13:45 〜 14:00
[STT39-01] 地殻変動の逆解析手法の高度化へ向けた大規模並列計算の活用
★招待講演
キーワード:逆解析、地殻変動、ベイズ推定、並列計算
地殻変動等の観測データの逆解析による断層面の諸元(位置,角度,大きさ)や断層面上のすべり分布の推定は,地震のメカニズムの理解において重要である.特にプレート内部での地震では断層面が事前に明らかでなく,断層面とすべり分布の両方の推定が必要な場合がある.その方法としては,まず一様なすべり分布の仮定のもとで断層面の諸元を推定し,得られた断層面上ですべり分布を推定するという手法が取られることが多い.しかし,このように段階を分けた推定では非一様なすべり分布を考慮した場合においても適切な断層面が選択されていることは保証されない.そこで,ベイズ統計学に基づき非一様なすべり分布を考慮しつつ断層面の諸元を推定する「同時ベイズ推定」が試みられている.
すべり分布の推定では,物理的に不自然な推定結果を避けるためにすべりの向きや最大すべり量に対する拘束条件を課す方法がよく用いられる.断層面との同時ベイズ推定においても,これらの拘束条件を取り入れることで不自然なすべり分布を避けて推定を安定化させることができると期待されるが,その拡張に伴って計算コストが大きくなるため,この実現は難しいとされてきた.本研究では大規模並列計算によってこの計算コストに対処し,適切なすべりの拘束条件を取り入れた断層面とすべり分布の同時ベイズ推定を現実的な時間で実現する手法を開発した.
開発した手法の概要を述べる.推定の目標はベイズの定理により導かれる断層面の諸元のパラメータの事後確率分布を計算することである.事前確率分布は客観性のため一様分布とし,尤度関数は,非一様なすべり分布を考慮し,断層面とすべり分布の組に対する尤度関数を任意のすべり分布に関して積分し周辺化した値として定義する.すべりの拘束条件を課す場合にはこの周辺尤度を解析的に計算することができず,数値的にこれを近似する必要がある.ここでは,断層面を固定した条件ですべり分布のサンプリングを行い,積分を有限個のサンプルに対する和として近似する方法をとった.また,断層面の尤度関数の値が数値的にしか得られないため,この事後確率分布も解析的に計算できない.したがって,断層面の諸元のパラメータについても多数のサンプルで確率分布を近似するモンテカルロ法によりこの事後確率分布を求める.
この推定では断層面の諸元のパラメータをサンプリングし,その過程で各サンプルの尤度関数の値が必要なときには,断層面を固定してすべり分布をサンプリングし周辺尤度を計算するという階層的なサンプリングを行う.この計算コストはすべり分布のサンプル数に比例して大きくなり,収束に十分なサンプル数で推定を行うには計算コストが膨大になる.しかし,断層面を固定したすべり分布のサンプリングは断層面のサンプルごとに独立であるため並列化が容易であり,本研究では逐次モンテカルロという並列化に適したアルゴリズムによるサンプリングを実装した.サンプリングの並列計算では断層面のサンプルのデータを多数のMPIプロセスに分散し,各プロセスが独立に断層面を固定したすべり分布のサンプリングを行う.富岳の8,000ノードまでを用いた大規模並列計算を行ったところ,並列性能を大きく損ねることなく,断層面の諸元とすべり分布の両者の確率分布について収束解を得るのに十分なサンプル数での推定が可能であった.
本手法を用いて,すべりの向きと最大すべり量に関する拘束条件を課した,断層面とすべり分布の同時ベイズ推定を合成データおよび実観測データに対して行った.合成データを用いた検証では,入力とした断層面とすべり分布が適切に推定され,また,2018年の北海道胆振東部地震の実観測データを用いた逆解析では,推定結果は既往研究と整合的であった.すべりの向きを拘束することにより非現実的なすべり分布を除き,また最大すべり量を拘束することにより,過度に断層面が小さく,すべり量が大きく推定されることを避けつつ良好な推定がなされていることが確認された.さらに,断層面の推定結果がパラメータの取り方によらないという性質も確認されており,本手法の頑健性を示している.
以上のように,本研究では断層面とすべり分布の同時ベイズ推定による客観的な地殻変動の逆解析手法を開発した.大規模並列計算を導入することで,適切な拘束条件による解の安定化や頑健性の担保を実現した高度な推定を可能とした.
すべり分布の推定では,物理的に不自然な推定結果を避けるためにすべりの向きや最大すべり量に対する拘束条件を課す方法がよく用いられる.断層面との同時ベイズ推定においても,これらの拘束条件を取り入れることで不自然なすべり分布を避けて推定を安定化させることができると期待されるが,その拡張に伴って計算コストが大きくなるため,この実現は難しいとされてきた.本研究では大規模並列計算によってこの計算コストに対処し,適切なすべりの拘束条件を取り入れた断層面とすべり分布の同時ベイズ推定を現実的な時間で実現する手法を開発した.
開発した手法の概要を述べる.推定の目標はベイズの定理により導かれる断層面の諸元のパラメータの事後確率分布を計算することである.事前確率分布は客観性のため一様分布とし,尤度関数は,非一様なすべり分布を考慮し,断層面とすべり分布の組に対する尤度関数を任意のすべり分布に関して積分し周辺化した値として定義する.すべりの拘束条件を課す場合にはこの周辺尤度を解析的に計算することができず,数値的にこれを近似する必要がある.ここでは,断層面を固定した条件ですべり分布のサンプリングを行い,積分を有限個のサンプルに対する和として近似する方法をとった.また,断層面の尤度関数の値が数値的にしか得られないため,この事後確率分布も解析的に計算できない.したがって,断層面の諸元のパラメータについても多数のサンプルで確率分布を近似するモンテカルロ法によりこの事後確率分布を求める.
この推定では断層面の諸元のパラメータをサンプリングし,その過程で各サンプルの尤度関数の値が必要なときには,断層面を固定してすべり分布をサンプリングし周辺尤度を計算するという階層的なサンプリングを行う.この計算コストはすべり分布のサンプル数に比例して大きくなり,収束に十分なサンプル数で推定を行うには計算コストが膨大になる.しかし,断層面を固定したすべり分布のサンプリングは断層面のサンプルごとに独立であるため並列化が容易であり,本研究では逐次モンテカルロという並列化に適したアルゴリズムによるサンプリングを実装した.サンプリングの並列計算では断層面のサンプルのデータを多数のMPIプロセスに分散し,各プロセスが独立に断層面を固定したすべり分布のサンプリングを行う.富岳の8,000ノードまでを用いた大規模並列計算を行ったところ,並列性能を大きく損ねることなく,断層面の諸元とすべり分布の両者の確率分布について収束解を得るのに十分なサンプル数での推定が可能であった.
本手法を用いて,すべりの向きと最大すべり量に関する拘束条件を課した,断層面とすべり分布の同時ベイズ推定を合成データおよび実観測データに対して行った.合成データを用いた検証では,入力とした断層面とすべり分布が適切に推定され,また,2018年の北海道胆振東部地震の実観測データを用いた逆解析では,推定結果は既往研究と整合的であった.すべりの向きを拘束することにより非現実的なすべり分布を除き,また最大すべり量を拘束することにより,過度に断層面が小さく,すべり量が大きく推定されることを避けつつ良好な推定がなされていることが確認された.さらに,断層面の推定結果がパラメータの取り方によらないという性質も確認されており,本手法の頑健性を示している.
以上のように,本研究では断層面とすべり分布の同時ベイズ推定による客観的な地殻変動の逆解析手法を開発した.大規模並列計算を導入することで,適切な拘束条件による解の安定化や頑健性の担保を実現した高度な推定を可能とした.