日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC26] 活動的⽕⼭

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

17:15 〜 18:45

[SVC26-P10] 御嶽山における周波数-ベッセル変換法による分散曲線の推定

*浅井 岬1前田 裕太1 (1.名古屋大学大学院 環境学研究科)

キーワード:御嶽山、地殻構造、地震波干渉法、周波数-ベッセル変換法、地震雑微動、分散曲線

1.目的
 御嶽山は中部日本に位置する成層活火山であり,火山内部の熱水活動や山麓領域での群発地震が特徴的である.又,過去に複数回の水蒸気噴火を起こしており,2014年9月27日の噴火は戦後最大級の火山災害をもたらした.このような火山活動を理解するにおいて,火山の地下構造に関する知見は非常に有意的であるが,御嶽山における地下構造探査の研究例は数少ない.そこで本研究では,御嶽山周りの地震観測点で得られた地震雑微動を解析し,地下速度構造を推定するにあたって重要となる分散曲線の推定を行った.
2.手法
 地震雑微動はランダムな波動場と見なせる.よって,地震波干渉法に基づけば,ある観測点ペアで得られた雑微動の相互相関関数(CCF)から,観測点の一方を震源,もう一方を観測点と見なしたグリーン関数を求めることが出来る.つまり,雑微動のCCFを計算することで両観測点間の地下構造を反映した数値的情報を得ることが出来る.
御嶽山周りに設置された43個の地震観測点で得られた波形記録を用いた.水平方向の最大観測点間距離は約42 km,解析したデータ期間は2019/01/01–2021/12/31の計3年間である.1時間単位の波形それぞれに対して雑微動のCCFを計算し,それら全てをスタッキングすることで最終的なCCFを得た.その後,CCFを周波数-ベッセル変換法(F-J法)に適用し,周波数-ベッセルスペクトログラム(F-Jスペクトログラム)を得た.F-Jスペクトログラムはカーネル関数の虚部の定数倍として近似されるため,分散方程式が満たされる際に正の無限大に発散する.よって,導出したF-Jスペクトログラムの特異点分布から,分散方程式を満たす雑微動の周波数-位相速度分布,即ち分散曲線を推定することが出来る.
3.結果
 求めたCCFをFig. 1に示す。ノイズ帯(黄色)とシグナル帯(赤および青色)のコントラストが強いことから、シグナル-ノイズ比が高いことが分かる。シグナル帯がV字状に連なるのは、観測点間距離が大きいほど観測点間の雑微動走時が大きくなることを示す。よって、本研究で御嶽山における雑微動のCCFを抽出することに成功したと言える。
 得られたF-Jスペクトログラム及びそのピーク点分布をFig. 2に示す.ピーク点は各周波数における極大点であり,これらを本研究における推定分散曲線とした.F-Jスペクトログラムは理想的な分散曲線と比べてやや幅をもつため,より精度の高い分散曲線を推定するためにはより幅の狭いF-Jスペクトログラムを求める必要がある.又,ピーク点分布から基本モードと第1次高次モードが確認されるが,第2次以降の高次モードは不明瞭である.分散曲線を用いた速度構造の逆解析を行う際,基本モードのみでなく高次モードの制約を課すことで,より精度が高い且つより深部までの速度構造の推定が可能になるため,高次モードをより明瞭に反映したF-Jスペクトログラムを求める必要がある.
4.考察と展望
 不均質構造上に配置された観測点を用いてF-J法を適用する場合,F-Jスペクトログラムは不均質構造内に含まれる局所的な成層均質構造それぞれの分散曲線を全て反映する.よって,幅をもつF-Jスペクトログラムの改善には調査領域の分割が有効であると考える.又,不明瞭な高次モードの出現は,F-Jスペクトログラムを計算する際の離散和による近似が原因であるとされるため,F-Jスペクトログラムの計算過程を改めることで高次モードがより鮮明に得られると考えられる.
 将来的には,精度を高めた推定分散曲線を用いて逆解析を行うことで御嶽山の3次元地下速度構造を推定する.この際,調査領域を分割して各サブエリアで1次元速度構造を推定するが,推定モデルの最大深度が最大観測点間距離に依存することから,サブエリア内での最大観測点間距離を10–25 km程度とする.このようにすることで,御嶽山地表から深さ1–5 km程度を最大深度とする速度モデルが推定出来ると考える.
5.謝辞
本研究はJSPS科研費JP19K04016の助成を受けたものである.本研究で使用した地震観測点は,名古屋大学,気象庁,岐阜および長野県,防災科研によって維持管理されているものである.データ解析においては,WIN System (Urabe and Tsukada, 1992),Seismic Analysis Code (Goldstein et al., 2003; Goldstein and Snoke, 2005),ymaeda_opentools (Maeda, 2022) を使用した.