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[SCG54-P01] 伊豆東部火山群の隠れた珪長質マグマ:斜長石斑晶の微量元素組成からの制約
キーワード:伊豆東部火山群、単成火山、微量元素組成、斜長石、マグマ供給系、珪長質マグマ
~10万年前から活動を継続する伊豆東部火山群では,~3100年前までに噴出したマグマはSiO2<60wt%の苦鉄質組成であったが,~3100年前に発生したカワゴ平流紋岩噴火以降は珪長質マグマを噴出するようになったことが知られている.しかし,約4000年前に噴火した大室山の玄武岩質安山岩中に含まれる斜長石斑晶がAn# [=100Ca/(Ca+Na)] ~ 30-50の低い値を示し,更にその中には流紋岩ガラス包有物が含まれることが報告され,カワゴ平噴火の~900年以上前からこの火山下に流紋岩マグマが存在していたことが示された (Hatada et al., 2020).さらにLA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析)を用いて大室山の流紋岩ガラス包有物とそのホスト斜長石の微量元素組成を分析したところ,両者は互いに平衡であり,更に大室山の流紋岩ガラス包有物とカワゴ平流紋岩で微量元素組成が一致することが示された (野澤他, 2023火山学会).ところで,大室山の周辺の伊豆高原には~10万年前から~2700年前に噴火した苦鉄質単成火山 (門野,内野,茶野,小室山,赤窪,伊雄山) が複数存在する.野澤他 (2022火山学会) は,これらの6火山の溶岩に含まれる斜長石斑晶について組織観察・主成分化学分析を行い,いずれの火山でも低An#斜長石がモード組成で最大3.1vol%まで含まれることを示した.しかし,これらの低An#斜長石が,大室山の流紋岩メルト包有物と共存する斜長石と同源であるかどうかは明らかでない.そこで本研究ではLA-ICP-MSを用い,伊豆高原の上記の6単成火山の溶岩に含まれる低An#斜長石の微量元素組成分析を行い,大室山の低An#斜長石と比較した.更に,その結果に基づいて伊豆東部火山群 (伊豆高原) のマグマ供給系について議論した.
大室山の流紋岩質メルトの主成分化学組成は,伊豆東部火山群の玄武岩の含水高圧溶融実験 (Kawamoto, 1996) の部分溶融メルトと概ね一致する.そこで部分溶融メルトが流紋岩質組成を示した実験の鉱物量比と大室山,カワゴ平溶岩中の斑晶鉱物の微量元素組成の実測値を用い,LA-ICP-MSで実測した流紋岩質メルト包有物の微量元素組成を玄武岩の部分溶融/結晶作用によって再現できるか検討した.その結果,流紋岩質メルトの微量元素組成の計算値は実測値と概ね一致した.このことから,大室山の流紋岩質メルトは,玄武岩の部分溶融もしくは玄武岩質マグマの結晶分化によって基本的には説明可能といえる.
伊豆高原の6火山の溶岩に含まれる低An#斜長石の微量元素組成は,大室山の流紋岩ガラス包有物を含むホスト斜長石の組成と一致した.更に,斜長石-メルト間元素分配係数を用いて計算した低An#斜長石と共存したメルトの微量元素組成は大室山だけでなく,~2.7kaに噴火した伊雄山の斜長石中の流紋岩質ガラス包有物とも一致した.この結果は,伊豆高原の地下では~10万年前から (おそらく断続的に) 流紋岩マグマが存在したことを示唆する.
伊豆高原のマグマの化学組成はハーカー図上で,大室山の流紋岩メルトやカワゴ平流紋岩に向かって伸びる線的分布を示し,斜長石方向に逸脱しない.6火山のいずれにも低An#斜長石が含まれることを考慮すると,この組成変動は玄武岩‐流紋岩マグマ間の混合によるものであり,その珪長質端成分は大室山やカワゴ平の流紋岩組成であったと考えられる.また,その組織的特徴から,マグマ混合時に低An#斜長石が融解したと考えられ,この斜長石が珪長質端成分マグマに占める量は10vol%以下であったと見積もられる.以上の結果から伊豆東部火山群 (伊豆高原) の地下では,単成火山噴火に先立って比較的小規模な流紋岩マグマだまりが形成し,このマグマと深部由来の玄武岩マグマが様々な比率で混合した後に噴火するということが,10万年前からおこっていたと考えられる.
大室山の流紋岩質メルトの主成分化学組成は,伊豆東部火山群の玄武岩の含水高圧溶融実験 (Kawamoto, 1996) の部分溶融メルトと概ね一致する.そこで部分溶融メルトが流紋岩質組成を示した実験の鉱物量比と大室山,カワゴ平溶岩中の斑晶鉱物の微量元素組成の実測値を用い,LA-ICP-MSで実測した流紋岩質メルト包有物の微量元素組成を玄武岩の部分溶融/結晶作用によって再現できるか検討した.その結果,流紋岩質メルトの微量元素組成の計算値は実測値と概ね一致した.このことから,大室山の流紋岩質メルトは,玄武岩の部分溶融もしくは玄武岩質マグマの結晶分化によって基本的には説明可能といえる.
伊豆高原の6火山の溶岩に含まれる低An#斜長石の微量元素組成は,大室山の流紋岩ガラス包有物を含むホスト斜長石の組成と一致した.更に,斜長石-メルト間元素分配係数を用いて計算した低An#斜長石と共存したメルトの微量元素組成は大室山だけでなく,~2.7kaに噴火した伊雄山の斜長石中の流紋岩質ガラス包有物とも一致した.この結果は,伊豆高原の地下では~10万年前から (おそらく断続的に) 流紋岩マグマが存在したことを示唆する.
伊豆高原のマグマの化学組成はハーカー図上で,大室山の流紋岩メルトやカワゴ平流紋岩に向かって伸びる線的分布を示し,斜長石方向に逸脱しない.6火山のいずれにも低An#斜長石が含まれることを考慮すると,この組成変動は玄武岩‐流紋岩マグマ間の混合によるものであり,その珪長質端成分は大室山やカワゴ平の流紋岩組成であったと考えられる.また,その組織的特徴から,マグマ混合時に低An#斜長石が融解したと考えられ,この斜長石が珪長質端成分マグマに占める量は10vol%以下であったと見積もられる.以上の結果から伊豆東部火山群 (伊豆高原) の地下では,単成火山噴火に先立って比較的小規模な流紋岩マグマだまりが形成し,このマグマと深部由来の玄武岩マグマが様々な比率で混合した後に噴火するということが,10万年前からおこっていたと考えられる.