日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC26] 活動的⽕⼭

2024年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

13:45 〜 14:00

[SVC26-13] InSARで検出した2007-2023年の硫黄島の急激な隆起とその物理的解釈:熱応力の影響

小船 勇魚2、*高田 陽一郎1 (1.北海道大学大学院理学研究院、2.北海道大学大学院理学院)

キーワード:硫黄島、InSAR、熱応力、有限要素法

硫黄島は小笠原諸島に位置する火山島であり,今なお世界で類を見ない活発な隆起運動が続いている.この隆起運動は主にGNSSや水準測量を用いて観測されており(e.g., Ueda et al., 2018),InSARを用いて隆起活動の時空間的変化を詳細に明らかにした例は無い.さらに観測結果を定量的に説明する物理モデルは未だに提案されていない.本研究ではALOS(2006-2011)およびALOS-2(2014-現在)が撮像したSARデータを用いてInSAR時系列解析を行い,2007年から2023年にかけての硫黄島の地殻変動の時空間発展を明らかにする.また,その地殻変動を定量的に説明する物理モデルを提示する.
InSAR解析からは島中央部の元山を中心としたすり鉢状の隆起速度場が検出された(図a).また速度場の東西成分からは元山付近を中心として収縮する傾向と,阿蘇台断層を境に東西へ伸張する傾向が観測された.この空間パターンは先行研究(Ozawa et al. 2010)が2006~2007年について報告した結果と整合的だが,速度・量ともにこれを大きく上回る.具体的には, 2007~2011年にかけて隆起速度は最大約1m/yr,累積隆起量は約4mに達した.また島西部で西向きに最大約0.2m/yr,累積変位にして約1mを検出した. さらに2014~2023年には隆起速度は約1.5m/yrに増加し,累積隆起量は最大で約12 mに達した(図a).島西部は最大約1m/yrで西向きに変位し,累積変位量は約5mに達した.このように硫黄島では世界的に例を見ない急激な変形運動が長期間継続していることを明らかにした.また島中央部と東端部の隆起量の時間変化を2007年から2023年までプロットしたところ,2016年後半から加速していることが分かった(図d)
次に有限要素法を用いてInSARにより検出した地表変位場の定量的な説明を試みた.まず防災科研成果発表会(2020)で提案された概念モデルを参考にして,コーンシート状のマグマだまりの増圧(10MPa)による地表変形を計算したが,観測されたパターンと異なり島中央部が最も大きく隆起した.次に硫黄島の地下深部にマグマの増圧に対応する圧力源(35 MPa)を設定し,同時に地下浅部に過去の火山活動によって貫入・孤立したマグマだまりを設定した.浅部マグマだまりの形状は回転楕円体,初期温度は900Kとした.熱伝導方程式を解いて媒質全体の温度場の時間変化を計算し,これに伴う熱応力を考慮に入れた運動方程式により地表変位場を計算したところ,浅部マグマだまりの冷却が進行するにつれて島中心部の隆起量は周縁部に比べて小さくなった.ALOS-2の撮像期間での累積変位を計算したところ, 観測値を概ね説明することができた(図b).島中心部と周縁部の隆起量の差は時間とともに急速に増大するため,これを説明するためには大きな熱膨張係数が必要となる.本研究で用いた値は7.5×10-5であるが,有珠山(Wang and Aoki, 2019)や伊豆大島(Furuya, 2005)においても同程度の値が得られている.観測値と計算値の不一致は南西部において顕著であり(図c),その原因は2023年10月に翁浜沖で噴火を引き起こした局所的なマグマ活動や,この地域に密集する小規模な活断層の運動によるものと考える.