日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2024年5月27日(月) 15:30 〜 16:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:友澤 裕介(鹿島建設)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、座長:津野 靖士(公益財団法人鉄道総合技術研究所)、友澤 裕介(鹿島建設)

15:45 〜 16:00

[SSS10-08] 減衰項をもつ多自由度系の運動方程式の理論解に基づく時間積分手法の提案

*小林 剣大1木村 春里1、横山 最大1友部 遼1盛川 仁1 (1.東京工業大学)

キーワード:多自由度系、運動方程式、力積応答関数、Duhamel積分

震動解析の手法の一つとして,解析領域を離散化して多自由度系として扱い,入力地震動に対する動的応答を数値的に計算する手法がある.この手法を地盤のような半無限領域で近似されるシステムに適用すると,自由度が大きくなるので時間積分の実行に要する時間が膨大になる.そのため,高速に,かつ高精度で多自由度系の運動方程式を時間積分する手法が求められている.
近年,微分方程式を理論解に基づいて時間積分する手法が提案されている(例えばAl-Mohy et al., 2015やBesten, 2022).この手法は,高精度の結果が得られるうえ,連立一次方程式の収束計算も不要な時間積分法である.しかし,これらの手法は,理論解が容易に求まる,減衰項をもたない多自由度系の運動方程式を対象としている.減衰項をもつ場合は,理論解を求めるのが困難なため,上記の論文と同様の手法は用いることができないが,著者らは外力項をもたない同次形については,減衰機構がRayleigh減衰であれば,その理論解を容易に求められることを発見した.本研究では,この同次形の理論解を用いて力積応答関数を計算し,系が線形システムであれば,それと与えたい外力をDuhamel積分することで,減衰項をもつ非同次形についても,任意外力に対する応答を理論解に基づいて計算できる手法を提案する.なお,力積応答関数の計算に際しては,数値振動を抑制するために,理論解に基づいた時間積分とデジタルフィルタを組み合わせた,Tomobe et al. (2024)の手法を用いる.
提案手法を1次元波動場の問題に適用し,その性能を評価した.ここでは,提案手法とNewmark-beta法(Newmark, 1959)とで精度の比較をした.材料定数等はSharma et al. (2022)が数値計算例で用いているものに設定した.その結果,提案手法とNewmark-beta法の計算結果はほぼ一致することが確認された.提案手法は連立一次方程式を解く必要がないにも関わらず,それを解くNewmark-beta法と同等の精度で計算できるので,線形かつRayleigh減衰であるシステムの計算においては,提案手法による時間積分が,より高速な計算手法として有用である.しかし,提案手法にデジタルフィルタを導入しない場合には,得られる結果はNewmark-beta法の結果と一致しない.Rayleigh減衰は,高振動数成分の減衰が強いという特性を有するが,不自然な高周波成分を十分に抑制するためには,デジタルフィルタも導入しなければならないことが明らかとなった.
本研究では,減衰項を含む多自由度系の運動方程式を,理論解に基づいて時間積分する手法を新たに提案した.提案手法はその適用範囲内でNewmark-beta法と同等の精度で計算できることが確認された.今後の研究では,実際の地盤の動的応答計算に用いるために,吸収境界の導入について議論することが求められる.また,提案手法の線形システムにのみ適用可能という制約を外すために,非同次形の理論解を求めることも重要な検討課題である.