11:00 〜 11:15
[STT36-07] DAS記録に含まれる交通振動を用いた国道47号線沿道の浅部地震波速度構造の推定

キーワード:DAS、表面波探査、浅部構造
ㅤ既存の通信用光ファイバーケーブルとDistributed Acoustic Sensing (DAS) を用いた表面波探査は,従来の物理探査手法に比べてコストや労力を大きく削減できることから近年注目を集めている.米国カリフォルニア州サクラメント近郊での例 (Ajo-Franklin et al., 2019)を始めとし,同州リッジクレスト(Yang et al., 2021)や中国雲南省(Song et al., 2021)でも活用が広がり,国内においても矢武・他(2021, SSJ)や濱中・他(2023, SSJ)によって国道の一部区間で適用が試みられている.今回我々は,一度に数十kmにわたる長大測線を稠密に計測できるDASの利点を活かし,国道に埋設された通信用ケーブルを用いて統一的に表面波探査を行い,微細な浅部構造から山地を含む大規模地下構造まで空間連続的なイメージを得ることに成功したので,その結果を報告する.
我々は,2022年3月28日から4月21日にかけて宮城県大崎市古川から大崎市鳴子温泉までの国道47号線直下に埋設されている光ファイバーケーブルを使用してDAS観測を実施した.インテロゲータはSintela社のONYXを使用した.チャンネル間隔は 6.4 m,ゲージ長は 9.6 m,チャンネル数は 4855 (測線長約 31 km),サンプリング周波数は 200 Hz で記録した.本研究ではその観測データのうち3月28日から4月4日までのものを使用した.
DAS記録には卓越した交通振動が絶えず観測された.各50チャンネルの長さの小区間を25チャンネル重複させて構成した.各小区間内で最もチャンネル番号の若いチャンネルの位置から見て,同区間の他の全てのチャンネルの方位角が10°以内に収まる小区間130本に対して解析を行った.各小区間の記録に対し,最もチャンネル番号の若いチャンネルを震源としてPhase-shift 法(Park et al., 1998)を用いて,1分毎の表面波の分散スペクトルを作成した.ここでは各チャンネルが直線上に並び,交通振動が常にこれに平行に入射していることを仮定している.交通振動以外の振動源の影響を排除するため,深夜(0:00-5:00)の記録のみを使用した.これを1週間分重合して平均し,充分なS/N比を持つ分散スペクトルを各小区間で得た.これを基に各小区間の地震波速度構造をインバージョンにより推定した.S波速度1600 m/s以上となる層以深はJ-SHISのモデルを使用し,以浅を9層の水平成層構造でモデル化して各層のP波速度,S波速度,層厚を求めた.密度はP波速度の関数とした(Gardner et al., 1974).周波数ごとに分散スペクトルを規格化し,Yuan et al. (2020)に従って,理論分散曲線と重なる分散スペクトルのパワースペクトル密度の合計値を評価関数として,粒子群最適化法を適用し,各パラメータを求めた.各分散スペクトルで明瞭に観測されるモードや周波数が異なっていたため,インバージョンに用いるモードの最高次数と各モードの周波数を小区間ごとに目視で決定した.
約30 kmにわたる二次元地震波速度構造が得られた.古川から鳴子温泉に向かって標高とともに地震波速度の大きい層が浅くなってゆく大規模構造が特徴的である.例えば,S波速度1 km/s の面は,古川付近では深さ500 m ほどであるのに対し,中間地点にあたる岩出山では300 m,山間部の川渡付近では 30 mほどである.また,江合川と並行する区間では表層に厚さ約20 mの顕著に地震波速度が遅い層(S波速度 400 m/s 以下)が存在することがわかった.これは河川の堆積作用によって掲載された軟弱地盤と解釈され,防災上重要である.今後,地震波干渉法を用いた解析や微動観測の結果と比較し,今回の結果の検証を行う予定である.
謝辞
DAS観測にあたっては,国土交通省所有の光ファイバーを使用させていただくとともに,仙台河川国道事務所の方々に便宜を図っていただいた.
我々は,2022年3月28日から4月21日にかけて宮城県大崎市古川から大崎市鳴子温泉までの国道47号線直下に埋設されている光ファイバーケーブルを使用してDAS観測を実施した.インテロゲータはSintela社のONYXを使用した.チャンネル間隔は 6.4 m,ゲージ長は 9.6 m,チャンネル数は 4855 (測線長約 31 km),サンプリング周波数は 200 Hz で記録した.本研究ではその観測データのうち3月28日から4月4日までのものを使用した.
DAS記録には卓越した交通振動が絶えず観測された.各50チャンネルの長さの小区間を25チャンネル重複させて構成した.各小区間内で最もチャンネル番号の若いチャンネルの位置から見て,同区間の他の全てのチャンネルの方位角が10°以内に収まる小区間130本に対して解析を行った.各小区間の記録に対し,最もチャンネル番号の若いチャンネルを震源としてPhase-shift 法(Park et al., 1998)を用いて,1分毎の表面波の分散スペクトルを作成した.ここでは各チャンネルが直線上に並び,交通振動が常にこれに平行に入射していることを仮定している.交通振動以外の振動源の影響を排除するため,深夜(0:00-5:00)の記録のみを使用した.これを1週間分重合して平均し,充分なS/N比を持つ分散スペクトルを各小区間で得た.これを基に各小区間の地震波速度構造をインバージョンにより推定した.S波速度1600 m/s以上となる層以深はJ-SHISのモデルを使用し,以浅を9層の水平成層構造でモデル化して各層のP波速度,S波速度,層厚を求めた.密度はP波速度の関数とした(Gardner et al., 1974).周波数ごとに分散スペクトルを規格化し,Yuan et al. (2020)に従って,理論分散曲線と重なる分散スペクトルのパワースペクトル密度の合計値を評価関数として,粒子群最適化法を適用し,各パラメータを求めた.各分散スペクトルで明瞭に観測されるモードや周波数が異なっていたため,インバージョンに用いるモードの最高次数と各モードの周波数を小区間ごとに目視で決定した.
約30 kmにわたる二次元地震波速度構造が得られた.古川から鳴子温泉に向かって標高とともに地震波速度の大きい層が浅くなってゆく大規模構造が特徴的である.例えば,S波速度1 km/s の面は,古川付近では深さ500 m ほどであるのに対し,中間地点にあたる岩出山では300 m,山間部の川渡付近では 30 mほどである.また,江合川と並行する区間では表層に厚さ約20 mの顕著に地震波速度が遅い層(S波速度 400 m/s 以下)が存在することがわかった.これは河川の堆積作用によって掲載された軟弱地盤と解釈され,防災上重要である.今後,地震波干渉法を用いた解析や微動観測の結果と比較し,今回の結果の検証を行う予定である.
謝辞
DAS観測にあたっては,国土交通省所有の光ファイバーを使用させていただくとともに,仙台河川国道事務所の方々に便宜を図っていただいた.