17:15 〜 18:45
[SVC25-P07] 空気振動観測によるブルカノ式噴火の岩塊到達距離評価 ―運動方程式に基づく初速度と圧力積分の検討―
キーワード:火山噴火放出岩塊、ブルカノ式噴火
火山噴火による放出岩塊は世界中の多くの火山における主要なハザード要因であり,ハザード範囲は最大到達距離によって規定される.形状の大きな岩塊に着目すると,運動に対する空気抵抗の影響は限定的であることから射出初速度が到達距離に大きく影響する.運動方程式に基づくと,岩塊の射出初速度を決定づけるのは圧力項の時間積分(圧力積分)である.岩塊を放出する噴火様式の一つであるブルカノ式噴火は,岩塊放出と共に大振幅の増圧相を伴う空気振動を励起する.火口底に形成されるガス溜まりの破裂に伴う現象という観点からは,空気振動は岩塊射出時の情報を反映すると期待できる.本発表は岩塊射出時の運動方程式に基づき,空気振動観測によって岩塊射出速度を検討する.より一般的な評価手法の確立を目指し,複数火山(2017年11月以降の桜島南岳火口・昭和火口、2021年3月から10月までの諏訪之瀬島)で発生するブルカノ式噴火を対象とする.
各噴火における岩塊の最大到達距離は,判明している落下地点(桜島南岳2020年6月4日(2:59))以外は気象庁の遠望観測記録を用いる.Wilson (1972)の岩塊運動方程式に基づき,到達距離から期待される射出初速度を計算する.鉛直方向の岩塊射出軸に対し水平方向の到達距離を最大にする射出角を63°(井口・他, 1983),抵抗係数を0.6,代表的な岩塊の大きさを桜島南岳は2 m,諏訪之瀬島は1 mとそれぞれ仮定する.空気振動は京都大学防災研究所による低周波マイクロフォン(SI104)の観測記録を用いる.
観測された空気振動増圧相の記録は,鉛直初速度Vmax(m/s)が大きいイベントでは最大振幅とパルス幅の両方が増大するという特徴を有する.つまり,Vmaxの増大に対して火口底ガス溜まり過剰圧と放出揮発性性分量の双方が寄与していることが期待される.振幅とパルス幅の両方を評価するために,増圧相波形の一回積分(振幅距離減衰を補正)のピーク値Imax(Pa・s)を空気振動観測から得られる指標とし,Vmaxとの対応関係を図aに示す.Imaxが岩塊射出時の運動方程式における圧力積分を反映すると仮定すれば,ImaxとVmaxの分布の特徴は岩塊の運動方程式に基づいて評価することができる.そこで,以下では衝撃波管問題を応用したAlatorre-Ibargüengoitia et al.(2010)の一次元モデルによる放出岩塊の運動方程式に基づき検討を行う.
Alatorre-Ibargüengoitia et al.(2010)モデルの主要な変数は初期過剰圧P(Pa)とガス溜まり空隙率φ,爆発深度d(m)である.Pの最大値は先行研究や岩石破壊強度を参考に25 MPaとする.一次元モデルに従って岩塊が運動する範囲zth(m)についてはzth = zth0 + A(ma)と定義する.zth0は2 mとし,zth0における岩塊の慣性力(加速度a(m/s2),岩塊質量m(kg),係数A)に応じてzthが決定されるものとする.Aは仮定した圧力範囲でImaxとVmaxの分布を網羅するよう決定する(2.0×10-5).検討におけるzthの最大値は270 m程度であるが,これは桜島南岳火口の深さとほぼ同等である.φの値はImaxとVmaxの分布上限を説明するために0.85と仮定する.
図aに,上記モデルに基づく初速度と圧力積分の関係を灰色破線で投影する.このモデルに基づくと,観測に基づくImaxとVmaxの分布はVmaxが大きくなるほどPとdの双方が増大するという見かけ上の特徴がある.モデルにおける圧力積分のdへの依存性は,火砕物全体の質量が増加するために,加速により長い時間を要することを反映している.図aにはImaxに対してのVmaxの上限を規定する代表的な関係式としてVmax=31Imax0.14を黒実線で示す.モデルに基づくと,この上限式付近のPと圧力積分はImax=1.4×10-8P2.01という関係に従う.つまり,上限式の背後にはVmax=2.47P0.28という関係が存在していることを意味する.この関係を,PとVmaxの関係を直接的に検討しているWilson (1980)の岩塊放出モデルと比較する(図b).図bからは,Vmaxの上限式から得られた関係はVmaxの増大に対してPと噴出に寄与する放出揮発性成分の質量分率nの双方が増加するという特徴が読み取れる.つまり,増圧相の観測波形とVmaxの対比から得られる仮説を支持する結果と言える.揮発性成分放出量は,個別のブルカノ式噴火に留まらず揮発性成分を含んだマグマが駆動する噴火活動の盛衰そのものを反映すると期待される.つまり,より巨視的な噴火活動の一部という観点からも放出岩塊の到達距離を評価する必要があると言える.
各噴火における岩塊の最大到達距離は,判明している落下地点(桜島南岳2020年6月4日(2:59))以外は気象庁の遠望観測記録を用いる.Wilson (1972)の岩塊運動方程式に基づき,到達距離から期待される射出初速度を計算する.鉛直方向の岩塊射出軸に対し水平方向の到達距離を最大にする射出角を63°(井口・他, 1983),抵抗係数を0.6,代表的な岩塊の大きさを桜島南岳は2 m,諏訪之瀬島は1 mとそれぞれ仮定する.空気振動は京都大学防災研究所による低周波マイクロフォン(SI104)の観測記録を用いる.
観測された空気振動増圧相の記録は,鉛直初速度Vmax(m/s)が大きいイベントでは最大振幅とパルス幅の両方が増大するという特徴を有する.つまり,Vmaxの増大に対して火口底ガス溜まり過剰圧と放出揮発性性分量の双方が寄与していることが期待される.振幅とパルス幅の両方を評価するために,増圧相波形の一回積分(振幅距離減衰を補正)のピーク値Imax(Pa・s)を空気振動観測から得られる指標とし,Vmaxとの対応関係を図aに示す.Imaxが岩塊射出時の運動方程式における圧力積分を反映すると仮定すれば,ImaxとVmaxの分布の特徴は岩塊の運動方程式に基づいて評価することができる.そこで,以下では衝撃波管問題を応用したAlatorre-Ibargüengoitia et al.(2010)の一次元モデルによる放出岩塊の運動方程式に基づき検討を行う.
Alatorre-Ibargüengoitia et al.(2010)モデルの主要な変数は初期過剰圧P(Pa)とガス溜まり空隙率φ,爆発深度d(m)である.Pの最大値は先行研究や岩石破壊強度を参考に25 MPaとする.一次元モデルに従って岩塊が運動する範囲zth(m)についてはzth = zth0 + A(ma)と定義する.zth0は2 mとし,zth0における岩塊の慣性力(加速度a(m/s2),岩塊質量m(kg),係数A)に応じてzthが決定されるものとする.Aは仮定した圧力範囲でImaxとVmaxの分布を網羅するよう決定する(2.0×10-5).検討におけるzthの最大値は270 m程度であるが,これは桜島南岳火口の深さとほぼ同等である.φの値はImaxとVmaxの分布上限を説明するために0.85と仮定する.
図aに,上記モデルに基づく初速度と圧力積分の関係を灰色破線で投影する.このモデルに基づくと,観測に基づくImaxとVmaxの分布はVmaxが大きくなるほどPとdの双方が増大するという見かけ上の特徴がある.モデルにおける圧力積分のdへの依存性は,火砕物全体の質量が増加するために,加速により長い時間を要することを反映している.図aにはImaxに対してのVmaxの上限を規定する代表的な関係式としてVmax=31Imax0.14を黒実線で示す.モデルに基づくと,この上限式付近のPと圧力積分はImax=1.4×10-8P2.01という関係に従う.つまり,上限式の背後にはVmax=2.47P0.28という関係が存在していることを意味する.この関係を,PとVmaxの関係を直接的に検討しているWilson (1980)の岩塊放出モデルと比較する(図b).図bからは,Vmaxの上限式から得られた関係はVmaxの増大に対してPと噴出に寄与する放出揮発性成分の質量分率nの双方が増加するという特徴が読み取れる.つまり,増圧相の観測波形とVmaxの対比から得られる仮説を支持する結果と言える.揮発性成分放出量は,個別のブルカノ式噴火に留まらず揮発性成分を含んだマグマが駆動する噴火活動の盛衰そのものを反映すると期待される.つまり,より巨視的な噴火活動の一部という観点からも放出岩塊の到達距離を評価する必要があると言える.
