17:15 〜 18:45
[STT35-P01] 干渉SAR時系列解析の効率化に向けたアンラップエラーの検出・修正の取組
キーワード：干渉SAR時系列解析、だいち２号
だいち２号（ALOS-2）は2014年に運用が開始されて以降、目標寿命7年を超えた2024年現在においても安定して観測が行われている。国土地理院では、この長期にわたって蓄積されてきたALOS-2の観測データを用い、SBAS法による干渉SAR時系列解析の導入を進めてきた（小林ほか, 2018）。2021年度には火山監視に導入し（市村ほか, 2021）、2022年度には一部の離島を除いた日本全国を対象とした全国解析を開始した。
干渉SAR時系列解析は、多数のSAR干渉画像を統計的に処理することで、個々のSAR干渉画像に含まれる対流圏補正誤差などのノイズを低減する手法である。解析に用いるSAR干渉画像は位相連続化する必要がある。位相連続化とは、干渉SAR解析で得られる-π~+πに折りたたまれた（wrap、ラップされた）観測量に対して適切な整数オフセット2nπを加えることで値を連続的に繋げ、折りたたまれる前の物理量を復元する（unwrap、アンラップ）処理である。一般的に、ノイズが含まれる2次元の干渉画像を安定してアンラップすることは容易ではなく、誤った整数バイアスを与えてしまうアンラップエラーを完全に防ぐことは難しい。国土地理院では干渉SAR時系列解析で処理する数千枚に及ぶSAR干渉画像の全てについて、解析者が一枚一枚確認を行い、手作業でアンラップエラーの修正を行っている。
打上げが予定されている先進レーダ衛星「だいち4号」（ALOS-4）は、ALOS-2と比べて4倍の観測幅となり、観測頻度は約5倍と大幅に向上する見込みである。高頻度観測によって干渉SAR時系列解析の精度及び時間分解能の向上が見込まれる一方で、膨大な数の干渉画像の処理が必要となるため、全ての画像について手作業でアンラップエラーを確認、修正することは困難である。
このような背景から、国土地理院では干渉SAR時系列解析の効率化に向けてアンラップエラーの検出及び修正の自動化について検討を行っている。
アンラップエラーはその起こり方によっていくつかのパターンに分類ができる。本研究では、いくつかのパターンのうち、島・飛び地の干渉画像を位相連続化する際に発生するアンラップエラーの検出、補正手法の検討を行った。これは島嶼部における干渉画像のアンラップ処理において頻繁に発生するアンラップエラーである。図1はALOS-2による長崎県五島列島周辺の干渉画像（a）、（a）をアンラップ処理した画像（b）、（b）に発生しているアンラップエラーを補正した画像（c）及び補正時に推定した画像全体の傾斜（d）を示している。図1（a）の干渉画像では画像全体に位相の傾斜が見られる。これは当地域において南北方向に傾斜する地殻変動が生じていることを示すものではなく、2時期の電離層の影響などによって生じた観測ノイズ、見かけの変動であると考えられる。干渉画像中に-π~+πを超える位相変動が生じている場合、アンラップエラーが発生しやすい。図1 （b）のアンラップ画像では、丸で囲われた領域においてアンラップエラーが生じている。
本発表で提案する手法は、島ごとに誤った整数オフセットが加えられるアンラップエラーに対して、画像全体に単純な多項式で表現できる傾斜が乗っていると仮定して補正を行うものである。まず、画像中の最大画素数を占める島を検索する（図1（b）の場合、矢印で示す島（中通島））。この中通島で見られる傾斜が干渉画像全体の傾斜を良く反映していると仮定し、この島の傾斜にフィッティングする多項式平面（この場合は1次平面）を推定する。次に、中通島から画素で見て最も距離が近い島と推定した平面との残差を計算し、その残差の中央値が-π~+πの範囲になるよう整数オフセットを決定する。さらに、整数オフセットを決定した島を加えて多項式平面を再度推定する。この操作を繰り返すことにより画像内に含まれる全ての島の整数オフセットを決定する。この手法により整数オフセットを決定した画像を図1（c）に、最終的に推定された画像全体の傾斜を図1（d）である。図1（c）では図1（b）に見られたアンラップエラーが改善されているのが確認できる。
本発表では前述した提案手法など、国土地理院で実施しているアンラップ自動化に向けた検討内容について紹介する。
謝辞：本研究で用いたALOS-2データは「陸域観測技術衛星2号に関する国土地理院と宇宙航空研究開発機構の間の協定」に基づいて、宇宙航空研究開発機構（JAXA）から提供を受けた。原初データの所有権はJAXAにある。
干渉SAR時系列解析は、多数のSAR干渉画像を統計的に処理することで、個々のSAR干渉画像に含まれる対流圏補正誤差などのノイズを低減する手法である。解析に用いるSAR干渉画像は位相連続化する必要がある。位相連続化とは、干渉SAR解析で得られる-π~+πに折りたたまれた（wrap、ラップされた）観測量に対して適切な整数オフセット2nπを加えることで値を連続的に繋げ、折りたたまれる前の物理量を復元する（unwrap、アンラップ）処理である。一般的に、ノイズが含まれる2次元の干渉画像を安定してアンラップすることは容易ではなく、誤った整数バイアスを与えてしまうアンラップエラーを完全に防ぐことは難しい。国土地理院では干渉SAR時系列解析で処理する数千枚に及ぶSAR干渉画像の全てについて、解析者が一枚一枚確認を行い、手作業でアンラップエラーの修正を行っている。
打上げが予定されている先進レーダ衛星「だいち4号」（ALOS-4）は、ALOS-2と比べて4倍の観測幅となり、観測頻度は約5倍と大幅に向上する見込みである。高頻度観測によって干渉SAR時系列解析の精度及び時間分解能の向上が見込まれる一方で、膨大な数の干渉画像の処理が必要となるため、全ての画像について手作業でアンラップエラーを確認、修正することは困難である。
このような背景から、国土地理院では干渉SAR時系列解析の効率化に向けてアンラップエラーの検出及び修正の自動化について検討を行っている。
アンラップエラーはその起こり方によっていくつかのパターンに分類ができる。本研究では、いくつかのパターンのうち、島・飛び地の干渉画像を位相連続化する際に発生するアンラップエラーの検出、補正手法の検討を行った。これは島嶼部における干渉画像のアンラップ処理において頻繁に発生するアンラップエラーである。図1はALOS-2による長崎県五島列島周辺の干渉画像（a）、（a）をアンラップ処理した画像（b）、（b）に発生しているアンラップエラーを補正した画像（c）及び補正時に推定した画像全体の傾斜（d）を示している。図1（a）の干渉画像では画像全体に位相の傾斜が見られる。これは当地域において南北方向に傾斜する地殻変動が生じていることを示すものではなく、2時期の電離層の影響などによって生じた観測ノイズ、見かけの変動であると考えられる。干渉画像中に-π~+πを超える位相変動が生じている場合、アンラップエラーが発生しやすい。図1 （b）のアンラップ画像では、丸で囲われた領域においてアンラップエラーが生じている。
本発表で提案する手法は、島ごとに誤った整数オフセットが加えられるアンラップエラーに対して、画像全体に単純な多項式で表現できる傾斜が乗っていると仮定して補正を行うものである。まず、画像中の最大画素数を占める島を検索する（図1（b）の場合、矢印で示す島（中通島））。この中通島で見られる傾斜が干渉画像全体の傾斜を良く反映していると仮定し、この島の傾斜にフィッティングする多項式平面（この場合は1次平面）を推定する。次に、中通島から画素で見て最も距離が近い島と推定した平面との残差を計算し、その残差の中央値が-π~+πの範囲になるよう整数オフセットを決定する。さらに、整数オフセットを決定した島を加えて多項式平面を再度推定する。この操作を繰り返すことにより画像内に含まれる全ての島の整数オフセットを決定する。この手法により整数オフセットを決定した画像を図1（c）に、最終的に推定された画像全体の傾斜を図1（d）である。図1（c）では図1（b）に見られたアンラップエラーが改善されているのが確認できる。
本発表では前述した提案手法など、国土地理院で実施しているアンラップ自動化に向けた検討内容について紹介する。
謝辞：本研究で用いたALOS-2データは「陸域観測技術衛星2号に関する国土地理院と宇宙航空研究開発機構の間の協定」に基づいて、宇宙航空研究開発機構（JAXA）から提供を受けた。原初データの所有権はJAXAにある。