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[SVC26-10] 姶良カルデラ下の低S波速度領域の形状を模した圧力源による地盤変動の検討
キーワード:姶良カルデラ、地盤変動、圧力源形状
姶良カルデラおよび桜島周辺では、GNSSや水準測量などによる地盤変動観測が行われ、茂木モデルを用いた圧力源解析の結果、姶良カルデラ中央部の深さ数kmから10数kmに圧力源の存在が示されている。一方、最近の地震学的な研究からは姶良カルデラの地下に低S波速度領域やS波反射面の存在が示唆されているが、これら深さは茂木モデルによる地盤変動観測圧力源の深さとは必ずしも一致しない。姶良カルデラ地下の圧力源モデルを地震学的な地下構造の特徴と整合性の高いものにすることは、姶良カルデラ地下におけるマグマの供給・蓄積量をより精密に推定するうえでの課題となっている。
これまでに我々は、姶良カルデラ地下の深さ15km付近に扁平率の異なる回転楕円体圧力源をおいたときや、為栗ら(2022)が示した低S波速度領域の形状を模した多面体を姶良カルデラ下の地盤変動圧力源(以下、圧力源LS)としたときの地表の変位量を有限要素法を用いて算出し、これらのモデルでも地表変位を概ね説明できることを示した。今回、2017年11月-2022年11月のGNSS観測による水平変位と同時期に実施された水準測量による上下変位をもとに、圧力源LSを用いた有限要素法モデル計算(以下、LSモデル)と茂木モデルによる圧力源解析を行い比較検討した。
姶良カルデラ下の圧力源LSは、為栗ら(2022)の深さ10、15および20 kmのS波速度を按分して2.45 km/s以下の領域を抽出し、極端な凹凸を平滑化した多面体(Fig. 1)を用いた。また桜島南岳直下の深さ6.8kmに半径200 mの球形で体積変化量-3.9×10e6m3の圧力源をおいた。有限要素法の計算にはFlexPDE7を用いた。計算領域は、水平方向は姶良カルデラ中央部から東西南北に60km(Fig. 1の左図の範囲)、深さ方向は海抜-50kmまでとした。モデル上端の形状は、陸域と鹿児島湾内については地形データを用いそれ以外の領域では海抜0 kmとした。媒質には深さにより剛性率の異なる水平成層構造を用いた。
有限要素法の計算では、これらの圧力源の表面にある内部圧力を与え、Hookeの法則に従って節点の変位を算出した。そのうえで、FlexPDE7の最適化機能を用いてモデル計算による地表の変位と観測値の残差二乗和が最小になる圧力源LSの内部圧力を探索し、その時の体積変化量と地表変位を求めた。
LSモデルによって計算された地表変位は、全体的には水平変位・上下変位ともにやや南北に伸びたほぼ同心円状のパターンを示し、茂木モデルから得られるものと大きく異ならない。観測点における水平および上下変位の観測値との平均二乗平方根残差は茂木モデルによる計算値のほうがやや小さいがほぼ同程度である。他方、圧力源LSの体積変化量は茂木モデルから推定される姶良カルデラ下の圧力源の体積変化量より約1.5倍大きい。
観測点ごとの観測値とモデル計算値の残差をみると、桜島内で茂木モデルのほうが水平変位の残差が小さい傾向が認められるが、姶良カルデラの東方や北方においてはLSモデルのほうが残差が小さい観測点が卓越する(Fig. 2)。
このように、最近の地震学的知見との整合性は高いと考えられる圧力源LSを用いたモデルによっても姶良カルデラ周辺の地盤変動を茂木モデルと同程度に説明可能であり、姶良カルデラ近傍、特に東方および北方の観測点では茂木モデルより観測値との残差が小さいことがわかった。一方で圧力源の体積変化量はモデルによって異なっており、LSモデルを用いると、姶良カルデラ下へのマグマ供給量は茂木モデルを仮定した場合より大きく推定されることになる。
謝辞:本講演は、原子力規制庁令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(火山性地殻変動と地下構造及びマグマ活動に関する研究)の成果の一部です。記して感謝いたします。
これまでに我々は、姶良カルデラ地下の深さ15km付近に扁平率の異なる回転楕円体圧力源をおいたときや、為栗ら(2022)が示した低S波速度領域の形状を模した多面体を姶良カルデラ下の地盤変動圧力源(以下、圧力源LS)としたときの地表の変位量を有限要素法を用いて算出し、これらのモデルでも地表変位を概ね説明できることを示した。今回、2017年11月-2022年11月のGNSS観測による水平変位と同時期に実施された水準測量による上下変位をもとに、圧力源LSを用いた有限要素法モデル計算(以下、LSモデル)と茂木モデルによる圧力源解析を行い比較検討した。
姶良カルデラ下の圧力源LSは、為栗ら(2022)の深さ10、15および20 kmのS波速度を按分して2.45 km/s以下の領域を抽出し、極端な凹凸を平滑化した多面体(Fig. 1)を用いた。また桜島南岳直下の深さ6.8kmに半径200 mの球形で体積変化量-3.9×10e6m3の圧力源をおいた。有限要素法の計算にはFlexPDE7を用いた。計算領域は、水平方向は姶良カルデラ中央部から東西南北に60km(Fig. 1の左図の範囲)、深さ方向は海抜-50kmまでとした。モデル上端の形状は、陸域と鹿児島湾内については地形データを用いそれ以外の領域では海抜0 kmとした。媒質には深さにより剛性率の異なる水平成層構造を用いた。
有限要素法の計算では、これらの圧力源の表面にある内部圧力を与え、Hookeの法則に従って節点の変位を算出した。そのうえで、FlexPDE7の最適化機能を用いてモデル計算による地表の変位と観測値の残差二乗和が最小になる圧力源LSの内部圧力を探索し、その時の体積変化量と地表変位を求めた。
LSモデルによって計算された地表変位は、全体的には水平変位・上下変位ともにやや南北に伸びたほぼ同心円状のパターンを示し、茂木モデルから得られるものと大きく異ならない。観測点における水平および上下変位の観測値との平均二乗平方根残差は茂木モデルによる計算値のほうがやや小さいがほぼ同程度である。他方、圧力源LSの体積変化量は茂木モデルから推定される姶良カルデラ下の圧力源の体積変化量より約1.5倍大きい。
観測点ごとの観測値とモデル計算値の残差をみると、桜島内で茂木モデルのほうが水平変位の残差が小さい傾向が認められるが、姶良カルデラの東方や北方においてはLSモデルのほうが残差が小さい観測点が卓越する(Fig. 2)。
このように、最近の地震学的知見との整合性は高いと考えられる圧力源LSを用いたモデルによっても姶良カルデラ周辺の地盤変動を茂木モデルと同程度に説明可能であり、姶良カルデラ近傍、特に東方および北方の観測点では茂木モデルより観測値との残差が小さいことがわかった。一方で圧力源の体積変化量はモデルによって異なっており、LSモデルを用いると、姶良カルデラ下へのマグマ供給量は茂木モデルを仮定した場合より大きく推定されることになる。
謝辞:本講演は、原子力規制庁令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(火山性地殻変動と地下構造及びマグマ活動に関する研究)の成果の一部です。記して感謝いたします。