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[SCG54-10] 南西諸島で発見された硫黄島由来の漂着軽石
キーワード:EPMA分析、伊豆・小笠原弧、喜界島
伊豆・小笠原弧の海域火山である硫黄島は,日本でも有数の活動的な火山の一つであり,2021年8月に火山噴火に伴う大規模な軽石漂流を発生させた福徳岡ノ場(FOB)の約60 km北方に位置する.2022年7月以降,硫黄島南東部の翁浜沖ではここ100年で初めてマグマの噴出を伴う火山噴火が発生し,付近では噴火に伴い発生したと思われる岩塊が浮遊している様子や,内部温度が120度を超える軽石の漂着が確認されている(気象庁,2022).本研究では,2022年10月と2023年10月に喜界島,奄美大島,沖縄本島,石垣島でFOB軽石の採取を目的に現地調査を行ったところ,FOBとは異なる見た目の軽石を発見し,その軽石に含まれる火山ガラスの主成分化学組成分析(EPMA分析)を実施した.その結果,2023年10月に喜界島で採取した軽石の中に,2023年8月に気象庁によって採取された硫黄島の軽石と主成分化学組成が一致する軽石が見つかったので報告する.
分析を実施した南西諸島で採取された漂着軽石は,2022年10月と2023年10月に喜界島で採取された7試料,奄美大島で採取した5試料,2023年10月に沖縄本島で採取した2試料,石垣島で採取した3試料である.なお,硫黄島では2021年FOB噴火以降,漂着軽石を採取した2023年10月までの間に,2021年8月12日,23〜26日,9月2〜3日,17日に翁浜沖で,2021年11月24日に漂流木海岸付近で,2022年7月11日〜8月9日,10月5〜8日,12月7日〜11日,2023年6月15〜24日に翁浜沖で噴火が発生している(気象庁,2023).また,2021年10,12月,2022年5,6月にもFOBの軽石調査を実施しているが,その間に本研究で対象とした軽石に類似したものは認められていない.
採取した軽石は,粉砕後に超音波洗浄機を用いて洗浄し,63–120μmサイズのガラス粒子を対象にEPMA分析を行った.分析には高知大学海洋コア国際研究所の共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.比較に使用した軽石は,2023年8月5日に気象庁により硫黄島南東部の翁浜で採取された軽石(以後,20230805IOTO)である.採取された場所と日付から,2022年7月〜2023年6月に発生した翁浜沖の噴火により噴出した軽石であると考えられる.20230805IOTは黒色を呈し,発泡の良い軽石であった.20230805IOTOに含まれる火山ガラスの主成分化学組成の平均値は,SiO2=63.5 wt.%,Na2O+K2O=9.3 wt.%で,アルカリに富むという特徴を持つ.なお,伊豆・小笠原弧の海域火山の中で,硫黄島とFOBの岩石はアルカリに富む傾向を持ち,化学組成が類似していることが知られているが(例えば,小坂ほか,1990),20230805IOTと1986年・2021年FOB軽石に含まれる火山ガラスの主成分化学組成を比較したところ,SiO2,TiO2,Na2Oの含有量で明確に区別できた.
EPMA分析の結果,2023年10月に喜界島で採取された3試料が,20230805IOTOと主成分化学組成が一致した.そのため,これらの軽石は硫黄島由来であると考えられる.さらに,2022年10月に奄美大島で採取した2試料と2023年10月に石垣島,沖縄本島,奄美大島で採取した8試料は,FOBではなく20230805IOTOの化学組成のトレンドにのる傾向を示した.このことから,これらの軽石についても,20230805IOTOを噴出した噴火とは異なる噴火であるものの,2022年7月以降に翁浜沖で発生したマグマを噴出する火山活動によって生産されたものである可能性が考えられる.
なお,2021年FOB噴火以前に日本列島の太平洋側の5地点(奄美大島,宮崎,室戸,下田,銚子)で採取・分析した漂着軽石(Hiramine et al., 2023)からは20230805IOTと類似した組成を示す軽石は見つかっていない.これは,本研究で硫黄島由来であるとした漂着軽石が,2022年7月以降に硫黄島で発生したマグマの噴出を伴う火山噴火によって噴出したものであることを支持する.
南西諸島に近年の硫黄島噴火に由来する漂着軽石が存在していたことは,過去にも同様の噴火が硫黄島において発生していた場合にも,南西諸島へ軽石が漂着していた可能性を示す.そのため,過去に南西諸島へ漂着した軽石の中に硫黄島由来と推定されるものがあった場合には,硫黄島の噴火履歴を検討するための情報を提供できる可能性がある.
分析を実施した南西諸島で採取された漂着軽石は,2022年10月と2023年10月に喜界島で採取された7試料,奄美大島で採取した5試料,2023年10月に沖縄本島で採取した2試料,石垣島で採取した3試料である.なお,硫黄島では2021年FOB噴火以降,漂着軽石を採取した2023年10月までの間に,2021年8月12日,23〜26日,9月2〜3日,17日に翁浜沖で,2021年11月24日に漂流木海岸付近で,2022年7月11日〜8月9日,10月5〜8日,12月7日〜11日,2023年6月15〜24日に翁浜沖で噴火が発生している(気象庁,2023).また,2021年10,12月,2022年5,6月にもFOBの軽石調査を実施しているが,その間に本研究で対象とした軽石に類似したものは認められていない.
採取した軽石は,粉砕後に超音波洗浄機を用いて洗浄し,63–120μmサイズのガラス粒子を対象にEPMA分析を行った.分析には高知大学海洋コア国際研究所の共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.比較に使用した軽石は,2023年8月5日に気象庁により硫黄島南東部の翁浜で採取された軽石(以後,20230805IOTO)である.採取された場所と日付から,2022年7月〜2023年6月に発生した翁浜沖の噴火により噴出した軽石であると考えられる.20230805IOTは黒色を呈し,発泡の良い軽石であった.20230805IOTOに含まれる火山ガラスの主成分化学組成の平均値は,SiO2=63.5 wt.%,Na2O+K2O=9.3 wt.%で,アルカリに富むという特徴を持つ.なお,伊豆・小笠原弧の海域火山の中で,硫黄島とFOBの岩石はアルカリに富む傾向を持ち,化学組成が類似していることが知られているが(例えば,小坂ほか,1990),20230805IOTと1986年・2021年FOB軽石に含まれる火山ガラスの主成分化学組成を比較したところ,SiO2,TiO2,Na2Oの含有量で明確に区別できた.
EPMA分析の結果,2023年10月に喜界島で採取された3試料が,20230805IOTOと主成分化学組成が一致した.そのため,これらの軽石は硫黄島由来であると考えられる.さらに,2022年10月に奄美大島で採取した2試料と2023年10月に石垣島,沖縄本島,奄美大島で採取した8試料は,FOBではなく20230805IOTOの化学組成のトレンドにのる傾向を示した.このことから,これらの軽石についても,20230805IOTOを噴出した噴火とは異なる噴火であるものの,2022年7月以降に翁浜沖で発生したマグマを噴出する火山活動によって生産されたものである可能性が考えられる.
なお,2021年FOB噴火以前に日本列島の太平洋側の5地点(奄美大島,宮崎,室戸,下田,銚子)で採取・分析した漂着軽石(Hiramine et al., 2023)からは20230805IOTと類似した組成を示す軽石は見つかっていない.これは,本研究で硫黄島由来であるとした漂着軽石が,2022年7月以降に硫黄島で発生したマグマの噴出を伴う火山噴火によって噴出したものであることを支持する.
南西諸島に近年の硫黄島噴火に由来する漂着軽石が存在していたことは,過去にも同様の噴火が硫黄島において発生していた場合にも,南西諸島へ軽石が漂着していた可能性を示す.そのため,過去に南西諸島へ漂着した軽石の中に硫黄島由来と推定されるものがあった場合には,硫黄島の噴火履歴を検討するための情報を提供できる可能性がある.