日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 活断層と古地震

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、矢部 優(産業技術総合研究所)、安江 健一(富山大学)

17:15 〜 18:45

[SSS11-P03] 青沢断層における大気中メタン濃度のアノマリについて

*下茂 道人1丹羽 正和2、横井 悟3八木 浩司1徳永 朋祥4 (1.(公財)深田地質研究所、2.日本原子力研究開発機構、3.(公財)地球環境産業技術研究機構、4.東京大学)

キーワード:庄内平野東縁断層帯、青沢断層、ガスマイグレーション、メタンアノマリ、キャビティリングダウン分光法

山形県の庄内平野と出羽丘陵の境界部には、東から、青沢断層、酒田衝上断層群、観音寺・生石断層が分布する。これらの出羽丘陵西縁を限る断層群(庄内平野東縁断層帯)は、断層移動(前進)(あるいは断層活動場のマイグレーション)と地形形成に関する研究、地震断層としての機能、余目油田の石油集積メカニズムなどに関連して、これまで多くの調査や探査が実施されてきた。

本研究では、地下深部からのガスマイグレーションの経路としての断層の役割に焦点を当て、断層に沿った微量なガス滲出の検知を目的として、これらの断層を通過する測線で、地表近くのメタン濃度を測定した。測定には、レーザー光共振器による吸収分光法の一種である、キャビティーリングダウン分光法(CRDS法)を用いた。

CRDS法は、キャビティ(測定容器)内にレーザー光を導入し、一対の高反射ミラー間を多数回反射させた際にミラーから漏れ出る光の強度を測定し、その減衰率からキャビティ内のガス濃度を求める技術である。本研究では、可搬型のCRDS測定装置(G4301、米国Picarro社製)を車両に搭載し、外気をチューブで吸引しながら低速度(約20km/時)で走行し、地表近くのメタン濃度を測定した。同装置は、メタン濃度を3 ppbの精度で、応答時間1秒未満で測定することが可能である。測定データはWi-Fiを介して無線接続されたタブレットでリアルタイムに確認でき、取得されたデータはGPSによる位置情報と共にPCのハードディスクに保存される。

現地でのメタン濃度測定は、庄内平野から酒田衝上断層を東西に通る測線および出羽丘陵西端の青沢断層を通る測線の2か所で実施した。その結果、酒田衝上断層群を横切る測線での測定では、顕著なメタンアノマリはほとんど確認されなかった。一方、青沢断層では、東西方向の2つの測線(南北に約3km離れる)のいずれにおいても、断層が想定される場所で顕著なメタン濃度の上昇が確認された。大気中メタン濃度は最大で15ppmに達し、バックグラウンドレベル(約2ppm)および装置の測定精度(3ppb)と比較しても、明らかに有意な値であった。往復測定により、ほぼ同じ地点でメタン濃度の上昇が観測され、その再現性も確認された。著者らの知る限りにおいて、これまでに青沢断層でのメタンの滲出を示す測定事例は報告されておらず、CRDS測定技術を用いたことで初めて可能となった。

今回の測定結果は、当該地域に分布する断層のうち、青沢断層が地下深部のメタンソースと連結するガスマイグレーションパスとして機能していることを示唆するもので、断層構造や周辺の石油システムとの関連についても新たな視点を提供することが期待される。

今後は、測定範囲を広げるとともに、滲出量の定量化、ガスサンプルの化学・同位体分析を通じて、メタンの滲出範囲、挙動、および起源に関する更なる情報の収集を目指す。