17:15 〜 18:45
[SSS10-P02] 能登半島周辺で発生した地震による首都圏の長周期地震動
キーワード:長周期地震動、東京湾沿岸、令和6年能登半島地震、応答スペクトル
1.はじめに
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震は,Mj7.6(Mw7.5)という規模の大きな地震であり,震央から300 km以上離れた首都圏でも震度2~3,長周期地震動階級2を記録し,多くの強震計で記録が得られている.そのため,首都圏の長周期地震動特性を把握する貴重な機会と考えられる.また,東京湾岸の火力発電所では2006年から広帯域速度型強震計(東京測振:VSE-355G3)による地震観測が行われている.その記録を用いて,今回の地震と過去の大地震や能登半島周辺で発生したMj6程度以上の地震を比較した.
2.東京湾岸における記録の特徴
東京湾岸の火力発電所で得られた速度記録は,最大速度振幅が3~5 cm/sで,堆積平野に位置しない観測点の波形と比較すると継続時間が長く,周波数分散が進んだ波形をしている.継続時間は西岸(神奈川県側)よりも東岸(千葉県側)が長い傾向があり,周波数分散も進んでいる.速度応答スペクトル(h=5%)は,どの観測点も5~10秒の振幅が大きい.なお,過去に得られた大地震の記録と比較すると,周期10秒付近における振幅は,2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9)とその最大余震(茨城県沖:Mj7.6)に次いで3番目であった.
3.長周期地震動強さの空間分布
火力地点の記録に加え,気象庁の加速度記録,防災科技研のK-NET,KiK-netの記録を用いて擬似速度応答スペクトル値(h=5 %)(周期5秒,7秒,10秒における水平2成分の幾何平均)の空間分布を作成した[添付図参照].周期5秒や7秒では東京湾沿岸部から埼玉県東部にかけて値の大きな観測点が存在する.周期5秒では,埼玉県東北部で大きく,周期7秒では,東京・千葉の境界部で大きい.周期10秒では,千葉周辺(東京湾の湾奥部)で大きい.振幅の大きな観測点の分布は,基盤の深いところに対応していると考えられる.
4.能登半島周辺で発生した地震の比較
火力発電所で得られた記録を用いて,今回の地震の記録を能登半島周辺で発生したMj6~7クラスの4地震と比較を行った.対象は,(1)2007年3月25日(Mj6.9),(2)2023年5月5日14:42(Mj6.5),(3)2023年5月5日21:58(Mj5.9),(4)2024年1月9日17:59(Mj6.1)である.これらの地震は,震央距離が300~350 kmであり,東京湾岸から見てほぼ同じ方向から地震波が来ていると見なせる範囲である.なお,2024年1月1日16:18に発生したMj6.1の地震は,Mj7.6の地震の後続波に重なり,独立した分析は不可能であった.また,(4)の地震は,震央がやや佐渡寄りであるが,一連の地震として分析に加えた.
(速度振幅及び波形)
これらの地震による最大速度振幅の対数値はマグニチュードにほぼ比例しており,地震規模の影響が大きい.また,(1),(2),(3)の速度波形は,1月1日の地震とよく似ており,伝播・サイト特性の影響が大きいと考えられる.ただし,佐渡近海の地震[(4)]は振幅がやや大きめで,波形についても後続波群の性状が異なっている.
(スペクトル特性)
速度フーリエスペクトル形状を比較すると,0.1 Hzより高周波数側で地震毎の違いが確認出来る.(1)の地震は0.4 Hz付近に段差があり高周波数側の振幅が大きくなっている.(3)の地震では0.5 Hzより高周波数側のスペクトルが大きい.(4)の地震は0.2 Hz付近から大きくなっているように見える.また,速度応答スペクトル(h=5 %)で見ると(1)の地震は周期2秒のピークが明瞭で,(3)の地震では周期1.5秒付近のピークが確認できる.(4)の地震では明瞭なピークはないが,スペクトル振幅が相対的に大きい.
5.おわりに
2024年1月1日の能登半島地震Mj7.6により,東京湾岸で得られた記録は,継続時間が長く,分散性が明瞭であった.また,周期10秒の速度応答は,東北地方太平沖地震(Mw9.0),その最大余震(茨城沖Mj7.6)に次ぐレベルであった.なお,周期7秒の振幅が大きい地域は,東京湾沿岸から埼玉県東部にかけて延びているが,周期10秒付近の振幅は東京湾東側の千葉周辺で最も大きかった.
Mj7.6の記録を能登半島周辺で発生したMj5.9以上の4地震による記録と比較すると,最大速度振幅はマグニチュードに比例する形で大きくなり,波形はマグニチュードが変化しても類似していることがわかった.また,スペクトルを比較すると地震毎に特徴があることが明らかになった.
謝辞
防災科技研のK-NET,KiK-netの観測記録,気象庁の観測記録を用いました.また,火力地点の観測は(株)JERAのご協力のもと実施しています.記して感謝いたします.
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震は,Mj7.6(Mw7.5)という規模の大きな地震であり,震央から300 km以上離れた首都圏でも震度2~3,長周期地震動階級2を記録し,多くの強震計で記録が得られている.そのため,首都圏の長周期地震動特性を把握する貴重な機会と考えられる.また,東京湾岸の火力発電所では2006年から広帯域速度型強震計(東京測振:VSE-355G3)による地震観測が行われている.その記録を用いて,今回の地震と過去の大地震や能登半島周辺で発生したMj6程度以上の地震を比較した.
2.東京湾岸における記録の特徴
東京湾岸の火力発電所で得られた速度記録は,最大速度振幅が3~5 cm/sで,堆積平野に位置しない観測点の波形と比較すると継続時間が長く,周波数分散が進んだ波形をしている.継続時間は西岸(神奈川県側)よりも東岸(千葉県側)が長い傾向があり,周波数分散も進んでいる.速度応答スペクトル(h=5%)は,どの観測点も5~10秒の振幅が大きい.なお,過去に得られた大地震の記録と比較すると,周期10秒付近における振幅は,2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9)とその最大余震(茨城県沖:Mj7.6)に次いで3番目であった.
3.長周期地震動強さの空間分布
火力地点の記録に加え,気象庁の加速度記録,防災科技研のK-NET,KiK-netの記録を用いて擬似速度応答スペクトル値(h=5 %)(周期5秒,7秒,10秒における水平2成分の幾何平均)の空間分布を作成した[添付図参照].周期5秒や7秒では東京湾沿岸部から埼玉県東部にかけて値の大きな観測点が存在する.周期5秒では,埼玉県東北部で大きく,周期7秒では,東京・千葉の境界部で大きい.周期10秒では,千葉周辺(東京湾の湾奥部)で大きい.振幅の大きな観測点の分布は,基盤の深いところに対応していると考えられる.
4.能登半島周辺で発生した地震の比較
火力発電所で得られた記録を用いて,今回の地震の記録を能登半島周辺で発生したMj6~7クラスの4地震と比較を行った.対象は,(1)2007年3月25日(Mj6.9),(2)2023年5月5日14:42(Mj6.5),(3)2023年5月5日21:58(Mj5.9),(4)2024年1月9日17:59(Mj6.1)である.これらの地震は,震央距離が300~350 kmであり,東京湾岸から見てほぼ同じ方向から地震波が来ていると見なせる範囲である.なお,2024年1月1日16:18に発生したMj6.1の地震は,Mj7.6の地震の後続波に重なり,独立した分析は不可能であった.また,(4)の地震は,震央がやや佐渡寄りであるが,一連の地震として分析に加えた.
(速度振幅及び波形)
これらの地震による最大速度振幅の対数値はマグニチュードにほぼ比例しており,地震規模の影響が大きい.また,(1),(2),(3)の速度波形は,1月1日の地震とよく似ており,伝播・サイト特性の影響が大きいと考えられる.ただし,佐渡近海の地震[(4)]は振幅がやや大きめで,波形についても後続波群の性状が異なっている.
(スペクトル特性)
速度フーリエスペクトル形状を比較すると,0.1 Hzより高周波数側で地震毎の違いが確認出来る.(1)の地震は0.4 Hz付近に段差があり高周波数側の振幅が大きくなっている.(3)の地震では0.5 Hzより高周波数側のスペクトルが大きい.(4)の地震は0.2 Hz付近から大きくなっているように見える.また,速度応答スペクトル(h=5 %)で見ると(1)の地震は周期2秒のピークが明瞭で,(3)の地震では周期1.5秒付近のピークが確認できる.(4)の地震では明瞭なピークはないが,スペクトル振幅が相対的に大きい.
5.おわりに
2024年1月1日の能登半島地震Mj7.6により,東京湾岸で得られた記録は,継続時間が長く,分散性が明瞭であった.また,周期10秒の速度応答は,東北地方太平沖地震(Mw9.0),その最大余震(茨城沖Mj7.6)に次ぐレベルであった.なお,周期7秒の振幅が大きい地域は,東京湾沿岸から埼玉県東部にかけて延びているが,周期10秒付近の振幅は東京湾東側の千葉周辺で最も大きかった.
Mj7.6の記録を能登半島周辺で発生したMj5.9以上の4地震による記録と比較すると,最大速度振幅はマグニチュードに比例する形で大きくなり,波形はマグニチュードが変化しても類似していることがわかった.また,スペクトルを比較すると地震毎に特徴があることが明らかになった.
謝辞
防災科技研のK-NET,KiK-netの観測記録,気象庁の観測記録を用いました.また,火力地点の観測は(株)JERAのご協力のもと実施しています.記して感謝いたします.