日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:友澤 裕介(鹿島建設)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)

17:15 〜 18:45

[SSS10-P04] 経験的モード分解に基づく断層近傍の強震動パルスの抽出:2023年トルコ・シリア地震(Mw7.8)の解析

*松穗 瑛人1中原 恒1 (1.国立大学法人東北大学)

キーワード:強震動パルス、2023年トルコ・シリア地震、経験的モード分解

はじめに

 断層近傍では強震動パルスが観測されることがあり、建造物に大きな被害をもたらすことが知られる。これまで断層近傍の速度波形から強震動パルスを客観的に抽出する方法としてウェーブレット変換を用いた手法が多く用いられてきた(例えば、Baker, 2007)。この手法では、波形の中からパルスと同形状のマザーウェーブレットに合う部分を見つけることで、パルスの抽出を行う。そのため、用いるマザーウェーブレットの違いが抽出されるパルスに影響を与える。一方、Chen et al. (2019)は経験的モード分解(EMD)を用いて強震動パルスを抽出する手法を提案した。EMDは波形を複数の固有モード関数 (IMF) と呼ばれる振動モードに分解するため、マザーウェーブレットを仮定する必要がない。

 2023年2月6日現地時間4時17分にトルコ中南部でMw7.8の左横ずれ型の地震が発生した。この地震では断層近傍で多くの強震動記録が得られた。Wu et al. (2023)は、この地震の観測波形に対して、ウェーブレット変換に基づくBaker (2007)の手法でパルス抽出を行っている。しかし、この手法では1つのパルスしか抽出できないという問題がある。この地震では複数の断層セグメントが破壊したことが分かっており(例えば、Xu et al., 2023)、それに伴い複数のパルスが生じている可能性がある。そこで本研究では、複数のパルスの抽出が可能なEMDに基づく手法(Chen et al., 2019 ; Chen et al., 2020)を用いてパルス抽出を行った。


手法

 解析には東アナトリア断層近傍の13観測点における加速度波形の水平動2成分(南北・東西成分)を用いた。数値積分で速度波形に変換した後、30秒のメジアンフィルター(渡邉・他, 2021)を用いて基線補正を行った。その後、水平面内で10度ずつ回転させ、0度から360度までの各方向の波形に対して、EMDに基づく手法を用いてパルス(rough pulse)の抽出を試みた。パルスの抽出はPGV/PGA比とエネルギー変化の基準を満たすIMFを選択することで行った。抽出されたパルスは波形のパルス度合を表すPulse Indicator (Baker, 2007)を用いて評価し、各観測点のパルスの卓越方位を調べた。その後、全体のエネルギーの5%以上の半パルスを固有パルス(inherent pulse)として取り出し、ゼロクロッシングの時間差から周期を求めた。

結果

 パルス抽出を行った結果、多くの観測点で断層走向直交方向の波形から指向性パルスが抽出され、Pulse Indicatorの値が大きくなった。一方、断層極近傍の観測点ではフリングステップによって断層走向平行方向の波形からもパルスが抽出された。多くの観測点では1つのパルス群しか抽出されなかった。一方、観測点4615では2つのパルス群が抽出された。実際にはこの観測点ではもう1つの波群も観測されているが、今回の基準ではパルスとしては抽出されなかった。断層直交方向(最終変位が最大になる方向に直交する方向として決定した)のパルスの周期・PGVを既存のスケーリング則と比較すると、地震のマグニチュードとパルスの周期間のスケーリング則(Chen et al. ,2020)とは概ね一致した。一方、距離とPGV間のスケーリング則については、今回の結果は既往の関係式(Chen et al. ,2020 ; 司・翠川, 1999)と比べてやや小さかった。距離とパルスの周期の間には明らかな関係性は見られなかった。

議論

 観測点4615で抽出された2つのパルスそれぞれについて、変位を求めた結果、1つ目のパルスは南北方向、2つ目のパルスは北東-南西方向で最大になった。観測点4615は2つの断層セグメントの近傍に位置し、最初に破壊された断層セグメントとその後に破壊された断層セグメントの走向方向がそれぞれ概ね南北方向と北東-南西方向であることから、2つのパルスは異なる断層セグメントによって生じたと考えられる。

結論

 EMDに基づく手法を用いて、トルコ・シリア地震(Mw7.8)の断層近傍の強震動記録からパルスの抽出を行った。その結果、指向性パルスやフリングステップに起因するパルスが抽出された。また、観測点4615では、2つのパルスを抽出することに成功した。EMDに基づく手法により複数のパルスを抽出できることを確認できた。

[謝辞]

本研究の解析では、the Disaster and Emergency Management Authority (AFAD) の強震記録を使用させて頂きました。