日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL17] 地球年代学・同位体地球科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)

17:15 〜 18:45

[SGL17-P05] ドイツ東アイフェル,オルブリュック火山溶岩試料のAr/Ar年代とSEM-EDS分析から見たノゼアン中のエクセスアルゴン

*周藤 正史1、Uwe Altenberger1、Christina Günter1 (1.ポツダム大学地球科学研究所)

キーワード:Ar/Ar年代測定、エクセスアルゴン、第四紀、アイフェル火山群、マグマ、カーボナタイト

ドイツ第四紀東アイフェル単成火山群の幾つかのフォノライト中の準長石から,エクセスアルゴンが検出されている(Lippolt et al., 1990)。しかしこのエクセスアルゴンの岩石学的意味は明らかにされていない(Lippolt et al., 1990)。これまでin-situ Ar同位体測定により,雲仙の歴史溶岩中でエクセスアルゴンを含む斜長石中の担体が,帯状に分布するメルトインクルージョンである事が示されている(Sumino et al., 2008)。同様の手法で,これまで東アイフェルのオルブリュック火山の準長石ノゼアン中のエクセスアルゴンの担体を,記載岩石学,鉱物化学とin-situ Ar/Ar年代測定により調べてきた。今回これまでの結果からその岩石学的な意味を検討した。
東アイフェル単成火山群は,爆発的な噴火を示すラーハーゼー火山などの火山体を含み,活動年代は0.4 Ma頃から12,900年前のラーハーゼー噴火までとされる(Schmincke, 2004)。オルブリュック火山はスコリアコーンと0.41 ± 0.01 Ma (Lippolt et al. 1990)のフォノライト溶岩流で構成される。今回,溶岩流の路頭から新鮮なフォノライト溶岩を採取した。
試料は,新鮮なフォノライト岩石から長径12 mm,厚さ0.6 mmの岩石厚片を作製し,SEM-EDSとin-situ Ar/Ar年代測定の試料とした。速中性子照射はオレゴン州立大学TRIGA型原子炉のCd管施設で4時間行なった。
岩石中の班晶は,最大4mmのノゼアン,同1.5mmのサニディン,同0.5mmのリューサイトとまれに石英が見られた。ノゼアンには直行する2方向に直線的に分布するメルトインクルージョンが多く見られた。またノゼアンはカーボナタイトメルトとしばしば共存し,外形が融食されている。石基はガラスを含むインターサーキュラー組織を示す。石基はフォノライト組成で,一部Caに富む未分化なマフィック玄武岩の組成が観察され,フォノライトマグマ中にマフィック玄武岩マグマが混入していた。ノゼアンのメルトインクルージョン直上部のEDS分析では,ノゼアンの他の部分に比べClの濃度が30-40%高い値を示し,インクルージョンにClが濃集していることが分かった。
Ar/Ar年代測定は3回の原子炉照射に分けて行われた。十分なガス量を得るため,200 micronのスポットを5か所,5-20Hzのパルスレーザーで1分間加熱して測定した。加重平均の結果はサニディンが0.43±0.21 Ma,石基が0.71±0.17 Ma,リューサイトが0.08±0.16 Maとなり,オルブリュック火山の年代と2シグマの誤差範囲で一致した。しかしノゼアンの2枚の厚片からの結果は,3.14±0.45 Ma, 31.05±4.11 Maと誤差範囲でも一致せず,またLippoltのバルク分析の値(11.2 Ma, 12.2 Ma)とも異なり,鉱物粒毎に年代値が不均一に変化した。なおノゼアンでは,メルトインクルージョンの有無による測定結果の比較が空間分解能の不足のためできなかった。そこでメルトインクルージョンにClが濃集していることから,見かけの放射起源40ArとCl起源38Arの相関を調べたところ,正の相関が見られ,間接的にエクセスアルゴンがメルトインクルージョンに濃集していることが示唆された。
最近ラーハーゼー火山の準長石アウイン中の,フォノライト組成のメルトインクルージョン中でカーボナタイトメルトの不混和分離が発見された(Berndt & Klemme, 2022)。このアウインもLippoltによりエクセスアルゴンが報告されている。オルブリュック火山でも,同様に準長石にフォノライトマグマがインクルージョンとしてトラップされ,その後カーボナタイトが分離する,という機構と並行してエクセスアルゴンがトラップされた可能性が高く,カーボナタイトメルトの生成とエクセスアルゴンが非常に近い関係にあると考えられる。

Literature:
Lippolt, H.J., Troesch, M., Hess, J.C. (1990): Earth Planet Sci Lett, 101. 19-33
Sumino, H., Ikehata, K., Shimizu, A., Nagao, K., Nakada, S. (2008): J Volcanol Geotherm Res, 175, 189-207
Schminke, H.U. (2004): Volcanism, Springer, 324pp
Berndt, J. and Klemme, S. (2022): Nature Communications, 13: 2892