日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:友澤 裕介(鹿島建設)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、座長:森 伸一郎(愛媛大学)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)

13:45 〜 14:00

[SSS10-01] 地震動予測を広範化する拡張PLUM法の開発 ― 2023年トルコ・シリア地震のケーススタディ

*森永 優1山田 真澄2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:2023年トルコ・シリア地震、緊急地震速報、PLUM法、ドロネーの三角形分割

PLUM法 (Propagation of Local Undamped Motion method) は,日本の早期地震警報システムにおいて用いられている手法の一つである.この手法は,震源や地震規模の推定を行わずに,周辺の震度観測を参照して震度予測を行うものである.それゆえ,特に,震源域の広い地震が起きた際に役に立っている,しかし,現行のスキームでは,対象地点から30 km圏内の観測点を利用するため,少なくとも30km間隔よりも高密度の観測網が必要となる.日本以外の国では,このように高密度な観測網が整備されていない国も多い.そのため,疎な観測網にも適用可能なPLUM法のスキームの設計が,当座の課題となっている.

 本研究では,現在まだPLUM法が運用されていないトルコで起きた,広い震源域を持つ地震 (the 2023 Türkiye–Syria Earthquake, Mw 7.8) に着目した.この地震は2023年2月6日 01:17:34 (UTC)に発生し,震央は37.226°N 37.014°E,震源の深さは10.0 kmであった.用いた地震計のデータの期間は01:17:05 から01:26:20まで,有効な観測点の数は249個であった.この地震に対して,まず試験的に現行のPLUM法を適用し,続いて,その改良を試みた.

 現行のPLUM法のスキームでは,対象地点を囲む半径R = 30 km の円内の観測点の震度と,その地域の地盤特性を用い,各観測点から対象地点へ伝播する地震動の震度をそれぞれ計算して,その中の最大値を対象地点の予測震度としている.しかしながら今回のデータでは,30km圏内に他の観測点が一つもない観測点が74点 (27%),一つしかない観測点が87点 (32%) あり,カバレッジは十分とは言えない.そこでまず,予測に使う観測点の距離Rを 10km - 90km の範囲で 5km 刻みで変化させて,シミュレーションを行った.さらに,震度については,日本の気象庁で用いられているリアルタイム震度と同じ手法を,今回のデータにも適用した.

 続いて,一つのRにとらわれずにフレキシブルに予測の参照範囲を選択する,拡張的手法を考えた.「ドロネーの三角形分割」を活用する手法である.まず,対象地点を囲む半径R1の円内の観測点を全て列挙する.次に,半径R2 (> 2 R1) の円内にあって,対象地点と「ドロネー辺」で結ばれる観測点を近い順で拾っていく.ただし,「合計点数が N 以上,かつ,対象地点からの方位角の開きの最大値 := Max Gap Angle がθ以下である」という条件を満たした時点で打ち切って,それ以上拾わない.これらの観測点を参照し,現行手法と同様に震度予測を行う.

 新しく提案した拡張型観測点選択法は,その特性上必ず近傍に予測可能な観測点を確保することができるうえ,距離固定の場合と比較して猶予時間の中央値も長くなり,各観測点の観測震度と予測震度の誤差も小さくなった.また,予測誤差と猶予時間の関係にはトレードオフが存在することが分かった.
 拡張型観測点選択法は,対象観測点からの距離を可変とすることにより,予測可能な観測点数を自由に設定することが可能である.この特性を利用して,予測誤差を重視するか,猶予時間を重視するか,目的に応じた設定もできる.総合的に,現行の距離固定とした観測点選択手法よりもドロネーの三角形を活用した拡張的手法のほうが,よりよい結果が得られたと言える.