日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、澤井 みち代(千葉大学)


17:15 〜 18:45

[SSS05-P14] 地震性断層すべりに伴う粉砕の影響を考慮したビトリナイト反射率温度計の開発にむけて

*北村 真奈美1金木 俊也1廣瀬 丈洋2 (1.産業技術総合研究所、2.海洋研究開発機構 高知コア研究所)

キーワード:ビトリナイト反射率、摩擦発熱、南海トラフ

断層帯の摩擦発熱温度を定量的に求めることは、地震時の断層すべりの物理パラメーターを推定するうえで重要である。例えば、国際深海科学掘削計画(IODP)南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)にて紀伊半島沖のSite C0004地点から採取された分岐断層先端のコア試料から、断層すべり時の摩擦発熱の証拠として断層帯内部で顕著に高いビトリナイト反射率が検出された(Sakaguchi et al., 2011)。これまでにビトリナイトを含む模擬断層ガウジを用いた地震時の高速断層すべり運動を模擬した摩擦実験から、十数秒程度の地震性すべりに伴う摩擦発熱によりビトリナイト反射率は顕著に上昇することが確認されている(例えば、Kitamura et al., 2012)。そして、断層帯内部のビトリナイト反射率の上昇は、従来地質体の最高被熱温度の推定に使用されてきたEASY%Roモデル(Sweeney and Burnham, 1990)では説明できないことが示された。EASY%Roモデルでは、ビトリナイト粒子の複雑な熟成過程が、アレニウスの式に従う複数の一次反応の線形結合として表現されている。その活性化エネルギーは反応要素ごとに固有の定数とされている一方、いくつかの先行研究では粉砕によって反応時の活性化エネルギーが数十%程度低下しうることが報告されている。例えばHirono et al. (2013)は、イライト粉末を用いた回転剪断摩擦試験を行い、摩擦仕事の増加に伴ってイライトの脱水反応の活性化エネルギーが最大で26%減少することを報告した。よって、ビトリナイト粒子の熟成反応においても、粉砕によって活性化エネルギーが減少することが期待される。また炭質物を用いた粉砕後加熱実験により、炭質物は粉砕に伴って成熟しやすくなることもわかっている(Kaneki et al., 2018)。以上のことを考慮して、本研究では、地震性断層すべりを再現した実験を基に、断層すべりに伴う粉砕の影響を考慮した新しいビトリナイト反射率断層温度推定モデルの構築を試みる。
本研究では、EASY%Roモデルにおける活性化エネルギーを摩擦仕事の関数とし、特徴的仕事でもって指数関数的に減少すると仮定した。新たに導入された定数は、活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の二つであり、その他の定数の値および微分方程式の形はEASY%Roモデルと同様である。これら二つの定数に関する予察的なパラメータスタディの結果、粘土鉱物の脱水反応における値と矛盾しないパラメータ範囲において、Kitamura et al. (2012)が報告したビトリナイト反射率の上昇を説明できることがわかった。ポスターでは、摩擦実験後試料のビトリナイト反射率測定結果、及び有限要素法により求めた実験試料内の温度分布のデータを用いた、より詳細な解析結果を発表予定である。