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[STT34-01] 空中重力偏差法探査データを用いて3次元解析した密度モデルからの地質構造の抽出
キーワード:空中重力偏差法探査、3次元解析、密度モデル、地熱資源探査、高水平勾配線
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下,JOGMEC)は地熱資源探査を目的とし,平成24年度に空中重力偏差法探査(Airborne Gravity Gradiometry,以下AGG)を日本で初めて導入した。以降,令和4年度までに全国19地域で探査を実施している。AGGは,空中物理探査の特徴(高い測点密度および海域・陸域など表層の状況によらない均質なデータ取得)に加え,重力偏差法探査の特徴(一般的な地上重力探査よりも浅い深度1~2km程度の密度構造を強調および重力偏差テンソル6成分を用いたより高精度の解析が可能)を生かし,地熱資源探査に成果を上げている。今回,新しい手法を用いて,これまでより確度の高い地熱構造モデルが得られたので報告する。本報告の内容はJOGMEC (2024)として公表されている。
地熱資源探査の指針として構築される地熱構造モデルは,貯留構造,熱源,流体の3要素がどのような性状で,どのような規模で,どのように分布しているかを示したものと考える(例えば,野田, 1997;小川, 1987)。このうち貯留構造については,従来的にはブーゲー異常の鉛直一次微分や水平勾配といったフィルター解析により,重力異常の急変部を断層・断裂帯と解釈しており,掘削ターゲットとされている。ただし,この抽出結果には断層・断裂帯の傾斜方向・角度や深度は表現されない。
これに対して,重力偏差テンソルを3次元解析して得られる密度モデルを用いれば,断層・断裂帯の傾斜方向・角度や深度方向への連続性などを3次元的に解釈することができる。しかしながら,密度モデルは隣り合うセルの密度値が大きくは変化しないよう解析されるため,“密度急変部”であってもその幅は1km程度となっていた。一般的に断層破砕帯の幅は最大でも数100m以下と考えられている。“密度急変部”の幅が1kmもあっては掘削ターゲットの検討材料として不十分なものであった。
これを解決するのが高水平勾配線というアイデアである。
それは密度モデルに見られる密度分布の水平勾配を計算し,密度急変部を反映する高水平勾配帯の尾根をトレースするものである。トレースの幅は100m程度とした。トレースを断層・断裂帯と解釈し,掘削ターゲットをより絞り込むことができるようになったと考える。トレースを高水平勾配線(High Horizontal Derivative Line;HHDL)と呼称する。
北海道武佐岳地域を事例として紹介する。武佐岳地域で抽出されたHHDLは,NS~NE-SW方向に連続する断層やNW-SE方向の断層など地表に見られる既知の地質構造と調和的であり広域応力場でよく説明できるものであった。更にこれら構造の傾斜方向・角度や深度方向の連続性も明瞭になった。これら構造を貯留構造と解釈した。熱源は武佐岳深部の高温岩体あるいはマグマと解釈した。流体流動は時間領域空中電磁探査(JOGMEC, 2017)により見出された低比抵抗をキャップロックと解釈した。これら3要素をあわせて地熱構造モデルを構築した。
水平勾配は重力探査などの標準的で比較的簡便な解析方法である。AGGデータを用いて3次元解析した密度モデルを得られれば,HHDLから3次元的な貯留構造を把握することが可能である。掘削ターゲット選定に大きな威力を発揮すると考えられる。
引用文献
JOGMEC(2017):平成28年度「地熱資源ポテンシャル調査のための広域空中物理探査」報告書
JOGMEC(2024):令和2年度「地熱資源ポテンシャル調査のための広域空中物理探査」別冊報告書
野田徹郎 (1997) :地熱探査の目的は3要素の解明か?地質ニュース, 514, p.23-29.
小川克郎 (1987) :地熱資源調査概要. 新エネルギー財団 昭和61年度地熱開発技術者テキスト, 18p.
地熱資源探査の指針として構築される地熱構造モデルは,貯留構造,熱源,流体の3要素がどのような性状で,どのような規模で,どのように分布しているかを示したものと考える(例えば,野田, 1997;小川, 1987)。このうち貯留構造については,従来的にはブーゲー異常の鉛直一次微分や水平勾配といったフィルター解析により,重力異常の急変部を断層・断裂帯と解釈しており,掘削ターゲットとされている。ただし,この抽出結果には断層・断裂帯の傾斜方向・角度や深度は表現されない。
これに対して,重力偏差テンソルを3次元解析して得られる密度モデルを用いれば,断層・断裂帯の傾斜方向・角度や深度方向への連続性などを3次元的に解釈することができる。しかしながら,密度モデルは隣り合うセルの密度値が大きくは変化しないよう解析されるため,“密度急変部”であってもその幅は1km程度となっていた。一般的に断層破砕帯の幅は最大でも数100m以下と考えられている。“密度急変部”の幅が1kmもあっては掘削ターゲットの検討材料として不十分なものであった。
これを解決するのが高水平勾配線というアイデアである。
それは密度モデルに見られる密度分布の水平勾配を計算し,密度急変部を反映する高水平勾配帯の尾根をトレースするものである。トレースの幅は100m程度とした。トレースを断層・断裂帯と解釈し,掘削ターゲットをより絞り込むことができるようになったと考える。トレースを高水平勾配線(High Horizontal Derivative Line;HHDL)と呼称する。
北海道武佐岳地域を事例として紹介する。武佐岳地域で抽出されたHHDLは,NS~NE-SW方向に連続する断層やNW-SE方向の断層など地表に見られる既知の地質構造と調和的であり広域応力場でよく説明できるものであった。更にこれら構造の傾斜方向・角度や深度方向の連続性も明瞭になった。これら構造を貯留構造と解釈した。熱源は武佐岳深部の高温岩体あるいはマグマと解釈した。流体流動は時間領域空中電磁探査(JOGMEC, 2017)により見出された低比抵抗をキャップロックと解釈した。これら3要素をあわせて地熱構造モデルを構築した。
水平勾配は重力探査などの標準的で比較的簡便な解析方法である。AGGデータを用いて3次元解析した密度モデルを得られれば,HHDLから3次元的な貯留構造を把握することが可能である。掘削ターゲット選定に大きな威力を発揮すると考えられる。
引用文献
JOGMEC(2017):平成28年度「地熱資源ポテンシャル調査のための広域空中物理探査」報告書
JOGMEC(2024):令和2年度「地熱資源ポテンシャル調査のための広域空中物理探査」別冊報告書
野田徹郎 (1997) :地熱探査の目的は3要素の解明か?地質ニュース, 514, p.23-29.
小川克郎 (1987) :地熱資源調査概要. 新エネルギー財団 昭和61年度地熱開発技術者テキスト, 18p.