日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 活断層と古地震

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、矢部 優(産業技術総合研究所)、安江 健一(富山大学)

17:15 〜 18:45

[SSS11-P07] 熊本城公園に推定される立田山断層周辺の地質構造

*大上 隆史1太田 耕輔1根本 夏林1,2、Lloyd Sabrina1,2星住 英夫1、丸山 正1宮下 由香里1藤原 治1 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2.東京大学 大気海洋研究所)

キーワード:立田山断層、更新世、断層崖、ボーリング調査

立田山断層は熊本県熊本市を北東―南西方向に延び,断層の北西側を相対的に沈降させる活断層である.本断層は渡辺(1984,1987)によって断層トレースや断層露頭が記述され,熊本県(1996)による活断層調査が実施されている.立田山断層は,渡辺(1984)に従えば長さ約14 kmの活断層である.しかしながら,地理院活断層図(熊原ほか,2017)において活断層として示されている立田山断層は,立田山西麓の2.6 km程度の範囲に限定されている.すなわち,熊原ほか(2017)で示された領域を除けば,立田山断層による新しい地形面の変形が確認できていない.立田山断層で発生する地震規模や地震に伴う地表変形の評価に向けて,本断層の過去の活動に関するデータを複数地点で取得し,断層の長さおよび分布について検討することが重要である.
京町台地の南端に位置する熊本城公園の北側には,北向きの崖地形(比高:約12 m)が形成されている.渡辺(1984)はこの崖地形を立田山断層による断層崖であるとしたが,地理院活断層図(熊原ほか,2017)にはこの崖に沿った活断層トレースが示されていない.熊本城公園一帯の地形面は阿蘇4火砕流堆積物(Aso-4)によって形成されているが,熊本城の築城時およびその後の軍用地等としての利用時に地形改変を受けている.この崖地形についても,崖は石垣として利用され,崖を挟んだ両側のエリアは平坦化されているため,変動地形を詳細に検討することは困難である.熊本県(1996)はこの崖地形を挟む2地点で掘削長45 mおよび40 mのボーリング調査を実施し,Aso-4の基底面が崖地形を挟んで上下方向に約13.3 mの高度差を持つことを示した.その後,2016年熊本地震で被災した熊本城の復旧等のために,熊本城公園内において複数のボーリング調査が実施された(熊本城調査研究センター,2019).これらのボーリング調査(掘削長は最大で96 m)ではAso-4およびその下位の阿蘇3火砕流堆積物(Aso-3)を貫き,さらに下位の河川〜湖沼の堆積物と,砥川溶岩(132-135 ka, Miyoshi et al., 2013)を確認している.Aso-4の基底面高度,Aso-3の基底面高度ならびに砥川溶岩の上面高度に着目すると,崖地形を挟んでこれらの層準の高度差に累積性が認められる.また,崖地形の北側(低下側)においては湖沼の堆積物がほぼ水平に分布しているが,その一部は崖地形の南側(隆起側)にも分布している可能性がある.この崖地形が断層崖であるとすれば,この地層(分布および変形)は断層による上下変位を精度良く記録していると期待される.
以上のように,熊本城公園の地下の層序および地下構造を精度良く明らかにすることは,熊本城公園の北側の崖地形が立田山断層による断層崖であるかどうか,すなわち立田山断層が熊本城公園を含む領域に延びているかを検討する上で非常に重要である.そこで,産総研では「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備」の一環として,2022年度から熊本城公園内における新たなボーリング調査(太田ほか,2024a)を含む調査研究に取り組んできた.本発表では現時点での検討結果について報告する.なお,新たに実施したボーリング調査で得られた成果の詳細については別発表(太田ほか,2024b.本大会)で報告する.

引用文献
熊原ほか(2017)1:25,000活断層図「熊本」改訂版.
熊本城調査研究センター(2018)「熊本城二の丸ほか地質調査業務委託」成果報告書.
熊本県(1996)「布田川断層帯・立田山断層に関する調査」成果報告書.
Miyoshi et al., (2013) Chemical Geology.
太田ほか(2024a)活断層・古地震研究報告.
太田ほか(2024b)JpGU2024.
渡辺(1984)熊本地学会誌.
渡辺(1987)熊本地学会誌.