日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震予知・予測

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、中谷 正生(国立大学法人東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:45

[SSS06-P03] 気象庁震度データからの大地震発生頻度予測手法の提案:余震・群発地震の補正と等頻度地図の作成

*KAWANISHI TAKUYA1 (1.金沢大学)

キーワード:震度データ、統計解析、余震

全国地震動予測地図(政府地震調査研究推進本部, 2021)は大まかな傾向として, 大地震の起こる確率が太平洋側で高く, 日本海・東シナ海側で低いと予測している. この傾向は, 地域別の大災害に対する危機意識(内閣府, 2016)とほぼ同じ傾向を示している. また, メディアは来るべき大震災として南海トラフ, 首都圏直下型地震について繰り返し報道している. 一方, これまでに震度7の地震が観測されたのは, 今年1月1日の能登半島(石川県)のほか, 北海道, 宮城, 新潟, 兵庫, 熊本(2回)の各県においてであり, 中には地震リスクが高いとは考えられていなかった地域も含まれる. 我々は, ここにリスク認識と実際のリスクとの乖離があるのではないかと考える. そこで, このギャップを埋めるための方策のひとつとして, 過去の地震データから全国の地震リスクの推算を試みた.
宇佐美, 勝又(1973)は, 地震の震度と, その震度の地震の発生頻度の対数との間に直線関係を見出した. 我々は, この手法を現在の大量の観測データに適用して, 全国各地の大地震(震度6強)の発生頻度を予測した. 気象庁震度データ(1919〜2021年)を観測点毎に整理し, 宇佐美, 勝又の手法で解析したところ, 震度―対数頻度グラフは良い直線性を示したが, 大地震の前後で震度―頻度関係が大きく変化することが明らかになった. これは, 多数の余震が発生することで, 特に低震度の地震の頻度を増大させるためであり, リスク評価上大きな問題である.
そこで, 各震度(以上)の地震の地震間間隔の分布から, この余震・群発地震の影響を補正する手法を試みた. グラフ横軸に地震間間隔, 縦軸に経験生存関数の対数をとると, 地震間間隔が0に近いところで生存関数は急激に減少し, その後緩やかな傾きの直線で変化する. この直線部を線形回帰して0に外挿することで, 余震・群発地震の影響を補正する係数を算出できる. この方法を, 震度7を記録した熊本県西原村小森観測点のほか数カ所のデータに適用したところ, 補正のない場合に大地震前と大地震後で震度―頻度関係に大きな変化があったのに対し, 補正したデータでは, 地震前後に関係なく, 震度と頻度の対数とは, ほぼ同一の直線上に乗った. すなわち, この補正によって, 余震・群発地震の影響を取り除いた「正味の」地震頻度が得られ, より正確な大地震頻度予測が可能になったと考えられる. そこで, この方法を全国の観測点のデータに適用し, 余震・群発地震補正を行なった全国の震度6強地震の予測発生頻度(1/年)の等頻度線地図を作成した. 図から分かるように, 過去の震度7観測地点はほぼ, 高発生頻度(1/100年 以上)だった. ただし, 能登半島の震度7観測地点2つのうち, 志賀町香能地区の予測発生頻度は低く見積もられていた. すなわち, この手法で, 地震リスクの重要な側面をとらえることができたと考える. 今後様々な条件が予測頻度に及ぼす影響について検討を加える.

参考文献
宇佐美龍夫, 勝又護 (1973) 験震時報, vol. 38, pp. 15—21.
政府地震調査研究推進本部 (2021) 全国地震動予測地図2020年版
内閣府 (2016) 平成28年版防災白書, 地域別の大災害に対する危機意識
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h28/zuhyo/zuhyo00_23_00.html