日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 光ファイバーセンシング技術の地球科学への応用

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)、辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)、荒木 英一郎(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[STT36-P04] 海底の歪・温度・水圧分布光ファイバーセンシング用ケーブルの開発

*荒木 英一郎1、横引 貴史1辻 修平1、西田 周平1松本 浩幸1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:光ファイバセンシング、海底観測、相模湾

海底光ファイバーケーブルを用いた分布型光ファイバーセンシングを、観測網の乏しい海底での地震・地殻変動観測のために活用しようと考えている。室戸沖に展開された海底光ファイバケーブルでのDAS観測は、広帯域で地震動が観測できるため、スロー地震の観測にも活用できる(Baba et al., 2023)が、より長周期の観測となると、海水温変動の影響が顕著に現れるという問題がある(Ide et al., 2021)。そこで、光ファイバーセンシングでの長周期海底歪観測で問題となる温度変動を歪と分離して観測することを目的に、海底に無人探査機で展張、海底ケーブルに光接続が行える海底光ファイバーセンシング展張ケーブルを(株)OCCと開発し、相模湾海底に展張・初島沖海底ケーブル観測点に接続し、陸上から展張した海底光ファイバーセンシング展張ケーブルの試験観測を行った。

 開発した海底光ファイバーセンシング展張ケーブルは、10km の長さのケーブル内に温度・歪・水圧への応答感度が異なる3種の光ファイバーセンシングユニットを収納することによって、展開された海底各地点での歪・温度・水圧を分離、観測できるようにしたものである。ケーブルは、DONET等の海底ケーブル観測網構築にも用いられたのと同じ無人探査機の海底ケーブル展張システムで海底に展開することができ、端部を既存の海底ケーブル観測点の光ファイバーに接続し、光ファイバセンシングを行うことで、展張した地域の光ファイバセンシングを行うことができるものである。

この海底光ファイバーセンシング展張ケーブルの実海域試験として、2023年2月に、相模湾初島沖の初島沖深海総合観測ステーションから相模トラフ底の海域まで試験展張を実施した。まず光水中着脱コネクターに海底光ファイバーセンシング展張ケーブルを接続した後、無人探査機「ハイパードルフィン」で展張をおこなった。
展張の実施時には、初島沖ステーション陸上局にAP Sensing DAS観測装置を設置し、展張しつつある光ファイバーの観測を行うことで、展張されたケーブルの光ファイバセンシング上の位置を把握することができた。敷設後に、海底ケーブルの敷設域の近傍に、海底水温計を設置し、光ファイバーの温度感度を検証することをねらった。その後、DAS観測装置による観測だけではなく、より長期間での海底地殻変動の観測に向いていると考えられるNeubrex社製TW-COTDR観測装置での観測も実施した。観測は、観測装置が他の地域での観測などに移設する必要などのため間欠的となったが、2週間以上の連続観測記録をDASやTW-COTDRで得ることができた。

得られたデータからは、光ファイバ歪観測ユニットおよび水圧観測ユニットには、地震による地動が観測されるが、水温観測ユニットには地震による地動が記録されないことが確認できた。また、歪観測ユニットには、海底の水流の影響を受けるために、半日周期で地震の周期帯でのノイズが増加する様子が観測された。このような水流の影響は、圧力観測ユニットにはさほど見られず、圧力観測ユニットでは、歪変動ではなく、水圧変動を通じて地震動が観測されているものと考えられる結果が得られた。歪観測ユニットに得られる地震動の記録と、初島ケーブルステーションに陸上から展開されている本線ケーブルの地震動に伴う歪変動量を比較して、光ファイバセンシング展張ケーブルの地震動感度が小さいという結果が得られた。これは、展張ケーブルの展張において、ケーブルを地中に埋設をしておらず、また、多少の余長を入れて展張するため、展張ケーブルと堆積物のカップリングが悪いことが主要因と考えられる。また、圧力観測ユニットで海洋潮汐に伴う海底圧力変化が観測されることを期待したが、そのレスポンスは小さく、商用DASのように長周期の観測安定度の低い観測装置では、潮汐の安定な観測は難しいと考えられる結果が得られた。

このように、設置手法に改善の余地などがあるものの、温度の影響を排した海底の観測ができることは大きな利点であり、さらに改良を施した海底光ファイバセンシング展張ケーブルを南海トラフなどの海底に展開して、海域での稠密な地震・地殻変動観測に活用したいと考えている。