[S-SS11] 活断層と古地震

[SSS11-P04] 糸魚川―静岡構造線北部神城断層における詳細地形計測を用いた古地震イベントの変位量復元

*太田 麗¹、松多 信尚¹、杉戸 信彦²、シュー ブルース³、廣内 大助⁴ (1.国立大学法人岡山大学、2.法政大学、3.国立台湾大学、4.国立大学法人信州大学)

キーワード：神城断層、変動地形、古地震、糸魚川―静岡構造線活断層帯、レーザー測量

2014年11月22日22時08分頃（JST）発生した2014年長野県北部の地震（神城断層地震 ）(Mj6.7) によって糸魚川―静岡構造線北部の神城断層に沿って、長さ約９kmの明瞭な地表地震断層が出現した (廣内ほか, 2014など)。それまでの神城断層の地震評価では、M7.5程度の地震が発生すると推測されていた (鈴木ほか, 2010)。また、予想される鉛直変位量は1.5m~3.0mであると考えられていた (松多ほか, 2006)。しかし、2014年に起きた地震の規模は、従来の推定よりもかなり小規模であったうえ、地震による最大鉛直変位量は0.8m程度であった (石村ほか, 2015など)。そのため、2014年の地震は、地形・地質学的に推定された神城断層の固有地震と一致しないと考えられている (勝部ほか, 2017)。このような大きな変位を伴う一回り小さな地震の評価は地震の長期評価にとって課題である。そこで、更なる古地震データを取得し、地震の規模や運動センス等を再検討することで、固有地震と2014年の様な地震との関係性を明らかにする必要がある。

一般的に横ずれ変位量は、基準となる段丘崖等の形状を考慮した確度の良い変位量を測定することが、 縦ずれ変位と比較して難しい。しかし、近年はレーザー測量などの地形計測技術の進歩に伴いDTMなどから地形測量を行うことで横ずれ変位量の計測が試みられるようになった(中田ほか, 2008)。

本研究では、神城断層の活動によって変位した河岸段丘群を、レーザー測量による計測から５cm間隔の詳細な地形データを作成し、古地震の地震毎の縦ずれ変位量と横ずれ変位量をそれぞれ導き出すことで、神城断層の運動センスの多様性を検討した。調査地域は2か所であり、白馬村蕨平の姫川右岸の杉戸ほか (2015) のM面に相当するエリア１と、森上の松川の旧河道上の水田の一部のエリア２である。地形データの取得にはLIVOX社のAviaを使用し、2023年4月30日と、2023年12月7日から8日の３日間にかけて点群の地形データを取得した。

エリア１の白馬村蕨平の姫川右岸で取得した点群データの総点数は、草木などのノイズを除去する前の状態で228,281,205点であった。取得した点群データは、解析ソフトTRENDPOINTを用いて草木などの地表面以外の点群を除去した後に、DTMに加工し、５cmメッシュを作成した。また、QGISを用いて傾斜方向を明らかにすることで、旧河川の浸食の向きを示し、同一の河岸段丘面と判断するための参考とした。そして、それぞれの河岸段丘面において、相似的な段丘崖の向きと浸食方向の性格をもつものを同じ河岸段丘面と判断し、横ずれ量の解析を行なった。さらに、Global Mapperを用いて断面図を作成し、縦ずれ変位量も測定した。 解析の結果、松多ほか (2006)では、合計7段の活断層による変位を受けた河岸段丘面が認められ、３つのイベントの存在が明らかにされていたが、今回は、それよりも1段多い、合計８段の河岸段丘が認められた。また、４～５つのイベントの存在が考えられた。また、最も古い段丘面から順にL1～L8面としたところ、鉛直変位量は松多ほか (2006) の報告とほとんど差異のない結果となったが、横ずれ量に関しては異なる結果が得られた。

エリア２の森上の姫川の左岸付近では、1948年までに撮影された米軍撮影空中写真を用いてアナグリフを作成し、地形判読を行った。判読の結果、北東方向から南西に向かって流れる松川の旧河道を確認することができた。また、その一部で下流側が上流側よりも隆起している地域が確認された。これは松多ほか (2006) でも確認されている。今回は、その周辺をハンディのレーザー測量器を用いて地形データを取得した。取得した点群の総数は91,057,126点で、これからGlobal Mapperを用いて10cmメッシュと断面図を作成した。人工改変が多く、正確な隆起量を求めることはできなかったが、旧河道の上流側が下流側よりも高くなっていることを断面図からも確認することができた。