[S-TT38] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

[STT38-P04] 歴史地震の発生場所の制約に向けた震度分布の空間特徴量の抽出

*石瀬 素子¹、椎名 高裕²、中村 亮一³、中川 茂樹⁴ (1.山形大学、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター、3.中村地震調査技術士事務所、4.東京大学地震研究所)

キーワード：震度分布、関東、震源推定、歴史地震、基底関数展開

震度，すなわち地震発生時に観測される地動の程度は，地震の発生位置や放射特性，地下構造によって空間的に変化する．一般に，震度は震源直上（震央）で最も大きく，震央から遠ざかるにつれて減少する同心円状の分布を示すことが期待される．しかしながら，実際には，非同心円状の震度分布がしばしば観測される．例えば，太平洋スラブのやや深発から深発スラブ内地震による異常震域（Furumura and Kennett, 2005 JGR）がよく知られているが，関東地方下の深さ40-80 kmの地震についても非同心円状の震度分布が観測されている（Nakanishi & Horie, 1980 JPE; 中村・他，2007 歴史地震）．この要因について，関東地方における3次元的S波減衰構造を詳細に調べた中村・他（2023 地震）は，当該地域における減衰の不均質構造が非同心円状の震度分布に強く影響していることを示した．このことは，地下の構造に大きな変化が生じない限り，震度分布の特徴は震源像の制約に有用な情報となることを意味している．
　このことから，我々は，震度やそれに相当する情報が唯一の観測記録となる過去の被害地震(歴史地震)について，その震度分布と現在の観測網で記録された震度分布との比較に基づく歴史地震の震源像の推定に関する検討に着手した．まず，石瀬・他 (2023 SSJ)では，現代の観測網で観測された地震を対象に，関東地方における非同心円状の震度分布を示す地震の整理を行った．その結果，茨城県南部の深さ60km付近と千葉県北西部の深さ70km付近で発生する地震では，隣接する領域であるにもかかわらず震度分布が大きく異なることを普遍的な特徴として確認した．
　次の段階として，本発表では震度分布の空間的な特徴やその類似性を客観的評価する方法を検討する．歴史地震を考えた場合，その観測点配置や観測点密度は現在とは大きく異なる．また，規模の大きな地震ほど発生頻度は低くなるため，現在の観測網において歴史地震に対応する地震の震度が観測されているとは限らない．そこで，震度記録を直接比較するのではなく，震度分布の空間特徴量を比較することを試みた．対象としたのは，2001年以降に発生した関東地方直下を震源とする約550の有感地震である．まず，離散的な観測点で計測された気象庁の計測震度を離散コサイン基底により連続的な場として再構築した．次いで，得られたコサイン基底の係数を用いて対象地震の震度分布をクラスタリングし，その類似性を評価した．クラスタリングには試験的にt-SNE（t分布型確率的近傍埋め込み法）（var der Maaten and Hinton, 2008 JMLR）を用いた．
　クラスタリングの結果，震源位置が近い地震が同じクラスタに属することを確認した．加えて，震源は隣接しているが，震度分布の特徴が明らかに異なる地震同士（例えば，茨城県南部と千葉県北部の地震）が異なるクラスタに分けられることも確認した．これらの結果は，本研究で提案するアプローチにより，震度分布からおおよその震源位置が制約できることを示唆する．今後，歴史地震の発生位置の制約にむけて，震度分布のクラスタリング手法や類似性の客観的な評価方法を具体的に検討する予定である．