17:15 〜 18:45
[SVC26-P03] 有珠山山頂域の土壌拡散CO2フラックスの繰り返し観測および深地温測定を合わせた火山性流体の流動経路推定
キーワード:有珠山、土壌拡散CO2放出率、深地温測定
火山地域における火山ガスは,噴気としての放出だけでなく火山体の土壌表面から拡散する形でも放出されている.拡散放出率の空間分布は地下の亀裂などの影響を受けるため,空間分布推定から火山ガスの流動経路を含む浅部構造についての情報を得ることができる.浅間山で行われた測定では,推定されたCO2フラックス値と地温の異常域と過去の火口縁の概形との対応から,火口縁に沿って伸びる亀裂からCO2と熱の放出が起こり,地表面のCO2フラックスおよび地熱異常域を形成していることが推定された(Morita et al., 2016).また,高温の火山ガスは深部からの熱輸送を伴うため,火山地域に広がる噴気地の近傍では,伝導と噴気移流またはその両方の影響を受けた熱輸送形態が地下浅部で見られる.地温の鉛直分布は各地点の熱輸送形態に影響を受けるため,地下1m深の地温の測定から地下浅部における火山性流体の流動様式を推定できる(江原・岡本, 1980).
本研究の対象地域である有珠山では,2000年噴火の前後に行われたCO2フラックス測定により,噴火の6ヶ月前に山頂域でCO2フラックス値の増加が確認されたことから(Hernández et al., 2001),CO2フラックスの変化が噴火予測の指標の一つとなりうる可能性が指摘されている.しかし,CO2フラックスと1m深地温の測定を組み合わせた研究は行われておらず,有珠山山頂地域における火山ガスや熱水流体の流動様式や流動経路を含む詳細な浅部構造は知られていない.そこで本研究は,有珠山山頂部の浅部構造と土壌ガスの放出様式の把握に向け,2020年から繰り返し観測されている CO2フラックス測定による時間変化の推定に加え,銀沼火口内での1m深地温の測定によって地温の鉛直分布を求め,山頂地域のCO2フラックス分布と浅部の熱輸送形態から火山性流体の流動様式や流動経路を推定することを目的とする.
CO2フラックス測定は,有珠山山頂火口域周辺で2023年5月と10月に2回行った.測定手法はチャンバー法を用いた.土壌拡散放出されたCO2をチャンバーと呼ばれる容器を地表面に被せて回収し,チャンバー内の濃度変化率を分光光度計で測定することでCO2フラックスを求めた.取得したデータは累積確率プロットにより,熱水系由来および生物呼吸由来のCO2放出を表す異なる対数正規分布に分離した.また,測定点間のデータを補間するクリギングによる空間データ推定を行い,CO2フラックスの空間分布図を作成し,測定地域全体のCO2放出率を求めた.2023年10月に行った1m深地温測定は,銀沼火口内部の21の測定点で50cm,75cm,1mの深さの地温を測定した.測定された地温は横軸に地温,縦軸に深さを取るグラフにプロットし,概形から各測定点の熱輸送形態が伝導か噴気移流であるかを推定した.
解析の結果,測定地域のCO2フラックスは銀沼火口周辺やI火口,北屏風山の一部以外の多くの地点では低い値を示した.CO2フラックスの空間分布は,5月と10月の測定で大きな変化は見られなかったが,時間変化について着目すると,10月の測定値は5月の測定値よりもやや高い傾向が見られた.また,2020年以降の同一測定点における対数CO2フラックスの値は±1程度の幅で変動しており,交互に増減を繰り返す測定点も見られた.一方,2000年噴火前後のCO2フラックス値と比較すると,最大値が大きく減少していることから現在の火山活動は活発でないと言えるが,今後の活発化に伴い最大値が数桁増加する可能性がある.
1m深地温測定では,銀沼火口の周縁部では高い地温と噴気移流による熱輸送,中央部では低い地温と伝導による熱輸送が見られた.伝導による放熱率とCO2フラックス値は弱い相関を示したが,25cm深地温との間にはやや強い相関が見られ,銀沼火口では噴気移流による熱とCO2放出が卓越していることが分かった.また,熱伝導による深さ方向への地温の上昇から, 地温が沸点に到達する深さの最大値を11.2m(銀沼火口中央部)と推定した.この値は銀沼火口形成後の地形図の比較から考えられる火口底の堆積物の厚さ約15mと近いことから,銀沼火口では噴火後に火口底へ流入した堆積物の底面が地下からの噴気により変質して漏斗状の不透水層を形成し,火口中央部では噴気放出が妨げられたと考えられる.そのため,噴気は漏斗状の不透水層の外側を上昇することとなり,周縁部でのみ噴気移流による火山性流体の放出が起こる,現在のような浅部構造が形成されたと推察できる.
本研究の対象地域である有珠山では,2000年噴火の前後に行われたCO2フラックス測定により,噴火の6ヶ月前に山頂域でCO2フラックス値の増加が確認されたことから(Hernández et al., 2001),CO2フラックスの変化が噴火予測の指標の一つとなりうる可能性が指摘されている.しかし,CO2フラックスと1m深地温の測定を組み合わせた研究は行われておらず,有珠山山頂地域における火山ガスや熱水流体の流動様式や流動経路を含む詳細な浅部構造は知られていない.そこで本研究は,有珠山山頂部の浅部構造と土壌ガスの放出様式の把握に向け,2020年から繰り返し観測されている CO2フラックス測定による時間変化の推定に加え,銀沼火口内での1m深地温の測定によって地温の鉛直分布を求め,山頂地域のCO2フラックス分布と浅部の熱輸送形態から火山性流体の流動様式や流動経路を推定することを目的とする.
CO2フラックス測定は,有珠山山頂火口域周辺で2023年5月と10月に2回行った.測定手法はチャンバー法を用いた.土壌拡散放出されたCO2をチャンバーと呼ばれる容器を地表面に被せて回収し,チャンバー内の濃度変化率を分光光度計で測定することでCO2フラックスを求めた.取得したデータは累積確率プロットにより,熱水系由来および生物呼吸由来のCO2放出を表す異なる対数正規分布に分離した.また,測定点間のデータを補間するクリギングによる空間データ推定を行い,CO2フラックスの空間分布図を作成し,測定地域全体のCO2放出率を求めた.2023年10月に行った1m深地温測定は,銀沼火口内部の21の測定点で50cm,75cm,1mの深さの地温を測定した.測定された地温は横軸に地温,縦軸に深さを取るグラフにプロットし,概形から各測定点の熱輸送形態が伝導か噴気移流であるかを推定した.
解析の結果,測定地域のCO2フラックスは銀沼火口周辺やI火口,北屏風山の一部以外の多くの地点では低い値を示した.CO2フラックスの空間分布は,5月と10月の測定で大きな変化は見られなかったが,時間変化について着目すると,10月の測定値は5月の測定値よりもやや高い傾向が見られた.また,2020年以降の同一測定点における対数CO2フラックスの値は±1程度の幅で変動しており,交互に増減を繰り返す測定点も見られた.一方,2000年噴火前後のCO2フラックス値と比較すると,最大値が大きく減少していることから現在の火山活動は活発でないと言えるが,今後の活発化に伴い最大値が数桁増加する可能性がある.
1m深地温測定では,銀沼火口の周縁部では高い地温と噴気移流による熱輸送,中央部では低い地温と伝導による熱輸送が見られた.伝導による放熱率とCO2フラックス値は弱い相関を示したが,25cm深地温との間にはやや強い相関が見られ,銀沼火口では噴気移流による熱とCO2放出が卓越していることが分かった.また,熱伝導による深さ方向への地温の上昇から, 地温が沸点に到達する深さの最大値を11.2m(銀沼火口中央部)と推定した.この値は銀沼火口形成後の地形図の比較から考えられる火口底の堆積物の厚さ約15mと近いことから,銀沼火口では噴火後に火口底へ流入した堆積物の底面が地下からの噴気により変質して漏斗状の不透水層を形成し,火口中央部では噴気放出が妨げられたと考えられる.そのため,噴気は漏斗状の不透水層の外側を上昇することとなり,周縁部でのみ噴気移流による火山性流体の放出が起こる,現在のような浅部構造が形成されたと推察できる.