日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、竹尾 明子(東京大学地震研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)、座長:竹尾 明子(東京大学地震研究所)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

09:15 〜 09:30

[SSS07-02] P波方位異方性モデルにおける3次元波線追跡

*綱嶋 椋1趙 大鵬1豊国 源知1 (1.東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

キーワード:P波方位異方性、3次元波線追跡、地震波トモグラフィー

地震波トモグラフィーは,地球内部の3次元構造を透視できる最も有力な地球物理学的手法である.この手法により,過去40年以上にわたって,沈み込むスラブやマントルプルーム,そして地震発生域の流体やマグマ溜まりなどの,地球内部の不均質構造が明らかになった (e.g., Zhao, 2015).地震波走時トモグラフィーでは,波線経路に沿った走時について観測方程式をたてるため,波線経路とそれに沿った理論走時の正確性が,トモグラフィーの最終的な結果に強く影響する.そして近年では,地球内部の地震波異方性に注目した研究が多くおこなわれている.異方性とは,地震波の伝播方向や振動方向によってその伝播速度が変化する現象であり,地球内部の構造や変形,マントル対流,そしてダイナミクスを反映すると考えられる.

 従来の地震波トモグラフィーの研究では,3次元波線追跡において地球内部構造の等方性を仮定していることが多い.Zhao et al. (1992) は,等方性速度モデルにおいて,連続媒質内ではpseudo-bending法 (Um & Thurber, 1987),湾曲した速度不連続面上ではSnellの法則を適用した,3次元波線追跡法を開発した.Gou et al. (2018) は,Zhao et al. (1992) による等方性波線追跡法を改良し,P波鉛直異方性も考慮にいれて3次元的な波線経路とそれに沿った理論走時を求める鉛直異方性波線追跡法を開発した.彼らは,限られた分解能およびdampingやsmoothingといった拘束条件の観点から,現在の鉛直異方性トモグラフィーでは等方性波線追跡法を使うことができると結論した.一方で,観測点がより密に配置されてより高分解能の異方性トモグラフィーを得ることができるようになった場合には,異方性波線追跡法が必要になるとも主張した.

 本研究では,P波方位異方性モデルおける3次元波線追跡法を開発した.六方対称性をもった異方性媒質を仮定し,対称軸と位相速度ベクトル,そして群速度ベクトルが同一平面内に存在することを利用した.方位異方性を考慮して,pseudo-bending 法とSnellの法則を組み合わせた3次元波線追跡法 (Zhao et al., 1992) を改良した.そして,人工的に作成した単純な3次元P波方位異方性モデルにおいて,等方性速度モデルにおける波線 (等方性波線) と方位異方性モデルにおける波線 (方位異方性波線) を計算した.それによって,新しい波線追跡コードの正確性を評価し,両波線の間の走時差と経路差を比較した.評価のために,4つのモデルを作成した.model 1では,振幅は南北方向に変化し,速い速度の方向 (fast-velocity direction, FVD) は東-西で一定である.model 2では,振幅は5 %で一定で,FVDは南北方向に変化する.model 3では,振幅は深さ方向に変化し,FVDは東-西で一定である.model4では,振幅は5 %で一定で,FVDは深さ方向に変化する.

 その結果,各モデルにおいて方位異方性波線は,もっともらしい方向に屈曲しFermatの原理にも適したため,用いた理論と近似は適切であると判断した.方位異方性の振幅とFVDの空間変化が,等方性波線と方位異方性波線との間に走時差と経路差をもたらしたと考えられる.長い波線 (350 km以上) の場合,モデルによっては等方性波線と方位異方性波線との間の経路差が最大で20 km以上,走時差は0.1 s以上になる場合も存在した.これは方位異方性を考慮して波線追跡をおこなう重要性を示唆する.

 今後は,東日本沈み込み帯の3次元P波方位異方性速度モデル (Jia & Zhao, 2023) でも評価をおこない,波線追跡コードを修正していく予定である.その後,新しい波線追跡コードを用いて東日本沈み込み帯の3次元P波方位異方性トモグラフィーモデルを推定する.そして,等方性波線追跡法を用いて推定したJia & Zhao (2023) のモデルと比較して,方位異方性を考慮した波線追跡のトモグラフィーへの影響を調べることも計画している.

参考文献
Gou, T., D. Zhao, Z. Huang, L. Wang (2018). Anisotropic 3-D ray tracing and its application to Japan subduction zone. J. Geophys. Res. 123, 4088-4108.
Jia, R., D. Zhao (2023). Anisotropic tomography of the East Japan subduction zone: influence of inversion algorithms. Geophys. J. Int. 234, 2199-2213.
Um, J., C. Thurber (1987). A fast algorithm for two-point seismic ray tracing. Bull. Seismol. Soc. Am. 77, 972–986.
Zhao, D. (2015). Multiscale Seismic Tomography. Springer, 304 pp.
Zhao, D., A. Hasegawa, S. Horiuchi (1992). Tomographic imaging of P and S wave velocity structure beneath northeastern Japan. J. Geophys. Res. 97, 19909-19928.