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[SMP24-P15] 関東山地北縁部の跡倉ナップ–御荷鉾緑色岩類境界に狭在する異地性結晶片岩岩体について

キーワード:三波川変成岩類、御荷鉾緑色岩、跡倉ナップ、ローソン石、アクチノ閃石岩
はじめに 関東山地御荷鉾ユニットの構造的上位には跡倉ナップが累重しており,下仁田地域,神山–金沢地域,寄居–小川地域にその分布が認められる.下仁田地域および神山地域では,御荷鉾緑色岩と跡倉ナップの間に泥質片岩および苦鉄質岩類が狭在する.この泥質片岩は,フェンジャイトK–Ar年代と鉱物組み合わせからタイプI,II,IIIに区分されている.タイプI(78Ma)は御荷鉾ユニットに帰属,タイプIIはタイプⅠよりも若い変成年代(72 Ma)を示し,タイプIIIは古い変成年代(90–82 Ma)を示すとともに,現在露出する三波川変成帯の緑泥石帯(84–82 Ma;Miyashita and Itaya,2002)よりも古い(小林・田中,1994;小林,1996).鉱物組合せから,タイプⅡは三波川帯ざくろ石帯,タイプⅢは三波川帯緑泥石帯に相当するとされている.構造的下位から,タイプⅠ→Ⅱ→Ⅲと分布し,タイプⅡおよびタイプⅢは,跡倉ナップを構成する異地性岩体とされている(小林,1996).筆者らはこれらの異地性岩体について詳細な岩石学的検討を加え,その結果を報告するとともにその位置付けについて議論する.
結果
三波川帯黒雲母帯相当の泥質片岩:タイプⅡ分布域に,三波川帯黒雲母帯に相当する緑泥石+ざくろ石+黒雲母の鉱物組合せをもつ泥質片岩が新たに確認された.黒雲母は褐色を呈し,片理面と調和的に存在する.ざくろ石の組成は,関東山地黒雲母帯のざくろ石の組成と調和的であり,正累帯構造を示す.さらに,黒雲母帯分布域から,長径約200 μmの粗粒な黒雲母を主とする黒雲母片岩も見出された.
ローソン石含有泥質片岩:タイプIII分布域の泥質片岩中にローソン石が確認された.同様の変成年代をもつものとして,中新統青岩礫岩の礫の一部に緑泥石帯相当の含ローソン石泥質片岩礫が報告されており,そのフェンジャイトK–Ar年代は96−91 Maを示す(新井ほか,2009).含ローソン石泥質片岩礫はタイプⅢに帰属される可能性が指摘されており(新井ほか,2009),今回のローソン石の発見はこれを支持する.
アクチノ閃石岩:タイプⅡ分布域にアクチノ閃石岩が確認された.アクチノ閃石に富む岩石は,下仁田町南縁の緑色岩コンプレックスの基質部(新井ほか,2011)や埼玉県小川町木呂子メランジュ中の角閃岩(木呂子角閃岩;宮下ほか,2016)などで報告されている.
神山地域のマイロナイト:神山北麓において,跡倉層と御荷鉾緑色岩の間に,苦鉄質片岩,泥質片岩,花崗岩質マイロナイトが確認された.それぞれ低角度境界で境され,マイロナイトからは上盤南東の逆断層センスが復元された.
議論 関東山地において,三波川ユニットは基本的に南傾斜の断層を境として御荷鉾ユニットの構造的下位に存在する.今回見出された泥質片岩は,変成度および地質構造から三波川ユニットに対比される.また,跡倉ナップに伴って御荷鉾緑色岩の構造的上位に産することから,御荷鉾ユニットの構造的下位(北方)に存在した三波川帯の上部ユニットは,一部跡倉ナップに伴って南方に移動して御荷鉾緑色岩の上に定置し,一部は15 Maごろに青岩礫岩の礫として堆積した(新井ほか,2009)と考えられる.神山地域の跡倉ナップ底面に産するマイロナイトが上盤南東を示すことから,三波川帯上部ユニットの南方への移動は,跡倉ナップ初期の上盤南の運動(Arai et al., 2008)との関連が示唆される.
文献 Arai, H., Kobayashi, K. and Takagi, H., 2008, Gondwana Research, 13, 319–330;新井宏嘉・高木秀雄・岩崎一郎・浅原良浩・高橋雅紀,2009,地質学雑誌,115,233–241;新井宏嘉・宮下 敦・田辺克幸・村田 守,2011,岩石鉱物科学,40,177–194;小林健太,1996,早稲田大学博士学位論文;小林健太・田中秀実,1996,日本地質学会第101年学術大会演旨,250;Miyashta, A.,1997,Bulletin of the National Science Museum, Series C, 23,1–25;Miyashita, A. and Itaya, T.,2002,Gondwana Research,5,837–848;宮下 敦・堤 之恭・佐野貴司,2016,地質学雑誌,122,511–522.
結果
三波川帯黒雲母帯相当の泥質片岩:タイプⅡ分布域に,三波川帯黒雲母帯に相当する緑泥石+ざくろ石+黒雲母の鉱物組合せをもつ泥質片岩が新たに確認された.黒雲母は褐色を呈し,片理面と調和的に存在する.ざくろ石の組成は,関東山地黒雲母帯のざくろ石の組成と調和的であり,正累帯構造を示す.さらに,黒雲母帯分布域から,長径約200 μmの粗粒な黒雲母を主とする黒雲母片岩も見出された.
ローソン石含有泥質片岩:タイプIII分布域の泥質片岩中にローソン石が確認された.同様の変成年代をもつものとして,中新統青岩礫岩の礫の一部に緑泥石帯相当の含ローソン石泥質片岩礫が報告されており,そのフェンジャイトK–Ar年代は96−91 Maを示す(新井ほか,2009).含ローソン石泥質片岩礫はタイプⅢに帰属される可能性が指摘されており(新井ほか,2009),今回のローソン石の発見はこれを支持する.
アクチノ閃石岩:タイプⅡ分布域にアクチノ閃石岩が確認された.アクチノ閃石に富む岩石は,下仁田町南縁の緑色岩コンプレックスの基質部(新井ほか,2011)や埼玉県小川町木呂子メランジュ中の角閃岩(木呂子角閃岩;宮下ほか,2016)などで報告されている.
神山地域のマイロナイト:神山北麓において,跡倉層と御荷鉾緑色岩の間に,苦鉄質片岩,泥質片岩,花崗岩質マイロナイトが確認された.それぞれ低角度境界で境され,マイロナイトからは上盤南東の逆断層センスが復元された.
議論 関東山地において,三波川ユニットは基本的に南傾斜の断層を境として御荷鉾ユニットの構造的下位に存在する.今回見出された泥質片岩は,変成度および地質構造から三波川ユニットに対比される.また,跡倉ナップに伴って御荷鉾緑色岩の構造的上位に産することから,御荷鉾ユニットの構造的下位(北方)に存在した三波川帯の上部ユニットは,一部跡倉ナップに伴って南方に移動して御荷鉾緑色岩の上に定置し,一部は15 Maごろに青岩礫岩の礫として堆積した(新井ほか,2009)と考えられる.神山地域の跡倉ナップ底面に産するマイロナイトが上盤南東を示すことから,三波川帯上部ユニットの南方への移動は,跡倉ナップ初期の上盤南の運動(Arai et al., 2008)との関連が示唆される.
文献 Arai, H., Kobayashi, K. and Takagi, H., 2008, Gondwana Research, 13, 319–330;新井宏嘉・高木秀雄・岩崎一郎・浅原良浩・高橋雅紀,2009,地質学雑誌,115,233–241;新井宏嘉・宮下 敦・田辺克幸・村田 守,2011,岩石鉱物科学,40,177–194;小林健太,1996,早稲田大学博士学位論文;小林健太・田中秀実,1996,日本地質学会第101年学術大会演旨,250;Miyashta, A.,1997,Bulletin of the National Science Museum, Series C, 23,1–25;Miyashita, A. and Itaya, T.,2002,Gondwana Research,5,837–848;宮下 敦・堤 之恭・佐野貴司,2016,地質学雑誌,122,511–522.