[S-SS08] 地震活動とその物理

[SSS08-06] 本震の大すべり域縁辺部における地震活動長期静穏化

*勝俣 啓¹ (1.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

キーワード：地震活動静穏化、マウレ地震、イキケ地震、イヤペル地震

１．はじめに
本研究では，巨大地震の本震すべり量分布と本震に先行した地震活動長期静穏化の静穏化域を比較する．例えば，Katsumata and Zhuang (2020,PAGEOPH)では，2006年中千島の地震（Mw8.3）と静穏化域を比較し，静穏化域は大すべり域の縁辺部に位置することを指摘した．見方を変えると，静穏化域は断層破壊の進展を阻止するバリアの働きをしていると考えることもできる．このような特徴は，静穏化の原因を議論する上で重要である．そこで本研究では，南米地域で最近発生した3つの巨大地震，2010年Maule地震（Mw8.8），2014年Iquique地震（Mw8.2），2015年Illapel地震（Mw8.3）の静穏化域と本震のすべり量分布を比較し，大すべり域と静穏化域の位置関係を議論する．

２．データと解析
研究領域は，45°S-10°N，65°W-85°Wの南米太平洋沿岸地域である．1965年1月1日から2020年12月31日までに研究領域で発生した実体波マグニチュード5.0以上，深さ60 km以浅の地震をISC Bulletinから選択した．そして開始年を0.1年ずつずらして，期間長40年のサブカタログを161個作成した．具体的には，1965.0～2005.0年，1965.1～2005.1年，・・・，1980.9～2020.9年，1981.0～2021.0年の161個である．各サブカタログをデクラスタリングした後，PMAP法（Katsumata and Zhuang, 2020）を用いて長期静穏化を探索した．

３．結果
PMAP法ではP値が小さいほど強い静穏化を表す．P値が0.001程度以下の長期静穏化とそれに対応する可能性があるイベントを表に示す．表中のNo.7は2010年Maule地震（Mw8.8）に先行した静穏化だと考えられる．本震で10 m以上すべった大すべり域の北縁部と南縁部の２か所において，本震に先行して静穏化していたことが明らかとなった．また，No.4は2014年Iquique地震（Mw8.2）に先行した静穏化だと考えられる．この静穏化域は本震の大すべり域の南縁部に位置していることが分かった．大すべり域の北縁部では静穏化は見られなかった．さらに，No.6は2015年Illapel地震（Mw8.3）に先行した静穏化だと考えられる．本震の大すべり域の北縁部と南縁部の２か所において，本震に先行して静穏化していた

４．結論
以上より，次の３点が本研究で判明した．（１）南米地域の３つの巨大地震に先行して地震活動の長期静穏化が見つかった，（２）その静穏化域はいずれも本震の大すべり域の縁辺部に位置する，（３）本震の断層破壊は静穏化域で阻止され，走向方向の進展が停止しているように見える．