17:15 〜 18:45
[SSS11-P08] 熊本城公園に推定される立田山断層周辺の地質構造解明に向けたボーリング調査
キーワード:立田山断層、ボーリング調査、活断層、古地震、熊本県
立田山断層は熊本県熊本市を北東―南西方向に延び,断層の北西側を相対的に沈降させる活断層である.本断層は渡辺(1984,1987)によって断層トレースや断層露頭が記述され,熊本県(1996)による活断層調査が実施されている.立田山断層は,渡辺(1984)に従えば長さ約14 kmの活断層である.しかしながら,地理院活断層図(熊原ほか,2017)において活断層として示されている立田山断層は,立田山の西麓の2.6 km程度の範囲に限定されている.すなわち,熊原ほか(2017)で示された領域を除けば,立田山断層による新しい地形面の変形が確認できていない.立田山断層で発生する地震規模や地震に伴う地表変形の評価に向けて,本断層の過去の活動に関するデータを複数地点で取得し,断層の長さおよび分布について検討することが重要である.
熊本城公園北部には,立田山断層による断層崖であると推定されている崖地形が発達しており,熊本県(1996)および熊本城調査研究センター(2019)の報告によれば,崖地形を挟んで北側で,更新統の堆積物および火砕物の分布高度が累積的に低下している(大上ほか,2024.本大会).こうした地質構造は,この崖地形が断層崖であり,第四紀の後期に上下変位を伴う地震活動を繰り返してきたことを示唆している.特に阿蘇3火砕流堆積物(Aso-3)と砥川溶岩に挟まれる泥質堆積物はほぼ水平に形成された可能性が高く,この崖地形が断層崖であるとすれば,立田山断層による上下変位を精度良く保存していると期待される.以上の背景のもと,産総研では「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備」の一環として,2022年度に熊本城公園北部の崖地形を挟む2地点でボーリング調査を行った(太田ほか,2024).
既存のボーリング資料の検討結果にもとづいて掘削地点および掘削深度を決定し,崖地形を挟んで南側(隆起側,GS-KMJ-1 地点)でコア長74 m の,北側(低下側,GS-KMJ-2 地点)でコア長114 mのボーリングコア試料を採取した.ボーリングコア試料は暗室にてOSL測定用試料のサンプリングを行った後,X線CTスキャナ(日立製作所 製 Supria Grande)を用いて非破壊検査を行った.さらに,堆積物コア試料を半割し,写真撮影,肉眼による岩相観察,各種分析のためのサンプリングを行った.
2地点における層序は概ね共通しており,上位から大きく5つの岩相ユニット(A〜E)に区分できる(太田ほか,2024).ユニットAは地表面を構成し,熊本城造成開始以降の人工改変を受けた凝灰質砂〜シルトおよび盛り土からなる.岩相ユニットBは阿蘇4火砕流堆積物(Aso-4)によって構成され,上部は風化して褐色を,下部は新鮮な黒〜暗灰色を呈する.ユニットCはAso-3によって構成され,上部は風化して褐色を,下部は新鮮な黒〜暗灰色を呈する.ユニットDは崖地形の北側(GS-KMJ-2地点)にのみ認められ,パラレルラミナの発達する泥質堆積物と,クロスラミナが発達し上方粗粒化を示す砂質堆積物によって構成される.ユニットEは角礫および火砕物によって構成される.
崖地形およびその周囲の地形は人工改変を受けているものの,本研究で取得したボーリングコアの観察の結果,崖地形が段丘地形として形成されたことを示す河川堆積物は地表面付近には確認できなかった.また,既存のボーリング資料と同様に,ユニットBとユニットCの基底面の高度は,崖地形を挟んで北側(低下側)で累積的に低下している.ユニットDに対比される泥質堆積物がGS-KMJ-1 地点の南側にある既存ボーリング試料で確認されており,ユニットDの分布は偏在しているものと考えられる.ユニットEはGS-KMJ-1とGS-KMJ-2地点で対比できる可能性があるが,現時点ではその詳細は不明である.なお,既存のボーリング調査ではユニットDの下位に砥川溶岩が確認されているが,本研究でボーリング調査を実施した2地点では砥川溶岩に相当する多孔質の溶岩は確認できなかった.このことは,砥川溶岩の流下時(およびその上位のユニットDの堆積時)に,調査地点周辺の地形に起伏があったことを示唆する.
新たに実施した2地点におけるボーリング調査の結果,熊本城公園北部に発達する崖地形周辺の地質構造について,既存の調査結果を追認することができた.本発表ではボーリングコア試料の岩相に加え,火山灰分析,微化石分析,元素分析の結果にもとづいて,各岩相ユニットの具体的な堆積環境および形成時期について考察し,熊本城公園北部に発達する崖地形の形成プロセス(この地点に推定される立田山断層による上下変位およびその影響)について議論する.
文献
渡辺(1984)熊本地学会誌.
渡辺(1987)熊本地学会誌.
大上ほか(2024)JpGU2024.
太田ほか(2024)活断層・古地震研究報告.
熊原ほか(2017)1:25,000 活断層図「熊本」改訂版.
熊本県(1996)「布田川断層・立田山断層に関する調査」成果報告書.
熊本城調査研究センター(2019)「熊本城二の丸ほか地質調査業務委託」成果報告書.
熊本城公園北部には,立田山断層による断層崖であると推定されている崖地形が発達しており,熊本県(1996)および熊本城調査研究センター(2019)の報告によれば,崖地形を挟んで北側で,更新統の堆積物および火砕物の分布高度が累積的に低下している(大上ほか,2024.本大会).こうした地質構造は,この崖地形が断層崖であり,第四紀の後期に上下変位を伴う地震活動を繰り返してきたことを示唆している.特に阿蘇3火砕流堆積物(Aso-3)と砥川溶岩に挟まれる泥質堆積物はほぼ水平に形成された可能性が高く,この崖地形が断層崖であるとすれば,立田山断層による上下変位を精度良く保存していると期待される.以上の背景のもと,産総研では「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備」の一環として,2022年度に熊本城公園北部の崖地形を挟む2地点でボーリング調査を行った(太田ほか,2024).
既存のボーリング資料の検討結果にもとづいて掘削地点および掘削深度を決定し,崖地形を挟んで南側(隆起側,GS-KMJ-1 地点)でコア長74 m の,北側(低下側,GS-KMJ-2 地点)でコア長114 mのボーリングコア試料を採取した.ボーリングコア試料は暗室にてOSL測定用試料のサンプリングを行った後,X線CTスキャナ(日立製作所 製 Supria Grande)を用いて非破壊検査を行った.さらに,堆積物コア試料を半割し,写真撮影,肉眼による岩相観察,各種分析のためのサンプリングを行った.
2地点における層序は概ね共通しており,上位から大きく5つの岩相ユニット(A〜E)に区分できる(太田ほか,2024).ユニットAは地表面を構成し,熊本城造成開始以降の人工改変を受けた凝灰質砂〜シルトおよび盛り土からなる.岩相ユニットBは阿蘇4火砕流堆積物(Aso-4)によって構成され,上部は風化して褐色を,下部は新鮮な黒〜暗灰色を呈する.ユニットCはAso-3によって構成され,上部は風化して褐色を,下部は新鮮な黒〜暗灰色を呈する.ユニットDは崖地形の北側(GS-KMJ-2地点)にのみ認められ,パラレルラミナの発達する泥質堆積物と,クロスラミナが発達し上方粗粒化を示す砂質堆積物によって構成される.ユニットEは角礫および火砕物によって構成される.
崖地形およびその周囲の地形は人工改変を受けているものの,本研究で取得したボーリングコアの観察の結果,崖地形が段丘地形として形成されたことを示す河川堆積物は地表面付近には確認できなかった.また,既存のボーリング資料と同様に,ユニットBとユニットCの基底面の高度は,崖地形を挟んで北側(低下側)で累積的に低下している.ユニットDに対比される泥質堆積物がGS-KMJ-1 地点の南側にある既存ボーリング試料で確認されており,ユニットDの分布は偏在しているものと考えられる.ユニットEはGS-KMJ-1とGS-KMJ-2地点で対比できる可能性があるが,現時点ではその詳細は不明である.なお,既存のボーリング調査ではユニットDの下位に砥川溶岩が確認されているが,本研究でボーリング調査を実施した2地点では砥川溶岩に相当する多孔質の溶岩は確認できなかった.このことは,砥川溶岩の流下時(およびその上位のユニットDの堆積時)に,調査地点周辺の地形に起伏があったことを示唆する.
新たに実施した2地点におけるボーリング調査の結果,熊本城公園北部に発達する崖地形周辺の地質構造について,既存の調査結果を追認することができた.本発表ではボーリングコア試料の岩相に加え,火山灰分析,微化石分析,元素分析の結果にもとづいて,各岩相ユニットの具体的な堆積環境および形成時期について考察し,熊本城公園北部に発達する崖地形の形成プロセス(この地点に推定される立田山断層による上下変位およびその影響)について議論する.
文献
渡辺(1984)熊本地学会誌.
渡辺(1987)熊本地学会誌.
大上ほか(2024)JpGU2024.
太田ほか(2024)活断層・古地震研究報告.
熊原ほか(2017)1:25,000 活断層図「熊本」改訂版.
熊本県(1996)「布田川断層・立田山断層に関する調査」成果報告書.
熊本城調査研究センター(2019)「熊本城二の丸ほか地質調査業務委託」成果報告書.