日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)

17:15 〜 18:45

[SGD01-P03] LaCoste型相対重力計の重力連続観測で検出された2022年トンガ火山噴火に伴うmHz帯の重力変化

*小田 雄大1風間 卓仁1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:LaCoste型相対重力計、重力連続観測、トンガ火山噴火、気圧変化、地球自由振動

2022年1月15日13時(日本時間;以下同じ)頃、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山において大規模な噴火が発生した。この噴火によって励起された大気波は地球大気を伝播し、これに伴う大気圧変動が世界各地で観測された。Imanishi(2022)は長野県松代で超伝導重力計iGrav-028による重力連続観測を実施していたところ、トンガ火山噴火の大気圧変動に伴う約0.5 microGalの重力変化を観測した。さらに、Imanishi(2022)は観測された重力変動についてZürn and Wielandt(2007)の理論(acoustic gravity waveモデル)によって再現できることを示した。特に、これまでほとんど観測例のなかった大気荷重変動起源の慣性効果を重力変化として明瞭に検出した。しかしながら、Imanishi(2022)は超伝導重力計の観測データにカットオフ周波数2.5 mHzのローパスフィルターを適用しており、これより短周期の大気圧変動に伴う重力変化については議論していない。慣性効果は高周波側で卓越すると考えられるため、2.5 mHzより短周期の重力変化を観察することで慣性効果に伴う重力変化をより詳細に把握できると期待される。

トンガ火山噴火当日、京都大学理学研究科1号館地下の重力測定室では、LaCoste型相対重力計G31による重力連続観測および気圧センサーBME280による気圧連続観測が実施されていた。小田・風間(2023)では主に1 mHzよりも長周期の重力変化に着目し、トンガ火山噴火の大気圧変動と相関するような約0.6 microGalの重力変化が観測されていることを示した。この重力変化は大気圧変動に対して-0.3 microGal/hPa程度の応答を有しており、主に大気質量の時空間変動に伴う万有引力効果を反映していると考えられる。ただし、LaCoste型相対重力計は広帯域で重力変化を観測できる装置であるため、G31重力計の重力データから1 mHzより高周波の重力変化を抽出すれば、上述の慣性効果についてさらに詳細な議論ができると期待される。

そこで本研究は、G31重力計で観測された相対重力連続データを用いて、トンガ火山噴火に伴う1~10 mHz帯域の重力変化の特徴を解析した。まず本研究は、1秒間隔で取得された重力データに対して周波数領域でバンドパスフィルターを適用し、1~10 mHz帯域の変動を抽出した。その結果、重力データでは14時頃(噴火の約1時間後)から変動の振幅が増加し、最大で約0.64 microGalの変化が確認された。また、噴火直後から12時間の重力データに対してスペクトル解析を実施したところ、固体地球の自由振動0S29に相当する明瞭なピークが検出されたほか、0S30や0S39に相当するスペクトルピークなども検出された。トンガ火山噴火では特定の周波数(約3.7 mHz、4.6 mHz)の長周期レイリー波が励起されたことが報告されており(Ringler et al., 2023)、本研究の結果は長周期レイリー波に伴う固体地球の固有振動がG31重力計で観測されたということを示している。

次に本研究はImanishi(2022)と同様に、大気圧変動が観測された20時~21時30分において、Zürn and Wielandt(2007)の理論を用いて大気圧変動に伴う重力変化をフォワード計算した。その結果、モデルに入力する弾性定数としてPREM(Dziewonski and Anderson, 1981)の上部地殻(深さ15 km以浅)における値を使用することで、1~10 mHz帯で観測された重力変化をよく再現できることが分かった。また、モデル計算の結果によると、慣性効果に伴う重力変化は1~10 mHz帯域において0.49~4.89 microGal/hPaの振幅を有しており、これは他の寄与(大気引力効果および荷重変形効果)よりも十分大きいことが分かった。これらの事実から、G31重力計で観測された1~10 mHz帯の重力変化は主に大気荷重変動起源の慣性効果によるものであると言える。