17:15 〜 18:45
[STT39-P03] スロー地震数値シミュレーションのHPCによる展開 -南海トラフへの適用-
キーワード:スロー地震、数値シミュレーション、ハイパフォーマンスコンピューティング
ファスト地震とスロー地震は,階層性をもったマルチスケールの現象である.その規模(地震モーメント)は10桁以上の幅をもち,すべり速度もほぼ固着に近い状況から高速なすべりまで10桁以上の幅をもつ.現象の継続時間もM1のファスト地震では0.01秒程度であるが,SSEでは数年以上の長さに達する.また現象の繰り返し間隔は,プレート境界の大地震で数百年,内陸地震では数千~1万年程度の時間スケールに及ぶ.ファスト地震,スロー地震はそれぞれ別のスケーリング則に従うことが明らかになっており,例えば,規模は特徴的時間の3乗および1乗にそれぞれ比例している.規模と事象の頻度分布においては,ファスト地震はグーテンベルク・リヒター則として広く知られるべき分布に従う一方,スロー地震においてもべき分布やexp型の分布などが提案され,研究が進められている状況である.ファスト地震およびスロー地震をモデルによって理解するためには,大きなスケールの幅を持って発生する事象に関して,こうした統計的な性質を再現し,検証していく必要がある,さらにファスト地震の発生に至る過程において,スロー地震の発生を示唆する現象が多く見つかっており,最近の例としては,2024年能登半島地震の前から継続していた群発活動において,地下深部でゆっくりすべりが発生していた可能性が指摘されている.
このような幅広いスケールの中に現れる統計的性質の再現と理解,スロー地震からファスト地震に至るSlow-to-Fast過程のモデルによる理解は,発表者が計画研究の代表を務める,科研費 学術変革領域研究「Slow-to-Fast地震学」の計画研究「時空間マルチスケールモデルからの予測:大規模計算とSlow-to-Fast地震学」においても大きな科学的問いとなっている.そして,こうした現象を直接モデル化するためには,大規模計算が必要であり,HPCの活用も同計画研究の大きなテーマとなっている.
こうした中において,本発表で紹介するプログラムは,プレート境界型大地震の発生間隔をカバーする数百年以上の時間スケールにおいて,すべりの継続時間が1日~数年以上の長さにおよぶスロー地震(スロースリップイベント)の再現を目指すものである.プレート境界でのすべりの時間発展をモデル化するために,プレート境界を多数の三角形要素で再現し(南海トラフのモデルの場合は,N~170,000要素),その境界面の摩擦力をカットオフ速度をもつ,すべり速度・状態依存摩擦則で与える.要素間の相互作用をもたらす応力変化は,半無限弾性媒質の準静的な応答の解析解に基づいて計算している.この時間発展について,時間幅適応刻みのRunge-Kutta法を採用し,境界要素法により計算している(詳細は,Matsuzawa et al. (2010, JGR; 2013, GRL)を参照).なお計算においては,要素上の応力変化を計算するために,大規模な密行列とベクトルの積が必要であり,大きなボトルネックとなっている.昨年のJpGUにおいては,このプログラムを高速化するため,GPUノードを用いることができるようにした開発状況を紹介した.本発表では,その南海トラフモデルにおける適用結果を主に紹介する.
現在,GPUを用いて高速化したプログラムにおいては,約1500年分の計算結果が得られており,100年余りの時間間隔でプレート境界の大地震が繰り返し発生し,さらに数日単位の継続時間をもつスロー地震は数か月の間隔で繰り返し発生している.幅広い時間スケールの事象からなる数値計算結果の出力にあたっては,全時間ステップを保存することは莫大な量となり難しいため,ある程度間引くことが必要となる.ただし,すべり速度のピーク位置を議論する場合など,目的においてはこうしたプロセスが適切でない場合がある.本プログラムでは,間引いた結果だけでなくその間の最大・最小値とその時間を追加で出力するようにし,出力間隔の粗さを補うようにしている.ただし,こうして得た計算結果のファイルサイズは現在4TB程度であり,結果の処理・可視化にも時間を要する状況である.こうした状況に対し,スロー地震のみを抽出した結果を解析するなどの対応を取っているが,抽出条件を容易に変えられないなど,問題点も多い.本発表ではこうした取り組みと現在の課題についても紹介する.
このような幅広いスケールの中に現れる統計的性質の再現と理解,スロー地震からファスト地震に至るSlow-to-Fast過程のモデルによる理解は,発表者が計画研究の代表を務める,科研費 学術変革領域研究「Slow-to-Fast地震学」の計画研究「時空間マルチスケールモデルからの予測:大規模計算とSlow-to-Fast地震学」においても大きな科学的問いとなっている.そして,こうした現象を直接モデル化するためには,大規模計算が必要であり,HPCの活用も同計画研究の大きなテーマとなっている.
こうした中において,本発表で紹介するプログラムは,プレート境界型大地震の発生間隔をカバーする数百年以上の時間スケールにおいて,すべりの継続時間が1日~数年以上の長さにおよぶスロー地震(スロースリップイベント)の再現を目指すものである.プレート境界でのすべりの時間発展をモデル化するために,プレート境界を多数の三角形要素で再現し(南海トラフのモデルの場合は,N~170,000要素),その境界面の摩擦力をカットオフ速度をもつ,すべり速度・状態依存摩擦則で与える.要素間の相互作用をもたらす応力変化は,半無限弾性媒質の準静的な応答の解析解に基づいて計算している.この時間発展について,時間幅適応刻みのRunge-Kutta法を採用し,境界要素法により計算している(詳細は,Matsuzawa et al. (2010, JGR; 2013, GRL)を参照).なお計算においては,要素上の応力変化を計算するために,大規模な密行列とベクトルの積が必要であり,大きなボトルネックとなっている.昨年のJpGUにおいては,このプログラムを高速化するため,GPUノードを用いることができるようにした開発状況を紹介した.本発表では,その南海トラフモデルにおける適用結果を主に紹介する.
現在,GPUを用いて高速化したプログラムにおいては,約1500年分の計算結果が得られており,100年余りの時間間隔でプレート境界の大地震が繰り返し発生し,さらに数日単位の継続時間をもつスロー地震は数か月の間隔で繰り返し発生している.幅広い時間スケールの事象からなる数値計算結果の出力にあたっては,全時間ステップを保存することは莫大な量となり難しいため,ある程度間引くことが必要となる.ただし,すべり速度のピーク位置を議論する場合など,目的においてはこうしたプロセスが適切でない場合がある.本プログラムでは,間引いた結果だけでなくその間の最大・最小値とその時間を追加で出力するようにし,出力間隔の粗さを補うようにしている.ただし,こうして得た計算結果のファイルサイズは現在4TB程度であり,結果の処理・可視化にも時間を要する状況である.こうした状況に対し,スロー地震のみを抽出した結果を解析するなどの対応を取っているが,抽出条件を容易に変えられないなど,問題点も多い.本発表ではこうした取り組みと現在の課題についても紹介する.