[S-EM12] Electric, magnetic and electromagnetic survey technologies and scientific achievements

[SEM12-P08] 阿寒カルデラ周辺で観測された異常位相の解釈

*井上 智裕¹、相澤 広記¹、市原 寛²、橋本 武志³ (1.九州大学理学研究院附属地震火山観測研究センター、2.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、3.北海道大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

キーワード：マグネトテルリック法探査、異常位相、3次元比抵抗構造モデリング

マグネトテルリック法（Magnetotelluric法，以下MT法）観測では，電場と磁場の位相差が通常の範囲(90º)を逸脱した位相差（phase out-of-quadrant: POQ）が観測されることがある．POQは，単純な構造では説明が困難であるが，POQをモデリングすることができれば比抵抗構造の高精度化に活用できる可能性が高い．北海道の活火山である雌阿寒岳を有する阿寒カルデラでもyx成分に異常位相が観測されている．3次元比抵抗インバージョンによって，雌阿寒岳直下から鉛直に対して西側に傾いた低比抵柱がモデリングされ，雌阿寒岳北西麓で観測されたPOQが説明できた．雌阿寒岳南麓でもPOQは確認されているが，雌阿寒岳南麓のMT法観測点は少なく，南麓のPOQと上述した斜め低比抵抗柱の関係はまだ明らかでない．阿寒カルデラのPOQがどのような構造で発生しているかを明らかにすることができれば，POQの一般的な理解や阿寒カルデラの広域3次元比抵抗構造のモデリングに貢献できる．
そこで本研究は，雌阿寒岳南西麓，阿寒カルデラの西側に位置する陸別や足寄地域で，2023年に合計16点の広帯域MT法探査を行った．観測にはADU07e（Metronix社製）とElog-1k（NTシステムデザイン社製）を使用し，電磁場5成分または電場2成分のデータを１地点につき3日ほど取得した．応答関数の計算にはBIRRP（Chave and Thomson, 2004）を使用し，リモートリファレンス処理を施した．
足寄から陸別にかけてZyx成分の約500 s以上の帯域にPOQが観測された．足寄と陸別周辺のインダクションベクトルは長周期側の帯域で東を向き，同じ傾向を示した．一方で，フェーズテンソル円の傾向を見ると，陸別付近の楕円長軸が主に東西方向であるのに対して，足寄付近の長軸は北西―南東方向を示していた．また，長周期側の帯域において，陸別周辺のPhi2は約45ºであったが，足寄周辺のPhi2は約20ºを示しており，足寄周辺は深くなるにつれて高比抵抗な領域であることを示した．
これまで報告された雌阿寒岳周辺の3次元比抵抗構造（e.g. Inoue et al., 2022）や，鉛直に対して傾いた低比抵柱がPOQを発生させる(Inoue and Hashimoto, in revision)ことから，阿寒カルデラの北西側（陸別）のPOQは，雌阿寒岳直下から西方向に伸びる斜め低比抵抗柱で発生している可能性が高い．フェーズテンソルやPhi2を見ると，足寄地域と陸別地域の電磁気的構造の特徴は異なっていた．足寄地域から陸別地域にかけてPOQが観測されているが，足寄地域で観測されたPOQはこの斜め低比抵抗柱と異なる地下構造に起因して発生している可能性がある．
本発表では，これまで取得したデータと併せて3次元比抵抗構造インバージョンを行い，阿寒カルデラでPOQを生じさせる構造について考察する．

謝辞：本研究は，文部科学省による「災害軽減に貢献するための地震火山観測研究計画（第2次）」 の支援を受けました．