日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP24] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)、針金 由美子(産業技術総合研究所)、山岡 健(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、座長:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)、針金 由美子(産業技術総合研究所)、山岡 健(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

11:00 〜 11:15

[SMP24-07] ひすい輝石分解によるシンプレクタイト組織の定量化とモデル化:定常拡散を用いた不可逆過程熱力学アプローチ

*相馬 耕助1辻森 樹1 (1.東北大学)

キーワード:ひすい輝石岩、ひすい輝石、シンプレクタイト、非平衡組織、オンサーガーの現象論係数

シンプレクタイト(蠕虫状の微細な鉱物粒が複雑に絡み合った鉱物連晶)は典型的な「非平衡岩石組織」であり、比較的高温の変成岩において、鉱物の反応・分解組織としてしばしば観察される。サブソリダス条件下において、この特徴的な岩石組織は系のギブスエネルギーを最小化させようとする時間依存の自己組織化メカニズムにより形成される。
 本研究では、中米グアテマラの北モタグアメランジュに産するひすい輝石岩中のひすい輝石の分解組織として観察される粗粒なシンプレクタイト組織に着目した。世界のひすい輝石岩において減圧や加水作用に伴うひすい輝石の分解は一般的であるが、シンプレクタイト組織を呈するひすい輝石の分解組織は北モタグアメランジュにのみ知られている (Tsujimori et al., 2004)。比較的低温 (P = 0.6-1.2 GPa, T = 300-450 ℃: Harlow, 1994)で形成した変成岩(変成流体からのひすい輝石が沈殿することでできた広義の変成岩)にも関わらず、粗粒な連晶のシンプレクタイトで特徴付けられる。ひすい輝石の分解で生じたシンプレクタイトを構成する鉱物組み合わせは、分解が進行するひすい輝石のインターフェースからその外側に向かって、jadeite|albite + nepheline(symplectite)|albite + analcime(symplectite)|analcime の多層構造(シンプレクタイト連晶群)をつくる。
 この成因を定量的に解釈するため、我々はまず、閉鎖形を仮定したマスバランス計算を行った。しかしながら、この結果はanalcime が消費するという結果を示し、観察される多層シンプレクタイトを説明できない。そこで、開放系を仮定し、Fisher-Joesten のモデルを拡張した Ashworth and Birdi の手法に則った計算を行った。我々のアプローチは局所平衡が成り立つ上での拡散プロセスを考慮し、Onsager の現象論係数 Lij を用いることで多層シンプレクタイト連晶の観察事実を数理で理論的に記述するという全く新しい試みである。計算の結果、Onsager の係数が LSiSi/LAlAl > 10, LSiSi/LNaNa > 10 であるときに試料に観察されるシンプレクタイト連晶群の配列が達成されることを示した。また、albite と nepheline から構成されたシンプレクタイトの層の鉱物量比(モル比)albite/nepheline = 0.47:0.53 を用いて制約を行った結果、LSiSi/LAlAl = LSiSi/LNaNa = 1000 が妥当であると結論が得られた。
 シンプレクタイト連晶群の全体を説明する反応式は [Jd]+0.72[H2O]+0.04[Na2O] → 0.06[Ne] + 0.14[Ab] + 0.72[Anl] + 0.06[SiO2] で記述できる。この全体反応式を元に計算されたシンプレクタイト形成のフラックスは分解が進行するひすい輝石のインターフェースからその外側に向かう化学ポテンシャル勾配を説明しうる。Si の高い Onsager 係数 LSiSi は、一見奇異に思えるものの、この地域のひすい輝石岩がアンチゴライト蛇紋岩に完全に囲まれていた地質学的な産状からも支持される。
 今回、Fisher-Joesten のモデルを拡張した Ashworth and Birdi の手法に則った開放系での多層シンプレクタイト連晶を解く我々の新しいアプローチは、水流体流入によるひすい輝石分解時の鉱物配列(多層構造)の形成メカニズムを数理で説明した他、いわゆる反応帯の内側(分解されるひすい輝石の方向)への水流体の流入によって化学ポテンシャル勾配が生じ、フラックス成分の拡散が駆動されることによって多層シンプレクタイト連晶が形成されることを Onsager 係数によって記述可能なことをはじめて示した。