日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT34] 空中からの地球計測とモニタリング

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、上田 匠(早稲田大学)

17:15 〜 18:45

[STT34-P01] 吾妻山大穴火口付近の空中磁気探査による磁化構造と繰り返し空中磁気探査による時間変化検出の試み

米倉 光1、*市來 雅啓1大熊 茂雄2宮川 歩夢2田中 良3海田 俊輝1柘植 鮎太3、太田 豊宣4橋本 武志3、中塚 正2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.産業技術総合研究所地質情報研究部門、3.北海道大学大学院理学研究院、4.有限会社テラテクニカ)

キーワード:空中磁気探査、磁化、水蒸気噴火、消磁、熱水変質

はじめに
 我々は吾妻山大穴火口周辺で、2021年に空中磁気探査を行い、取得した全磁力データから大穴火口周辺地下の磁化構造を推定して報告した(米倉・他、2023)。本発表は再解析による最終磁化構造モデルを提示し、地盤変動解析による地下の力学膨張源と比較して、大穴火口地下の熱水経路について議論する。地下磁化構造の低磁化領域は地表全磁力定点観測による地下熱消磁領域と一致しなかった。このまま地下の熱水活動を解釈することは可能であるが、地表定点観測点分布が疎であるために推定された熱消磁の位置が空間バイアスを含んで、実際は低磁化と熱消磁領域が一致している可能性もある。そこで国土交通省が2013年に有人ヘリで実施した空中電磁探査データと2021年の我々のデータの比較を行って空間サンプルが高密度の下での磁場変化検出を試みたが、空中磁気データの質が悪いことを確認したに留まった。

データ及び手法
 2021年の空中全磁力データはDJI社製ドローン、Matrice 600 Proを用いて大穴火口を中心に北北東-南南西方向に2 km、西北西-東南東方向に1kmの長方形範囲を、短辺と平行な100m間隔18本の測線に沿って取得した。測線間で飛行高度は異なるが、各測線は一定高度である。サンプリング周波数は20 Hz、飛行速度は約6 m/sである。このデータから地下の磁化構造を推定した。磁場の時間変化は2021年に取得したデータと、国土交通省によって2013年10月7日〜18日に有人ヘリコプターを用いて取得した全磁力データを比較した。2013年のデータは、大穴火口をほぼ中心として北西-南東方向に約6 km、北東-南西方向に約3 kmの範囲で、北西-南東方向に約100 m間隔で31本の航跡上で取得された。対地高度一定を目標として飛行したが、平均、最大、最小対地高度はそれぞれ63、162、1 mであった。
 磁化構造は、Nakatsuka and Okuma (2006a)の方法でリダクション処理を行い、Grauch (1987)の方法で見掛けの平均磁化を求めた後、見掛けの平均磁化による地形効果の寄与を取り除いて地下の磁化異常に起因した磁気異常図を作成し、得られた磁気異常と有効ソース体積化法(Nakatsuka and Okuma, 2014)による逆問題解析を用いて見掛けの平均磁化からの磁化の偏差分布を推定した。逆問題では平均磁化の10 %を逆問題正則項の閾値とし、平均磁化からの偏差を表すモデルパラメータ―は、逆帯磁を避ける様に下限が負の平均磁化となるよう拘束をかけた。2013年と2021年の空中磁気データの時間変化はNakatsuka and Okuma (2006b)による拡張交点コントロール法を用い、飛行高度が高い2021年のリダクション面での磁場の時間変化を推定した。

結果と考察
 見掛けの平均磁化は2.42 A/mと計算された。得られた磁化構造偏差分布は、一切経山山頂から南東300 m付近に地下約180 mまで続く高磁化体と、大穴火口の西側約400 mに地下約180 mまで続く低磁化体の2つの顕著な異常が推定された。逆問題の残差二乗平均平方根は4.28 nTであった。丹原・他(2022)による熱消磁域の位置は、低磁化体と同じか約100 m深い深さにあるが、水平的にはより大穴火口に近い場所に位置しており、両者の位置は一致しない。一方Himematsu and Ozawa (2023)は、2015年と2018年に干渉SARとGNSS両者で記録されたそれぞれの地盤変動を点膨張源、回転楕円体、平板クラックモデルそれぞれの形状を仮定して解析した。2015、2018年データを用いて求めた回転楕円体及び平板クラックモデルは全て低磁化体や熱消磁域より深い位置にあるが、それらの長軸のほぼ延長上に低磁化体や熱消磁域が存在している。また点膨張源は回転楕円体や平板クラック膨張源のほぼ中央に位置し、2015年と2018年の活動でそれらの位置は殆ど変化していない。Himematsu and Ozawaは点膨張源位置が変化しない結果を、少なくとも2015年以降の活動による地下からの熱水上昇はこの位置を必ず通過すると解釈した。
 以上を纏めると、吾妻山下での点膨張源を通過した熱水は低磁化体や熱消磁領域に向かって上昇する経路があると考えられる。低磁化体の領域に現在も熱水が滞留しているかは不明であるが、表層に近い為温度は高温でなく、過去に低磁化領域付近で広範囲に熱水活動が存在した結果、熱水変質帯が形成されて低磁化になっていると解釈できる。熱消磁が進行する領域は現在熱水が流入して比較的高温の領域と考えられる。低磁化領域と熱消磁領域間の熱水の移動は現時点では不明である。
 2013年と2021年の磁場の時間変化図を作成し、地上繰り返し点での変化と比較したところ、増加減少の傾向が逆である地点が多く認められた。さらに地上の変化振幅が高々50 nT程度であるのに対し空中磁気探査の上空での変化振幅は250 nTに昇った。我々は拡張交点コントロール法のデータ処理を行う際に、磁場変化にゲインとしてノイズが入る可能性を検証した。2013年に比べて2021年に大穴火口周辺の地下の磁化が5 A/m減少する立方体を設定したモデルで合成データを作成して、拡張交点コントロール法を適用した。その結果、地表の磁場変化より上空の磁場変化の振幅が増幅されることは無く、今回はデータの質が悪いという結論になった。空中磁気探査による磁場の時間変化を議論する場合は、同じ空中磁気探査装置で同程度の高度でデータ取得することが重要であることが改めて確認された。

謝 辞
 国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所御中および大日本ダイヤコンサルタント(株)御中より2013年の空中磁気データを御提供頂きました.また、国土地理院からは航空レーザー測量高精度1m DEMデータの御提供を頂きました。記して感謝申し上げます.