日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 光ファイバーセンシング技術の地球科学への応用

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)、辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)、荒木 英一郎(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[STT36-P05] 三陸沖海底ケーブルを用いた分散型音響センシングデータの深層学習による自動検測

*山花 弘明1篠原 雅尚2 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.東京大学地震研究所)

キーワード:分散型音響センシング、海底ケーブル、機械学習

近年普及しつつある分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing; DAS)は,その高空間解像度な計測能力から,地震のイベント検出能力や震源決定の精度向上が期待できる.DASは通信用の光ファイバーケーブルを歪計として利用するため,海底ケーブルを利用することで海域での超多点観測が可能である.しかしDASデータが膨大なチャンネルを有するために,全チャンネルの地震波の到達時刻を手動で読み取ることは困難である.本研究では深層学習によるDAS用の自動検測ツールであるPhaseNet-DAS (Zhu, et al., 2023) を,東京大学地震研究所によって三陸沖に設置された海底ケーブルを用いたDAS観測データに適用し,P波およびS波の到着時刻の読み取りを試みた.
使用したデータは,2023年7月20日から31日の期間で三陸沖海底ケーブル (Fig. a) を用いてOptaSense社のQuantXにより得られたDAS観測データである.観測データは観測点間隔が約5.1 mであり,計測総距離約100km,時間的サンプリングレートは800 Hzである.観測期間中に,海底ケーブルシステムから約111km以内の領域で、393個のイベントが気象庁により決定されている(Fig. a).検測のためのPhaseNet-DASのモデルには,Zhu et al. (2023) によりCalifornia州のLong Valley, Ridgecrestにおける陸域DASデータを使って訓練されたものを用いた.このモデルに適合させるため,元の連続波形データを約10.2 m観測点間隔,100 Hzサンプリングにデシメーションした.続いてJMAカタログの発震時から始まる1分間のイベント波形を393個切り出した.切り出した波形データには他の処理を施さずに,PhaseNet-DASを適用してP波とS波の到達時刻を読み取った.
読み取り結果を時間-チャンネル軸平面 (Fig. b) に重ねて表示したところ,大規模なイベントまたは震源がケーブルシステムに近いイベントほど,多くのチャンネルで正しくP波とS波を識別した読み取りが可能であった.読み取りの時刻精度を詳しく確認するため,一部チャンネルについてP波およびS波到着時刻付近を拡大して,自動読み取りの結果を目視で確認した.例として,2023年7月26日12時26分53秒頃 (UTC) に発生したM2.8のイベント (Fig b) では,ノイズや堆積層の影響が小さいと思われる2000チャンネルから11000チャンネルの区間から,1000チャンネルおきに10チャンネルを抽出し,正確に読み取られていることを確認した.P,S合わせて20個中15個は目視による読み取り時刻との差が,0.2 s以内であった.残りのうち2つは目視との差が0.4-0.5 s程度で,3つは到達が不明瞭なため目視での評価を行わなかった.また,これらのイベントデータではノイズ部分をP波やS波の到達時刻として誤って読み取ることはほぼなかった.このようにSN比の良いイベントでは比較的高精度な読み取りが可能であることがわかった.今後DASの超多点観測データを用いた震源決定にも利用できると考えられる.
一方でSN比が低いイベントでは、P波の到着をS波到着と判定する場合やその逆が生じる場合があった.また変換波の振幅が大きなイベントでは,変換波の到着時刻をP波やS波の到着時刻とする場合もある.この問題に対する一つのアプローチとして,海域データによるPhaseNet-DASの学習モデルの構築が考えられるが、海底地震波形の読み取りデータ量が十分でなく現在は困難である.今回の試行ではSN比が良いデータほど高精度な読み取りが可能な傾向が見られたため,SN比を上げるために記録にハイパスフィルタを適用した検測も試したが,顕著な改善は見られなかった.また同じ目的で,データを空間方向にスタックして検測した際も顕著な改善は見られなかった.
今後は現状の結果から正確な読み取り値を抽出し,震源決定への利用を目指す.また,他の海域における自動検測も今後の課題である.