[S-CG54] 海域火山

[SCG54-12] 2023年10月9日地震津波の波源域にある孀婦海山

★招待講演

*富士原 敏也¹、今井 健太郎¹、大林 政行¹、吉田 健太¹、多田 訓子¹、尾鼻 浩一郎¹、藤江 剛¹、小野 重明¹、小平 秀一¹ (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構海域地震火山部門)

キーワード：孀婦海山、海底火山、2023年10月9日(JST)津波、T波、繰り返し海底地形調査

伊豆小笠原弧の鳥島近海（鳥島から孀婦岩の間の鳥島リフト周辺）では、2023年10月2日以降、地震活動が活発化し、10月8日までにマグニチュードM6.0以上の地震が4回発生した（気象庁による）。そのうち、10月5日10:59（日本時間）に発生したM6.5の正断層型の地震により、八丈島に0.2 mの津波が到達した。10月9日4時から6時にかけての地震は、明瞭なP波S波が見えず、T波のみ見えるという特異な地震であった。その後、八丈島に0.7 mの津波が到達した。地震の規模から推定されるよりも高い津波が発生したことから、地すべりなどによる津波励起、またT波が発生していることから海底火山活動の可能性が指摘された。
2023年10月9日の活動に関連して観測された一連のT波の発生源について、DONET, S-net, F-net, Pacific21 network, IMS, MERMAIDの観測点から鳥島近海を方位角的に良好に取り囲む観測点の記録を選び解析を行った。その結果、T波の発生源は孀婦岩の西方の背弧リフト内にある孀婦海山の位置10 km以内の範囲に集中して求められた。
こうした状況を踏まえJAMSTECは、地震・津波発生の約一ヶ月後、鳥島〜孀婦岩周辺海域において海底広域研究船「かいめい」による緊急調査航海を実施した。本航海は既定の西之島、福徳岡ノ場、三宅島周辺を対象とした調査航海の日程変更および海域の追加を行うことにより実現した。孀婦海山周辺では、海底地震計の設置、マルチビーム音響測深による詳細海底地形調査を主として行った。
海底地形調査の結果、孀婦海山の中央付近、T波の発生源として推定された位置にカルデラ状の地形があることが確認された。そのカルデラ状地形の内径は4.8 km、カルデラ底の水深は約1300 m、カルデラ壁の平均比高は約100 mである。カルデラ状地形内の北側には中央火口丘と見られる比高約400 mの山体がある。山頂部は内径約2 kmの凹地になっており、凹地底の水深は約1200 mである。
過去の1987年に、アメリカの調査船「Atlantis II」により、孀婦海山の海底地形調査が行われている。1987年と2023年の海底地形を比較すると、カルデラ周辺の地形が大きく変化していることがわかった。1987年の海底地形では、中央火口丘の山頂は凸地形をしており、山頂の水深は約800 mであった。2023年調査の凹地底とは約400 mの水深差がある。また、中央火口丘の北側から北西側斜面も水深が深く変化している。一方、火口丘の北東側斜面は浅く変化している。カルデラ底の大部分は地形が上昇しており、特に南西部は約60 m上昇し、小山状の地形が形成されている。海底地形の水深差から求められるカルデラ内の欠損部の体積は約360.96×10⁶ m³、増加部の体積は約206.92×10⁶ m³である。この地形変化は、1987年から2023年の過去36年間の何時かに、爆発的な噴火により中央火口丘が山体崩壊し、土石流が発生し、一部はカルデラ内に堆積したことを示唆しているのではないか。
以上の結果から、孀婦海山は活動的な海底火山であり、10月9日のT波の発生源は孀婦海山の火山活動であった可能性が高い。なお、現時点では、孀婦海山の火山活動と津波発生の関係については不明である。