の振動や姿勢変動によりノイズが混入することがある。このような影響を可能な限り低減するため、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems;微小電子機械システム)技術を用いた新規のシリコン振動式圧力センサを搭載した水圧計を新たに開発しN-netで採用した。また、水圧センサ保護筐体の新規設計や、海底における水圧を水圧センサに伝達するポリブデンの粘度の変更など、圧力伝達系の開発も行った。さらに、海底に設置する観測装置は円筒形であるため地震時等にわずかに回転することがあるため、その影響を小さくするために回転低減装置を導入した。一方、観測装置の性能や長期信頼性を確保するため様々な試験を実施した。特に、新規開発された水圧計や水圧センサ保護筐体に関しては10台を用いた一年に及ぶ長期試験を含め、念入りに試験を実施した。同様の取り組みはこれまでもなされてきたが、N-netのような大きな観測筐体に採用するのは初めてである。N-netの特徴の一つはインライン方式とノード方式の2つの方式を併せ持つハイブリッド方式を採用していることであり、両システムの観測装置が双方に与える影響を可能な限り小さくできるよう検討がなされた。
N-netの2つのシステムのうち、沖合システムは令和5年度までに製造および海洋敷設工事を終了し、沿岸システムは令和6年度に海洋敷設工事を実施する予定である。沖合システムに用いる全長約900kmの光海底ケーブル、18台のインライン観測装置、2台の分岐装置および終端装置、データの受信・処理・伝送等を担う陸上部機器など、観測システム主要な機器は個別に試験により正常性が確認されている。さらに、これら全てを電気的・光学的に接続し、海底に設置される状態に近い全系での試験であるシステムアセンブリ試験(SAT)を経て、ケーブル敷設船に積み込み、2023年10月から2024年1月にかけて沖合システムの海洋敷設工事が行われた(三好・他, JpGU2024)。現在、沖合システムで試験用に取得された観測データの精査を実施している。