日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震活動とその物理

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:千葉 慶太(公益財団法人 地震予知総合研究振興会)、山下 裕亮(京都大学防災研究所地震災害研究センター宮崎観測所)

17:15 〜 18:45

[SSS08-P15] 日向灘の通常の地震と浅部スロー地震の発生領域境界部における地震活動

*平田 一聖1山下 裕亮2松島 健1仲谷 幸浩3、平野 舟一郎3八木原 寛3中東 和夫4江本 賢太郎1松本 聡1、大柳 修慧2伊藤 喜宏2山田 知朗5篠原 雅尚5 (1.九州大学、2.京都大学、3.鹿児島大学、4.東京海洋大学、5.東京大学)

キーワード:日向灘、海底地震計、地震活動

日向灘はユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込んでいる領域で,通常の地震とスロー地震の両方が発生している.プレート境界地震が発生する深さ15-30 kmの地震発生層のdown-dip側では長期的スロースリップが,up-dip側では浅部テクトニック微動や浅部超低周波地震が発生していることが測地観測や地震観測研究により,ここ10年の間で明らかとなっている.通常の地震については気象庁一元化カタログがあるが,日向灘で発生する地震は陸上観測点のデータのみで解析しているため,震源決定精度は低く,水平位置のみならず深さの詳細な分布は得られていない.そこで,2021年から2022年にかけて,日向灘の浅部スロー地震と通常の地震の発生領域境界部において,それぞれの現象がどの場所で発生しているのかを明らかにするため,海底地震計を用いた直上観測が行われた.この観測データを用いて,気象庁一元化カタログに掲載されている通常の地震の震源再決定と発震機構解析を行い,既知の研究結果と比較を行った.
本研究では,2021年3月27日から2022年1月7日の間に海底地震観測網(10台)で取得されたデータを使用した.まず,気象庁一元化カタログに掲載されているイベント83個について,各観測点におけるP波およびS波の到達時,P波初動の極性,上下動成分の最大振幅を手動で検測した.次に,海底表層の未固結堆積層による大きな走時遅れを補正するため,PS変換波の読み取りを行い,堆積層補正値を求めた.これらを元に,hypoMH(Hirata and Matsu’ura, 1987)を用いて震源計算を行った.震源計算で用いるVp/Vs比は,検測値から和達ダイアグラムを作成して得られた1.9を使用した.一次元速度構造は地震波構造探査の結果(Arai et al., 2023)から作成した.一次元速度構造と観測点ごとの走時の系統的なずれを補正するため,観測点ごとに走時残差の平均値を計算し,新たな観測点補正値として走時を補正し,再度震源決定を行った.この操作を残差の変化が十分小さくなるまで繰り返し(9回),最終的に81個の地震について震源計算結果を得た.
残差のRMS値は,P波は0.311 sから0.089 s,S波は1.059 sから0.342 sまで減少し,多くの震源は水平誤差0.5 km,深さ誤差0.4 km程度となり,陸上からの解析に比べ精度の高い震源分布が得られた.気象庁による一元化震源と比較すると,震源は水平方向で北西に約10 km移動し,深さは全体的に浅くなり,多くの震源が15 km付近に集中した.HASH(Hardebeck and Shearer, 2002, 2003)を用いて得られた15個の信頼性の高い発震機構解は全て高角正断層型を示した.
解析結果とArai et al. (2023)のP波速度構造との比較・考察から,得られた震源はフィリピン海プレート内部で発生している可能性が高い.時空間分布からは,震源がプレート境界の2 km程度下の場所からプレート境界付近にまで移動しているように見える.日向灘でも,プレート内地震が多く発生しているヒクランギ沈み込み帯と似たメカニズム(Warren-Smith et al., 2019; Nishikawa et al., 2021)で,スロー地震震源域のdown-dip側でプレート内地震が発生している可能性が考えられる.今後は相対震源決定を行い,さらに精度の良い震源を求め,震源のマイグレーションを含む結果の検証を行うとともに,浅部テクトニック微動の解析も行い,日向灘の通常の地震と浅部スロー地震の発生メカニズムの検証を行う.

謝辞:本研究は文部科学省委託研究「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」および文部科学省「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の一環として実施されました.海底地震計の設置・回収は長崎大学水産学部附属練習船「長崎丸」および海洋エンジニアリング株式会社所属「第三開洋丸」によって行われました.両船の船員の皆様ならびに乗船された京都大学,九州大学,鹿児島大学,東京海洋大学,東京大学の皆様に感謝の意を表します.また,海洋研究開発機構の新井隆太博士には2020年の日向灘の地震波構造探査の測線データを提供していただきました.以上の方々に心より御礼申し上げます.