日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 地殻変動

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、加納 将行(東北大学理学研究科)、野田 朱美(気象庁気象研究所)、姫松 裕志(国土地理院)、座長:石川 直史(海上保安庁海洋情報部)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)

14:00 〜 14:15

[SGD02-02] 根室沖でのGNSS音響観測から示唆されるプレート境界浅部でのすべり欠損

*富田 史章1太田 雄策2木戸 元之1飯沼 卓史3黒須 直樹2大園 真子4高橋 浩晃4日野 亮太2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.東北大学大学院理学研究科、3.海洋研究開発機構、4.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:GNSS音響観測、千島海溝、海底測地観測、プレート間固着

千島海溝南部では,過去にM7–8クラスの地震がセグメントを分けて繰り返し発生していることに加え, 17世紀頃に十勝〜根室沖の複数セグメントに渡るMw8.8の巨大地震が発生し,かつプレート境界浅部で大きなすべりが生じていた可能性が示された(Ioki & Tanioka, 2016).このことから,海溝まで達するプレート境界浅部での巨大な断層すべり(Slip To the Trench;例えば,2011年東北地方太平洋沖地震)を伴うプレート間巨大地震が今後発生する可能性が懸念されている.しかし,プレート境界浅部域での歪みの蓄積の有無は,陸上の測地観測網から検出することが困難である.そこで,東北大学・北海道大学では, 2019年にGNSS音響結合方式による海底地殻変動観測(GNSS-A観測)点を千島海溝根室沖に3点設置し,船舶及び海洋研究開発機構の所有するウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測の繰り返し実施を開始した.
3点のGNSS-A観測点の内,2点(G21:海溝軸から約100 km, G22:同約35 km)は陸側斜面に設置し,1点(G23:同約35 km)は沈み込む太平洋プレート上に設置した.これらの観測点において,2019年7月から2023年10月にかけて、G21では6回(2019/7, 2020/10, 2021/4, 2022/5, 2023/4, 2023/10),G22・G23では5回(2019/7, 2020/10, 2021/4, 2022/5, 2023/10)の時期に繰り返しGNSS-A観測を実施した.このうち,G22観測点では2021年4月と2022年5月の観測時に,G23観測点では2023年10月の観測時に,船舶とウェーブグライダーを併用して観測データを取得した.
GNSSデータは,RTKLIB v2.4.2(Takasu, 2013)を用いたキネマティック相対測位(陸上基準点:厚岸・えりも)によって解析した.音響データは,Honsho et al. (2021)による位相限定相関法とテンプレートマッチング法を活用した走時検出を行った.最終的な海底局アレイ変位の推定には,GNSS音響測位ソフト SeaGap v1.1(Tomita and Kido, 2023; 富田,2023)を用いた.ここでは,海中音速の単層勾配構造を仮定し,マルコフ連鎖モンテカルロ法によって,キャンペーン毎のスタティック解析を行った.ただし,ロバストな解を推定するために勾配構造を規定するパラメータ(勾配深度・浅部勾配)に拘束条件(事前分布)を課し,特に勾配深度については,東北沖における先行研究で得られた値(650 m;Tomita and Kido, 2023)を平均とする正規分布を事前分布として与えた.船舶とウェーブグライダーを併用して観測データを得たキャンペーンについては両海上局から得られたデータの同時解析を行うことが望ましいが,解析ストラテジの都合により海上局ごとに個別のアレイ変位を推定した.
結果として,どの観測点も北西向きのオホーツクプレート固定で~6–9 cm/yrの変位速度が得られた(G21:~5.59 cm/yr・N288°,G22:~9.22 cm/yr・N294°,G23:~7.34 cm/yr・N283°)。勾配深度についての拘束条件(事前分布)を変更した,あるいは拘束条件を与えない解析も実施したが,いずれの場合も海溝近傍に設置されているG22観測点において,~8.2 cm/yrを超える変位速度が検出された(黒須,2024,東北大学修士論文).このG22で検出された変位速度(>~8.2 cm/yr)は,プレート運動モデルMOVEL(DeMets et al., 2010)による太平洋プレート沈み込み速度(9.1 cm/yr,N293°)をすべり欠損速度としてプレート境界浅部まで与えた簡易なモデルから計算される地表変位速度と整合的であり,海溝近傍まで顕著なすべり欠損が蓄積されている可能性を示している.
今後,複数の海上局で得られた観測データの同時解析の実施,および根室沖で得られた上記の観測成果を踏まえたより精緻なすべり欠損分布の推定に取り組んでいきたい.