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[SSS05-P10] 上下負荷面弾塑性摩擦モデルの提案とスティック・スリップ現象の数値解析

キーワード:摩擦、スティック・スリップ、断層、弾塑性構成則、数値解析、時間依存性
プレート境界や断層における接触面の摩擦現象(アスペリティでの部分破壊現象など)を解明する上で,摩擦力変化を合理的に記述可能な摩擦構成則の発展は必要不可欠である.本稿では,摩擦力の連続的変化を弾塑性力学の枠組みで記述する下負荷面摩擦モデル1)に新たに上負荷面概念2)を導入した「上下負荷面摩擦モデル」を提案する.本モデルは,(1)最大静止摩擦係数が動摩擦係数より大きい状態を摩擦係数の「嵩張り」と捉える点,(2)その嵩張りの崩壊と再生を発展則として与える点に特徴づけられ,静止摩擦~動摩擦の状態遷移を合理的に記述可能である.また,典型的なばね~質点系の初期値問題を例にとり,本モデルによりスティック・スリップや定常すべり現象を統一的に再現可能であることを示す.
本モデルの基礎式を図1に示す.まず④降伏関数について述べる.Asaoka et al.2)により提案された上負荷面概念は,これまで地盤工学分野において自然堆積土の力学挙動の説明に用いられてきた.すなわち,図2のように,鋭敏な自然堆積粘土が練り返した正規状態の試料よりも高い等体積強度を示す理由が土の骨格構造の「嵩張り」にあると捉えたうえで,塑性変形の進展に伴う嵩張りの消失過程を構造の発展則としてモデル化している.このピーク強度発現後の軟化挙動を,摩擦現象における静止摩擦から動摩擦への遷移過程(図3)において類推し,上負荷面概念による摩擦現象の記述を着想した.提案モデルにおいては,まず図4のように,正規降伏面としてクーロンの摩擦規準面(灰線,傾き:動摩擦係数μk)を設定する.次に,これに相似な上負荷面(橙線,相似比R*),さらには,上負荷面に相似でかつ現応力を通る下負荷面(青線,相似比R)を定義する.上負荷面の導入により,接触力は正規降伏面より上側の青色の領域に状態を取ることが可能となり,この領域では,動摩擦力より大きな摩擦力(静止摩擦力)を発現しうる.また,下負荷面の導入により上負荷面の内側(弾性域)での繰返し塑性を表現しうるモデルとなっている.⑤非関連すべり流動則はすべりに伴う塑性変形が接触面の接線方向にのみ生じることを表す.⑥正規すべり比Rの発展則は既往モデル1)と同様,正規降伏面近傍ほど塑性すべりが大きく進展するような発展則を使用した.⑦構造の程度1/R*の発展則は二つの項からなる(図5).第一項は塑性すべりに伴う静止摩擦から動摩擦への摩擦力減少(構造の劣化)を,第二項は時間経過に伴う動摩擦から静止摩擦への摩擦力の回復(接触面の凝着作用や年代効果)を表現する.以上により,連続的な摩擦力変化を弾塑性論の枠組みで説明し,物体の固着・すべり状態の客観性を保証しうるモデルが導出される.また,紙幅の都合上,構成式や負荷基準の詳細な導出過程はToyoda et al.3)を参照されたい.
次に,本モデルによるスティック・スリップ現象の再現結果を示す.解析では,図6の一次元バネ~質点系モデル1)の速度型運動方程式を陰的に解いた.接触面の構成パラメータは同図の通りであり,Cases 1~3(表1)の条件で解析を行った.まず,R*の発展則の係数κ,ξの異なるCases 1~Case 3のすべり変位~時間関係(図7(a))は,構造が変化せず摩擦係数が一定のCase 1では間欠性のない定常すべりが,構造の劣化と回復を考慮したCase 3では,階段状のすべり変位~時間関係(スティック・スリップ現象)が解かれた.
最後に,本モデルによりスティック・スリップ現象に及ぼす法線応力変動の影響を説明可能であることを示そう.図7(b)は接線応力~法線応力空間における応力経路であるが,法線応力を一定に保ったCase 3に比べ,法線応力増加によりすべりが抑制されたCase 4では,滑り出しが遅れるとともに,一度のすべり量・接線応力降下量が大きく解かれたのに対し,法線応力減少によりすべりが促進させたCase 5では滑り出しが早まり,一度のすべり量・接線応力降下量が小さくなり,安定すべりに移行する結果となった.
(謝辞)本研究の実施にあたり,科学研究費補助金(基盤研究(B):課題番号22H01586)の助成を受けた.
1) Ozaki, O. and Hashiguchi, K. (2010): Numerical analysis of stick-slip …, Tribology International, Vol. 43, 21020-2133
2) Asaoka, A., Nakano, M. and Noda, T. (2000): Superloading yield surface concept …, Soils Found, 40(2), 99-110.
3) Toyoda, T., Yasuike, R., Noda, T. (2024): Super/sub-loading surface model …, Tribology International, 191, 109080.
本モデルの基礎式を図1に示す.まず④降伏関数について述べる.Asaoka et al.2)により提案された上負荷面概念は,これまで地盤工学分野において自然堆積土の力学挙動の説明に用いられてきた.すなわち,図2のように,鋭敏な自然堆積粘土が練り返した正規状態の試料よりも高い等体積強度を示す理由が土の骨格構造の「嵩張り」にあると捉えたうえで,塑性変形の進展に伴う嵩張りの消失過程を構造の発展則としてモデル化している.このピーク強度発現後の軟化挙動を,摩擦現象における静止摩擦から動摩擦への遷移過程(図3)において類推し,上負荷面概念による摩擦現象の記述を着想した.提案モデルにおいては,まず図4のように,正規降伏面としてクーロンの摩擦規準面(灰線,傾き:動摩擦係数μk)を設定する.次に,これに相似な上負荷面(橙線,相似比R*),さらには,上負荷面に相似でかつ現応力を通る下負荷面(青線,相似比R)を定義する.上負荷面の導入により,接触力は正規降伏面より上側の青色の領域に状態を取ることが可能となり,この領域では,動摩擦力より大きな摩擦力(静止摩擦力)を発現しうる.また,下負荷面の導入により上負荷面の内側(弾性域)での繰返し塑性を表現しうるモデルとなっている.⑤非関連すべり流動則はすべりに伴う塑性変形が接触面の接線方向にのみ生じることを表す.⑥正規すべり比Rの発展則は既往モデル1)と同様,正規降伏面近傍ほど塑性すべりが大きく進展するような発展則を使用した.⑦構造の程度1/R*の発展則は二つの項からなる(図5).第一項は塑性すべりに伴う静止摩擦から動摩擦への摩擦力減少(構造の劣化)を,第二項は時間経過に伴う動摩擦から静止摩擦への摩擦力の回復(接触面の凝着作用や年代効果)を表現する.以上により,連続的な摩擦力変化を弾塑性論の枠組みで説明し,物体の固着・すべり状態の客観性を保証しうるモデルが導出される.また,紙幅の都合上,構成式や負荷基準の詳細な導出過程はToyoda et al.3)を参照されたい.
次に,本モデルによるスティック・スリップ現象の再現結果を示す.解析では,図6の一次元バネ~質点系モデル1)の速度型運動方程式を陰的に解いた.接触面の構成パラメータは同図の通りであり,Cases 1~3(表1)の条件で解析を行った.まず,R*の発展則の係数κ,ξの異なるCases 1~Case 3のすべり変位~時間関係(図7(a))は,構造が変化せず摩擦係数が一定のCase 1では間欠性のない定常すべりが,構造の劣化と回復を考慮したCase 3では,階段状のすべり変位~時間関係(スティック・スリップ現象)が解かれた.
最後に,本モデルによりスティック・スリップ現象に及ぼす法線応力変動の影響を説明可能であることを示そう.図7(b)は接線応力~法線応力空間における応力経路であるが,法線応力を一定に保ったCase 3に比べ,法線応力増加によりすべりが抑制されたCase 4では,滑り出しが遅れるとともに,一度のすべり量・接線応力降下量が大きく解かれたのに対し,法線応力減少によりすべりが促進させたCase 5では滑り出しが早まり,一度のすべり量・接線応力降下量が小さくなり,安定すべりに移行する結果となった.
(謝辞)本研究の実施にあたり,科学研究費補助金(基盤研究(B):課題番号22H01586)の助成を受けた.
1) Ozaki, O. and Hashiguchi, K. (2010): Numerical analysis of stick-slip …, Tribology International, Vol. 43, 21020-2133
2) Asaoka, A., Nakano, M. and Noda, T. (2000): Superloading yield surface concept …, Soils Found, 40(2), 99-110.
3) Toyoda, T., Yasuike, R., Noda, T. (2024): Super/sub-loading surface model …, Tribology International, 191, 109080.
