日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT35] 合成開口レーダーとその応用

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国土地理院)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)

17:15 〜 18:45

[STT35-P04] ALOS-2によるInSARスタッキング解析を用いた筑波山周辺の地すべり検出への試み

*櫻井 隆之介1木下 陽平1 (1.筑波大学)

キーワード:InSAR、スタッキング、地すべり、筑波山

日本では土砂災害が毎年多数発生しており、令和5年度の土砂災害発生件数は、1468件であった(国土交通省)。その中近年、地すべり観測を行う技術としてInSAR(Interferometric Synthetic Aperture Radar)というリモートセンシング技術が注目されている。InSARとは、合成開口レーダー(SAR)というマイクロ波を用いたイメージング技術により得られたデータを複数用いて、地表面変位の分布を測定する技術である。広範囲を地上に観測点を設置することなく、昼夜の影響を受けず、降雨の影響も受けにくい環境で高い分解能の地表面変位を検出することができる。日本国内でも、InSARを用いた地すべりの地表面変位の観測は複数行われ、活動的な地すべりブロックの推定などにおいて高精度かつ、高頻度で観測できることが明らかにされている(Une et al. 2008; Sato et al. 2012; Ishitsuka et al. 2017)。
 しかし、筑波山周辺でInSARを用いて地すべりの観測が行われた研究事例が行われた事例はない。本研究では、茨城県の雨引山、富谷山を含む筑波山周辺をALOS-2のデータを用いてInSAR解析およびスタッキング解析を行うことで、地すべりの検出を試みた。
 本研究ではまず、筑波山周辺の山間部を含むALOS-2 SM1モードの北行軌道・右向き観測によるSLC25枚(2015/2/15 - 2022/5/15)を用いてInSAR画像を作成した。ノイズ低減のためのマルチルック処理を適用しているものの、今回は数十m程度の空間サイズを持つ変位を検出したいため過度のマルチルック処理はできない。ただし、空間分解能を高く維持するとノイズも多くなる。よって今回の解析ではInSAR画像の分解能が10 m × 10 m となるように設定した。InSAR画像作成の際、標高相関の大気遅延の補正も適用した。InSAR画像はコヒーレンスの低下によるノイズが多いため、時空間にランダムなノイズを特に効果的に低減できるスタッキングを用いた。スタッキング画像から地表面変位のシグナル検出を試みた。その後、地表面変位シグナルが観測された地点の個別のInSAR画像からシグナルが地すべりであるか評価した。確認するInSAR画像は、ノイズレベルを超えたシグナルが出ているか否かを確認するためGWフィルター適用前、位相アンラッピング処理前という位相値がオリジナルに近い状態のものを用いた。その後、スタッキングにより得られた年間変位速度と数値標高モデル(DEM)から測定した斜面方位角と傾斜角、マイクロ波の入射角、衛星の軌道方位から斜面に沿って変位したときのLOS変位量を推定し、スタッキング結果と比較した。最後に、現在指定されている土砂災害警戒区域と本研究で検出された地表面変位シグナル地点を比較した。
 スタッキングによりノイズを低減した結果、茨城県桜川市大泉の斜面にて40 m × 50 mの規模の地表面変位シグナルを検出した。スタッキング画像から推定したLOS方向の年間変位速度は4 cm ~ 5 cmであった。しかし、スタッキングに用いたInSAR画像にはアンラッピングエラーが生じたと考えられるものが確認されており、年間変位速度の推定結果は定量的には信頼できるものではなかった。個別のInSAR画像(GWフィルター適用前、位相アンラッピング処理前)を確認すると、この地表面変位シグナルは2015年2月15日から2022年5月15日の期間で継続的であり、シグナルが出ていた斜面に関してはコヒーレンスも安定していた。シグナルは、継続性とコヒーレンスの安定から地すべりによる可能性があると考えられる。しかし、DEMを用いて推定した斜面方位角は約250°(東向きから反時計回りを正)、傾斜角は20°~25°であった。スタッキング画像で観測されたLOS方向の年間変位速度4 cm ~ 5 cmは、地表面が斜面に沿って変位しているという仮定のもとでは、斜面方位角と傾斜角、マイクロ波入射角、衛星の軌道方位より斜面上昇方向への121 cm ~ 151cmの変位で説明される結果となった。斜面上昇方向に変位することは現実的ではなく、南南西向きの斜面を北行軌道・右向き観測したため、鉛直成分が大きい地表面変位が発生していた可能性が考えられる。行政による防災情報との比較から、今回検出したシグナルは自治体が出している土砂災害警戒区域に指定されていない地点であった。