[S-GL18] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

[SGL18-P06] 四万十帯，古第三系室戸層の堆積年代と乱堆積層の成因

*松元 日向子^1,2、原 英俊³、藤内 智士⁴ (1.大日本ダイヤコンサルタント株式会社、2.高知大学大学院 総合人間自然科学研究科 理工学専攻 、3.産業技術総合研究所 地質情報研究部門、4.高知大学 理工学部)

キーワード：四万十帯、室戸層、古第三系、乱堆積層

海底において重力的に不安定となった堆積物は，塊で沖合へ移動することがある．この現象によって形成された乱堆積層をMTD（mass–transport deposits）と総称する．MTDは，移動時の地形，変動，堆積環境，などを反映しており（例えば，Chanier and Ferriére, 1991; Festa et al., 2022），当時の堆積環境を推定するために重要な情報を保持している．さらにその形成過程は，変形を引き起こした運動を理解する鍵となる（例えば，Strachan, 2008）．
　四万十帯の後期始新統～漸新統は広範囲にわたってMTDとされる大規模な乱堆積層が複数層準確認されている（例えば，和歌山県の牟婁層群，高知県の室戸層，宮崎県の日南層群）．これらの地層を調べることは，MTDの発生要因や，当時のプレート収束域の様子の推定につながる．本研究では，室戸層に注目し，乱堆積層の変形過程と堆積年代について，従来よりも詳細な情報を得ることを目的とし，野外調査とジルコンU–Pb年代測定を実施した．
　野外調査の結果，室戸層では複数の乱堆積層を確認し，海岸に露出する本層の約40％を占めることを明らかにした．個々の乱堆積層の厚さは，行当岬では1–25 mであるが，黒耳海岸で観察した大規模なものでは100 mを超える．そして，以下の特徴より，これらの乱堆積層はMTDだと判断した．(1)一部に欠如はあるものの一定の累重関係を示す．下部に砂質泥岩層や砂礫質泥岩層があり，上部に砕屑注入岩が貫入する砂岩頁岩互層が累重する．(2)地層未固結時にできた，層理面に平行な伸長および短縮を示す変形構造が混在する．(3)全体に見られる砕屑貫入岩は，貫入や切断関係から乱堆積層の変形と同時期に形成したことを示す．また，行当岬におけるMTD内の変形構造から推定した移動方向は，周囲の地層が示す古流向と平行であった．岩相や変形の特徴は，これらのMTDがスライドやスランプによる移動で形成したことを示す．
　珪長質凝灰岩と砂岩から抽出したジルコンについて測定したU–Pb年代の最若ピークは，ともに前期漸新世の最前期（31–33 Ma）を示す．この年代は，化石年代で推定されている後期始新世〜漸新世の範囲にあり，堆積年代をより制約することができた．
　以上の調査結果より，室戸層では，前期漸新世以降にMTDが発生したことがわかる．これらの発生には，堆積物の供給量の増加や斜面角度の変化などが関連した可能性がある．