日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 光ファイバーセンシング技術の地球科学への応用

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)、辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)、荒木 英一郎(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[STT36-P08] 光ファイバDASによる国道の交通移動体や交通異常の試験観測と分析

*中村 洋光1藤原 広行1内藤 昌平1櫻井 健2小西 千里2鈴木 晴彦2小川 直人2、武部 真樹3 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質株式会社、3.三菱電機ソフトウエア株式会社)

キーワード:光ファイバ、DAS、交通移動体、交通異常

災害に強いレジリエンスな都市を構築するためには、都市の時々刻々変化する状態をリアルタイムに長期間モニタリングすることで、弱点をあぶり出し、適切な対策をしていくことが重要である。光ファイバDASによる地盤振動等の観測・解析の技術は、極めて有望な技術として世界的に研究が行われている。特に、通信や電力、鉄道、国道、高速道路、河川堤防などの社会インフラに埋設されている既設の光ファイバ(通称ダークファイバ)を利活用することによって都市を3次元的に網羅する稠密な光ファイバネットワークを利用したリアルタイムモニタリングシステムが構築できる可能性があることから、本研究では都市モニタリングの一環として、国道沿いに敷設されているダークファイバを用いたDASによる交通移動体や交通異常の試験観測について報告する。
 2023年9月より国道6号線および50号線において光ファイバDASによる地盤振動観測を実施した。それぞれの計測期間は13日及び10日間である。観測に使用した測定器は、Sintela社製ONYXである。測定距離は国道6号線で約57㎞、50号線で約63㎞である。ゲージ長9.6m、チャンネル間隔4.8m、光パルスレート2kHz、サンプリング周波数500Hzとした。チャンネル番号と位置を対応付けるタップテストは、測定器設置箇所周辺の10㎞区間で約1㎞間隔、それ以外の範囲では約3㎞間隔で実施した。また、交通移動体とDASデータの関係を調査する目的で、一部の区間において車両等の交通の様子の動画撮影を行った。
 移動体検知の可能性を評価するため、車両走行状況の動画撮影と、DASデータの結果との時間的な突合を行い、DASで計測したひずみ速度を時間および空間方向に2次元表示した際に確認できる軌跡に対し、動画から検出した車両の位置がおおむね一致することを確認した。また、ひずみ速度の振幅の大きさがトラック、乗用車などの車種により変動することが確認できた。さらに、動画ではほぼ一様に走行しているように見える車両においてもDASデータでは地点により振幅の大きさに変動が見られ、道路内の光ファイバのカップリング状況にも依存する可能性があることが示唆された。分析の初段階として、移動体検知の指標として、ひずみ速度、分散値、二乗値、パワースペクトル密度の最大値を適用し、移動体の分類が可能であるか検証した。トラックと乗用車において、各指標ともに振幅の大きさに差があり、車両の種類をある程度機械的に分類できる可能性があることが分かった。
 国道6号線の観測中に、発生した車両相互事故(いばらきデジタルまっぷ)及び交通事故に伴う通行規制を示唆する振動の変化を観測した。事故発生直後と考えられる時間帯からそれまでスムーズに流れていた車両の動きが遅くなっていることが確認でき、その後10分程度で渋滞の領域が拡大していく様子を観測した。また、約1㎞の区間において4時間という長時間に渡る通行止めの状況を読取れた。さらに、衝突により発生した表面波的な波群を確認し、車両の衝突時の詳細な様子も読み取れた。このようにDASデータを分析することで、交通事故が発生した正確な時刻・位置だけでなく、車両の速度や渋滞の様子なども含め推定可能であることを観測データから示せた。今後、都市のリアルタイムモニタリングに向け、様々な環境下でのDAS観測データ取得と、それらを用いたリアルタイム分析手法の開発が重要と考える。
謝辞:国道沿いでの観測に際しては、国土交通省関東地方整備局常陸河川国道事務所にご協力頂いた。