日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC26] 活動的⽕⼭

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

17:15 〜 18:45

[SVC26-P05] 水凝縮の進行によって励起される火山性低周波地震

*中野 誠之1熊谷 博之1 (1.名古屋大学)

キーワード:火山性低周波地震、熱水系における凝縮過程、流体に満たされたクラック

熱水系が卓越する火山で観測される火山性低周波地震(LPイベント)は、減衰振動で複数のスペクトルピークを持つ波形を示す。更に、初動から減衰振動に至るまでの1秒程度には過渡的な振動(以下、過渡振動と呼ぶ)が見られ、ピーク周波数(f)は初動からイベント終了まで一定値を取る特徴がある。この中で減衰振動は、水蒸気・水滴混合流体(misty gas)に満たされたクラックの共鳴振動によるものと解釈されている(例えばKumagai and Chouet, JGR, 2000)。一方で、過渡振動は、どのような物理過程で生じるのか明らかにされていない。Taguchi et al. (JGR, 2018) は、初動が引き波であるという特徴から、クラック内に満たされた高温水蒸気がクラック端から急激に凝縮されることで振動が励起されたというモデルを提案した。しかし凝縮は瞬時に起きる現象であるため、過渡振動と凝縮過程にどのような関係があるのかは分かっていない。そこで本研究では、過渡振動の波形特性を調べることで、この振動が発生する際の物理過程を検討した。
 1992年8月8日に草津白根山で観測されたLPイベント(最低次ピーク周波数4.4 Hz)のランニングスペクトルを解析した結果、過渡振動中は広い周波数範囲に振幅の大きなシグナルが見られることが分かった。これは時間的に局在したインパルス的な励起の応答であると考えられる。そこで、ピークを持たない1–2.5 Hzでバンドパスフィルターを適用することでこの応答のみを抽出し、この波形と振幅・位相が良く一致する合成波形を、モーメント時間関数と地震モーメント(M0)を様々変えてフィッティングすることで推定した。その結果、継続時間0.5秒でステップ状にモーメントを減少させ、M0 = 109 Nmを用いて計算した合成波形は観測波形の振幅・位相とよく一致した。このM0に相当するクラックの収縮量ΔVeはおよそ1 m3であった。一方、中野・熊谷(JpGU, 2023)で減衰振動部分から推定した励起後のクラック体積Vおよびmisty gasのガス質量分率nはそれぞれおよそ200 m3と0.4であり、これらから励起前の水蒸気体積はおよそ400 m3と推定された。従って励起前後の体積変化ΔVはおよそ200 m3となり、ΔVeはΔVに比べてはるかに小さい値を取るという結果になった。この違いはパルス状の収縮後もクラックの収縮が継続するように凝縮が進行したと考えれば説明できる。上述の通り、fはイベントを通じて一定値を取るが、過渡振動中に凝縮が進行したのであれば、凝縮によって生成されたnの減少に伴ってfは変化しうる。そこで、fを一定に保ちながら凝縮が進行する過程がどのような条件で起きるのか検討した。fは解析式(Maeda & Kumagai, GJI, 2017)によれば、音速a、クラック長さL、crack stiffness (C)に依存する。ここでCは、周囲岩体のP波速度αと密度ρs、流体密度ρf、クラック厚さdを用いてC = 3(a/α)2(ρf/ρs)(L/d)と表される。αρsは一定であり、一連の振動中にクラック内の水の質量変化がないとすれば、a, ρf, Vnの値に応じて一意に決まる。一方、LL/dVとクラック幅Wに応じて、L/dが決まればLが決まるという関係にある。そこで、中野・熊谷(2023)の推定結果に基づいてW一定と仮定することで、nの減少によらずfを一定にするためのL/dnの関係を数値的に調べた。その結果、L/dnに逆比例する場合、fnによらず一定となることが分かった。
以上の結果はLPイベントが次のような過程で励起されることを示唆する。凝縮時には飽和条件を満たしているので、圧力と温度は変化しないはずである。クラック端で水蒸気の一部が急激に凝縮後、水凝縮の進行(nの減少)に伴ってクラックの体積が減少し、この時の流体圧力の増加分はクラック周囲の静岩圧とつり合うようにクラックを変形(L/dの増加)することで解消される。このように凝縮時に圧力と温度を一定に保つように過渡振動中は凝縮が進行し、その結果nの減少に伴ってL/dが増加するためfが一定となっていると考えられる。本研究の結果は、熱水系における凝縮の進行がLPイベントの発生に重要な役割を果たしていることを示している。