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[SMP24-P17] 三波川変成帯別子地域の石英エクロジャイトのガーネット中のルチル離溶ラメラと石英包有鉱物の残留圧力
キーワード:三波川変成帯、石英エクロジャイト、ルチル離溶ラメラ、ガーネット、沈み込み帯変成作用、残留圧力
四国別子地域三波川変成帯権現山に産する石英エクロジャイトから、針状ルチル離溶ラメラを有するガーネット数粒子が発見された(Takebayashi et al., 2023)。石英エクロジャイトは石英に富むドメイン(Qz-rich)、石英に乏しいドメイン(Qz-poor)、苦鉄質ドメインに分けられ(Enami et al., 2018)、ルチルの離溶ラメラは石英に乏しいドメインに限られていた。針状ルチルを含むガーネットの化学組成は、スペサルティンに乏しくグロッシュラー(Grs)を有し(Grs: 13–23 mol%、アルマンディン¬パイロープ(Alm–Prp)において累進型の累体構造(Prp: 15-41 mol%)を示し、ルチル離溶ラメラはPrpが27–34 mol%の領域に限定された。針状ルチルを含む幾つかのガーネットは石英を包有し、石英のラマンスペクトルはA1モード(~464 cm-1)とEモード(~205 cm-1)に高圧を示唆するピークシフトを示した。針状ルチル近くの石英包有物は、残留圧力が約800 MPaであった。一方、ガーネット中のルチル針が無い領域(Prp 27 mol%以下と Prp 34 mol%以上)では、約600–700 MPa (800 MPa以下)であった。この結果はルチルを含むガーネットが変成作用のピーク条件付近で成長したことを示唆している。石英エクロジャイトの変成ピークは、2.3–2.4GPa/675-740℃と見積もられている(Miyamoto et al., 2007, Tomioka et al., 2022).変成ピーク温度を740℃と仮定すると、ルチル針付近の石英包有物の最高残留圧力値から、変成圧力条件は約2.3 GPaと推定され、先行研究と類似な結果となる。Qz-richとMafic-clotsドメインのガーネットの化学組成は、三角ダイアグラム上でQz-poor domainのガーネットのAlm–Prp 系列のパイロープ側の延長した領域にプロットされ、一部のガーネットの組成が逆向きの累体構造を示した。これらのガーネットは後退変成作用のステージで結晶が成長をした可能性がある。以上の結果をふまえて,石英エクロジャイト中のガーネットに4つの変成段階が記録されていることを考察した.第1段階:原岩が沈み込み,温度圧力が上昇してガーネットの成長を始めた.ただしこの段階では,ガーネット結晶構造へのチタンの置換を可能にする温度・圧力条件には達していない.第2段階:昇温期変成作用によってガーネットの成長が続き,パイロープ成分が27mol%以上となり,圧力が800MPa以上に達したところでガーネット結晶構造へのチタンの置換が始まる.第3段階:圧力が下がり,チタンはガーネット結晶構造に取り込まれなかった。温度上昇が続きガーネットの結晶成長は続いた.第4段階:後退変成作用でガーネット中に飽和したチタンがソルバス安定領域を超えて針状ルチルの離溶として析出した.ルチルの分布は、ガーネット中に包有物やマトリックスにも分布する事から一連の変成過程においてチタンが豊富であることが考えられる。ガーネット中のルチルの離溶ラメラの出現は、超高圧や超高温に産する事が多く指標とされてきたが(e.g. Attoh and Nude, 2008; Glassley et al., 2014)、近年の研究で超高圧未満でも産することが報告されている(e.g., Hwang et al., 2019, Keller and Ague., 2020)。本岩石ではガーネット粒子成長の中間でルチルの離溶ラメラが分布しており、ルチルの結晶構造への置換可能な温度圧力を示している可能性がある。またルチル離溶ラメラが三波川変成帯における石英エクロジャイトの昇温変成期と後退変成期の変化点を示唆している。